暖炉の前に置いてある椅子に腰掛けたシエルさんは、私に視線を向ける。
「俺はスノーアッシュの民の一人」
「もっと詳しく教えてくれませんか……?」
「臣下ではなくて、トオルの個人的な命令によって動いている兵士だ。
これでいいか?」
「ありがとうございます……。分かりました」
どうやら私の質問に答えるのが面倒くさそうだ。
それでもめげずに聞きたかったことを話してみる。
「でも、もう一つ答えてください。
あのダイヤモンドのことです。
何の意味があって、私に渡したのか、理由を知りたいんです」
レトとセツナと別れる時、リュックに入れて持ってきたダイヤモンド。
大切な人には渡してもいいけど、それ以外の人には渡したくないと思う不思議な宝石。
このダイヤモンドが何なのか、ずっと気になっていた。
売ると高い値段がつきそうだけど、シエルさんはそういう意味で渡してきたんじゃないと思う。
もちろん、プレゼントでもないだろう。
真剣な表情を向けて答えを待っていると、シエルさんが鼻で笑った。
「そのダイヤモンドのことは、王子から直接聞いてみるといい。
俺に聞くよりもずっと面白いことになる」
「面白いとかそういう問題じゃないんですけど……」
「気軽に話せる王子が二人もいるだろ?
恋人のように仲良くしているところを見た」
「ちょっと……! プライベートまで監視しないでくださいよ。
じゃあ、聞き方を変えます。
どうしてシエルさんは、このダイヤモンドを捨てたんですか?」
貴重な物を雑に投げて、地面に落とすなんてことは普通しないはずだ。
「必要がなくなったからっと言ったよな」
「そうですけど……、ゴミみたいに投げていたから……」
「俺にとってはゴミだ。
……渡したかった人が、いなくなってしまったからな」
冷たい人だと思ったのに、なぜたまに寂しそうな瞳をするんだろう。
理由を聞こうとすると、シエルさんはドアを開けて出て行ってしまった。
地下の広い部屋にいるのは、私だけになった。
トオルは自分の家だと思って寛いでいいと言っていたから、今はその言葉に甘えよう。
晩御飯の時間になると、トオルの臣下が料理を運んできてくれた。
コーンスープとローストチキン、サラダとロールパン。
この世界にきてから一番豪華な料理だ。
味は想像通りで安心して食べることができた。
美味しい料理、猫足のバスタブがある浴室、ふかふかのベッド。
用意されていた服は、お姫様が着るようなふわりと広がるドレスとワンピースのルームウェア。
元の世界にありそうなもので可愛くてオシャレだ。
私だけこんなに贅沢をしていいんだろうか……。
レトとセツナに申し訳ない気持ちになってくる。
そして、トオルの考えていることが分からない。
本気で結婚を考えて歓迎してくれているのか、私に聞きたいことが重要な話だから慎重に扱っているのか……。
なぜ私にここまでよくしてくれるのか不思議だ。
でも、それは明日知ることができるはず。
花のようないい香りがするふかふかのベッドに入ってゆっくりと休んだ。
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