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〜赤葦視点〜
初めて明希に会った時のことはよく覚えてる。
なんでもいとことかよりももう少し遠い親戚らしいけど、面識もなかったし存在も知らなかった子が家族になると知らされた時。俺は特に何も思わなかった。来る子は赤ちゃんとかじゃないから俺の生活はそんなに変わらないと思ってたし、もしすっごい元気な子でも一緒にバレーすればいいかぐらいの気持ちだった。
でも想像してた子とは違って、その子はすごく女の子みたいで静かだった。髪の毛は腰ぐらいまであったし、肌は白くて腕は折れそうなぐらい細かった。そして何より何一つ話してくれなかった。
お母さんに「仲良くしなさい」って言われて話しかけに行ったりとか色々したけれど最初のうちは部屋にも入れてくれなかった。
お父さんがあの子は虐待されていたと言っていたけれど、当時小3の俺はそんなことわかんなかったから、とりあえず優しくすればいいのかとだけ思ってた。
一緒にご飯とか食べてるうちに、少しだけ話してくれるようになった。朝あってるテレビの話とか俺の学校での話とか。明希はその時環境に慣れることを優先してまだ学校には行ってなかったからちょっと面白そうに聞いてくれていた。
そんな話をしていくうちに、明希が昔バレーをしていたことが分かった。当時は俺の周りにバレーが好きな友達はいなかったし、クラブの子たちはみんな他校だったから疎外感があったのだ。俺はだんだん明希と一緒にバレーがしたいと思うようになってある日バレーに誘ってみた。
返事はOK。俺はその時からセッターで、明希はリベロ。ポジションが被ったりはしなくてラッキーだった。もし明希がセッターだったりしたら一緒にできないし。
次の日から俺の学校の放課後、近くの空き地でバレーをしようとなった。クラブは誘ったのだが、人が多いのは落ち着かないらしく断られた。
リベロとは言ってもこんな華奢な子が…と思っていた俺は、最初のスパイクを軽めに打った。それでも一応は初心者なら取れないぐらいのやつ。それを明希は普通に返した。あんまりにも驚いた俺はボールを持ってしまった。当時の俺…いや割と今もだけど、自分はそれなりに上手い自信はあったし実際そうだった。だからこそ俺のクラブのリベロとか、今まで対戦してきたチームのリベロはだいぶ上手かったけど、それは上級生の先輩の人たちだった。でも明希は俺の一個下。なのにその先輩たちと同じぐらいか少し上手いか?ぐらいのレシーブだった。
俺はこの時思った。「明希と一緒にクラブに入ったら絶対に凄いことになる」って。どうなるのかとかはちょっとよくわかんないけど。それでもどうしても明希をクラブに入れたいと思うぐらいにはなった。
それから2週間、俺の練習がない日以外は毎日明希とバレーをした。その期間で俺はセットもスパイクも割と上手くなったんじゃないかと思う。
今でこそセッターがスパイクで点を取るとすげーって言われる(主に木兎さんから)。でも小学生にとっては点を取ることが一番かっこいいから、地味職のセッターがスパイクをうつと陰で色々言われるからそれこそスパイクはしてなかったし下手だった。練習をしてからは割と上手にうてるようになったし明希と練習をやってみて良かったと思った。
その時期ぐらいから明希は学校に通い出した。そのタイミングで俺と同じバレークラブに入って、一緒に登下校とかもするようになった。明希は最初レギュラーには入れさせてもらえなかった。その時のリベロが6年生だったのもあるだろう。途中から入ってきた2年生の明希をリベロにする訳にはいかない。
けれどそんな事は全く考えていなかった明希はとにかくスタメンに入れるように練習をしていた。その結果クラブに入って三ヶ月、明希はレギュラーとして参加することができた。俺が3年生でレギュラーになったので驚かれてたのに、明希はもっと技術がいるポジションでしかも年下ときた。俺はこの子が弟であることを誇りに思うと同時に複雑な思いをもった、まぁ賞賛に対する嫉妬みたいな。その日の帰り道、明希は珍しく自分から話し出した。
『やっと一緒に試合出れるね』
側から見て明希はそこまでバレーが好きじゃない。多分バレーを人と関わる道具として見てるだけなんだと思う。だからこの一言を言われた時、少し自分が吹っ切れた。自分よりも才能がある明希。その才能に追いつかれたら次は追い越されるという変な思惑があった。けれどこの子はそんな事知らないと、俺とバレーをするためだけに練習をしてきたのだとすぐにわかった。
『そうだね。次の試合いつかな。』
そこからは俺もただただ仲間とのバレーを楽しむことにした。今までただ上手くなろうとしてたバレーと違って、人と協力とか意識すると、今までの何倍も達成感とかが込み上がってきて嬉しかった。
中学にあがっても俺たちは同じ部活に入った。もちろんバレー部。一時は俺が主将、明希が副主将でバレー部は赤葦ランドとも言われていた。それがいろいろバカらしくてよく笑っていたものだ。
つまるところ俺が本当にバレーにハマったのは明希のおかげだった。多分これはお互い様なんじゃないだろうか。バレーをしている明希は教室にいるときの数倍楽しそうだし。
でも最近の明希は違った。烏野のバレー部のメンバーに馴染めていないような感じで、基本的に話さない。小2の時とおんなじ感じだ。梟谷のバレー部のときは俺がいたから結構馴染めてたし、なんなら俺が1年のときに中3の明希はよく部活に顔を出しに来てたから割と木兎さんたちとも仲は良さそうだ。
「あっちゃーん、烏野どう?慣れた?」
「うーん…多分こーしいるんだよね。ほら前言ってた、僕がバレー始めたきっかけの子。」
「あーあの2個上の人だっけ?たしか東京くる前に色々あったっていう」
「そそ。だからなんか気まずいっていうか近づきにくくてねー。こーし君と距離とると他のメンバーはこーし君のこと大好きっぽいから割と浮くんだよねー」
「ありゃー、どうしようもない。まぁ少しずつ慣れればいいんじゃない?春高までにはさ。」
「そうだn「なー仲杜!!」
この声は多分…あの小さい10番の子だ。
「どうしたの日向くん」
「今スガさんたちと枕投げしてんだけど一緒にしねー?」
「あー、僕は今日梟谷の方で寝る。」
「え?なんで!?お前烏野じゃん!」
「いやそうだけど…兄ちゃんいるしたまにはこっち行く。」
「んぇ!?兄ちゃん?もしかしてこのセッターの人??」
「こんばんはー、赤葦です。」
「あかーしさん!よろしくお願いします!」
…この子は木兎さんと同じ属性だな。
「…とにかく僕たち行くから。楽しんでね。」
「おーす!またなー!」
そうして日向は明希に手を振って逆方向に走り出した。明希は割とああいうザ光属性!って感じの人は苦手だから木兎さんとも慣れるのに時間かかった。なんとなく烏野の空気感がわかる。
「ところであっちゃん。」
「なに?兄ちゃん」
「なんで仲杜なの?それ前の名字でしょ。赤葦明希でいいじゃん。」
「いやぁ…もちろんそうしたいけど僕は一応家業で宮城に戻ったわけだし、名字戻さないとダメなんだよねー。」
「ふーん。東京いつ頃戻るの。」
「年越し後ぐらいには帰るよ。多分二月よりあとぐらい。」
「だいぶ先じゃん…」
「それー。一人暮らししんどい。」
「どろうね。東京いつでも帰っておいでよ。」
「兄ちゃん僕のこと好きだよねー割と。」
「そりゃ兄ちゃんだし。」
「返事としておかしいよね」
そんなことを言われつつ俺らは梟谷教室に着いた。中では小見さんが木兎さんに、木葉さんと猿杙さんが鷲尾さんにスピードのルールを教えていた。とりあえず明希を教室の中にいれて布団をしくことにした。布団は俺の隣の窓際にして、とりあえずそこで駄弁ることにした。
「スピードやってみようよ兄ちゃん。」
「えまじ?俺得意だよスピード」
「知ってるよ。今回は勝つ。」
「言ったね。俺が勝ったら布団一緒に寝るからね」
「僕が勝ったらコンビニでシュークリーム買ってきてよ」
「え?外出禁止だけd「それが?」
「お兄ちゃん優しいから行かせていただきます」
「んじゃやろ」
「「スピード!!」」
ふっ…俺はこれでもスピードには自信がある。明希に負けるわけがない。申し訳ないけどここは勝たせてもらう…!
「はい僕のかちー。シュークリーム買ってきてね。明日でもいいけど」
「いや…途中俺のカード飛ばして妨害してたよね。卑怯だよ卑怯。」
「勝ちは勝ちだよ。諦めが悪いのはかっこわるいよ兄ちゃん」
「諦めます。」
「諦め早いね。とゆーかもう10時だしもうそろそろ寝ようかな。」
「早くない?いつも12時ごろまで起きてたじゃん。」
「烏野精神すり減って疲れるんだよー。別に悪い人たちじゃないけど僕がいるべき所じゃない気がしてさー。」
「…もう本気で梟谷戻ってくれば?歓迎するよ」
「僕も戻りたいよー。でもあと一年まって。」
「その頃には木兎さんたち卒業しちゃうじゃん」
「兄ちゃん何気に木兎先輩大好きだよねー。」
「?スターのことが嫌いな人っているの?」
「聞いたのが間違いだった。忘れて。」
「ま、合宿頑張れ。最終日焼肉あるし。」
「えほんと?聞いてない」
「ほんとほんと。楽しみだよねー」
「ちょっとやる気出たかも」
「あっちゃんはお肉好きだもんね」
「それこそ嫌いな人いるの?」
「それはそう。」
そんなことを言いつつモゾモゾと布団に入り出す俺ら。消灯時間の10時は過ぎているので電気はついておらず、木兎さんたちは奥の方でスマホのライトを使いながらトランプを続けている。廊下の向こうのほうから監督の気配がするが、とりあえず黙っておこう。