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︎︎◌芥敦
︎︎◌短編
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『冷めぬ想いが恋の鍵』
実に奇妙な部屋だった
扉も窓もなく、照明も無い
外の音も光も届かないくせに無駄に明るい部屋
まるで世界から切り取られたような密室
あるのは、大嫌いな”彼奴”と鍵の掛かったドアが一つだけ
──『キスしなければ出られない部屋』
意味が分からないほど悪趣味な異能だった
閉じ込められたのはわずか数時間
何かの冗談か、狂人の仕業か
けれど、『僕と芥川』は確かにそこに閉じ込められていた
忌むほどに毛嫌いし、殺意が湧いていた相手と
たった二人きりで、数時間
怒鳴り合い、睨み合い、部屋から出る為に異能までも使ったが
ドアは破れず、オマケに傷一つ付かない
やがて痺れを切らした芥川──
「面倒臭い」
低く、吐き捨てるような声
そして、顔を掴まれた
その瞬間触れ合った体温は
僕の想像とはまるで別物の、
熱を伴った、奪いようなキスだった
獣のような牙が僕ごと喰らってしまうように
激しくて────でも、溺れるように深かった
鍵がカチリと空いた扉の音も聞こえないほどに
芥川と僕の息が混ざる
唇が啄ばむように重なっては離れ
背に回された芥川の腕が、”逃がす気など微塵もない”と語っていた
酸欠で、目の前にちかちかと輝く星が見え始めた頃
銀の糸を引いて離された唇
扉が空いたことを確認できた芥川は
何事もなかったかのように背を向け、外へと出ていった。
それだけ、
たったそれだけの出来事だった
怪我もなし、犠牲者もなし
空気が戻り、音が流れ込み、世界が再び回り出す
けれど僕の中の何かは
まだ、そこに置き去りのままだった──────
時は早く、あれから数日
“あの事件”以降、探偵社の皆は
上の空な僕を見て
心配しているような、そんな妙な顔を僕に向けてくる(芥川と閉じ込められたという事情しか知らないが)
乱歩さんには三度目のため息をつかれ
太宰さんには意味深な言葉でからかわれ…
終いには国木田さんまで
“敦…無理にとは言わないが、今日は休め”
普段なら断って元気にお仕事を頑張る
しかし僕は国木田さんの問いにもぼんやりとし
『え?、ぁ…はい』と曖昧に返しながら
───僕は机に頭をぶつけた
流石の僕に、”只事じゃない”と慌てた国木田さんに
太宰さんが、まぁまぁと言いながらサボりがてら
僕を社員寮まで送ってくれた
────社員寮に帰ってもする事と言えば
散歩か、掃除か、はたまた昼寝か
しかし気づけば、黒いコートの背中が脳裏にちらつく
吐き捨てるような声音、冷たく睨む瞳
過去に受けた傷を忘れろと言われても無理なように
彼奴が僕につけた『苛立ち』は、容易く拭えるものじゃない
それでも、僕は
あの瞬間のことを、しきりに思い出してしまう
熱い吐息
絡み合う舌
熱を帯びた黒い瞳
本当に、本当にあの時のキスは、“ただの条件”だったのか?
あそこまで、執拗にしたのはなぜだったのか?
芥川龍之介──ポートマフィアの狗
僕と相容れないはずの男
「貴様など、生かしておく価値も無い」
そう言われたとき、心底腹が立った
なのに、どうしてだろう
あの唇が、僕に触れた瞬間のことを思い出すと、胸の奥が妙にざわつく
『……本当に嫌いだ』
呟いても、心は静まらなかった。
僕は珍しく一人で川辺に座っていた
何かがあるわけでも、面白いから来たわけでもない
ただ、帰りたくなかっただけだ
何もない空を見上げながら、芥川のことばかり考えている自分が情けなくて
そのとき、僕の視界に逆さまになった黒い影が覗き込んできた
「……人虎」
その声を聞いた瞬間、僕の身体は硬直した
『……芥…川?』
黒い外套を翻し、蒼白な肌を持つ男
変わらないはずの姿が、なぜかいつもより近く感じた
二人の間に流れる空気が、ひどく濃密だった
どうしてだろう
言葉では「嫌い」と言っているのに、胸の奥は少しも晴れない
それどころか、彼の声が耳に届くたび、心が跳ねるのだ
『──で何しに来たんだよ、…まさか……もう一度、キスでもしに?』
皮肉混じりに嘲笑した僕の言葉に
芥川の目が一瞬細くなった
そして次の瞬間、彼は静かに距離を詰めてきた
『な……何?』
「……貴様、本当は鍵が開いた音に気付いて居ただろう」
『……っ、は?』
「愚者め、”あの部屋”の時だ 扉の開いた瞬間、貴様は一瞬僕から目を離した」
黒々とした目が見抜くようにこちらを見てきた
芥川は見ていたのだ
────僕が “扉が開いたことに気が付いていたが、キスを受け入れた”事 を
「あれからずっと、貴様の顔が脳裏に張り付いて離れん
────心底気持ちが悪い」
その言葉に、いつもの棘は感じられなかった
『……僕、だって…ずっと……』
──言いかけて、口を噤んだ
言葉にしてしまったら、戻れなくなるような気がして
しかしふと思った
もう、戻る必要なんてないんじゃないか?
『…僕だって、同じだよ…
お前の顔なんて、思い出したくもないのに』
だけど思い出すのは
心配して駆け付けてくれた探偵社員でもなく
どれも芥川だらけで──
優しい静寂が広がった
『なぁ、芥川…なんであの時のキス、長かったんだ?
…僕の記憶違いだったら悪いけど』
「…だったら、あの時の様に試してみるか」
いつもは仏頂面な芥川が、この時笑った様に見えた
『っ…!? い、いじわるだなお前…!』
「笑止、 …貴様だけだ、敦」
『…………また閉じ込められたらどうする?』
芥川は答えなかった
答えの変わりは、暖かい唇
この間のような熱さも激しさもなく
ただ静かに、そっと寄り添うような優しさだった
『……鍵なんて、もう必要ないのに』
芥川は何も返さず、ただ僕を見た
想いが通じたのか、それともまだすれ違ったままなのか
それは、今の僕にはわからない
あの密室のように、閉じ込められてはいない
指一本分の距離に居て
多分想いも通じ合っていて
いつでも、踏み出すことはできる
……分からない、ではなく
その一歩が、恐ろしくてたまらないだけなのかもしれない
──それでも、いつか
この想いがハッキリと形を持つ時が来るのなら
そのとき、僕は────
彼のことを、何と呼ぶのだろう
コメント
15件
おしゃれ!!!✨✨ すごいすごい!!書き出しおしゃれすぎて、冒頭から虜です💓 芥敦好きだ🫶
芥敦に沼ってしまったじゃないか!!!どうしてくれるんだッ!!!! 検索履歴が「芥敦」だけになったじゃないか!!!!!!!
ごめんあまりの動悸で読んだ後画面閉じちゃった😉💦 もう無理いいいいいいいいいいいいい!!!!!!!!!!!!!!!😇😇😇😇😇😇 理想の芥敦すぎるよ!!!!これはいい芥敦すぎるよおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!💗💗💗💗💗💗 話の持っていき方がもうすごいすごいすごい☺️🫶💗最高です推しに推しカプを供給してもらうとかなんだよ天国通り越して黄泉の世界入りそうなんだけどどうにかしろや(暴論)