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冷めぬ想いが恋の鍵

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冷めぬ想いが恋の鍵

1 - 冷めぬ想いが恋の鍵

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2025年07月12日

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︎︎◌芥敦




︎︎◌短編




『冷めぬ想いが恋の鍵』

















実に奇妙な部屋だった



扉も窓もなく、照明も無い


外の音も光も届かないくせに無駄に明るい部屋




まるで世界から切り取られたような密室





あるのは、大嫌いな”彼奴”と鍵の掛かったドアが一つだけ















──『キスしなければ出られない部屋』




意味が分からないほど悪趣味な異能だった

閉じ込められたのはわずか数時間






何かの冗談か、狂人の仕業か





けれど、『僕と芥川』は確かにそこに閉じ込められていた




忌むほどに毛嫌いし、殺意が湧いていた相手と

たった二人きりで、数時間




怒鳴り合い、睨み合い、部屋から出る為に異能までも使ったが


ドアは破れず、オマケに傷一つ付かない







やがて痺れを切らした芥川──





「面倒臭い」





低く、吐き捨てるような声



そして、顔を掴まれた


その瞬間触れ合った体温は




僕の想像とはまるで別物の、

熱を伴った、奪いようなキスだった





獣のような牙が僕ごと喰らってしまうように

激しくて────でも、溺れるように深かった



鍵がカチリと空いた扉の音も聞こえないほどに




芥川と僕の息が混ざる



唇が啄ばむように重なっては離れ


背に回された芥川の腕が、”逃がす気など微塵もない”と語っていた



酸欠で、目の前にちかちかと輝く星が見え始めた頃




銀の糸を引いて離された唇


扉が空いたことを確認できた芥川は

何事もなかったかのように背を向け、外へと出ていった。









それだけ、

たったそれだけの出来事だった



怪我もなし、犠牲者もなし


空気が戻り、音が流れ込み、世界が再び回り出す







けれど僕の中の何かは


まだ、そこに置き去りのままだった──────


















時は早く、あれから数日





“あの事件”以降、探偵社の皆は



上の空な僕を見て

心配しているような、そんな妙な顔を僕に向けてくる(芥川と閉じ込められたという事情しか知らないが)





乱歩さんには三度目のため息をつかれ



太宰さんには意味深な言葉でからかわれ…



終いには国木田さんまで



“敦…無理にとは言わないが、今日は休め”




普段なら断って元気にお仕事を頑張る


しかし僕は国木田さんの問いにもぼんやりとし



『え?、ぁ…はい』と曖昧に返しながら









───僕は机に頭をぶつけた




流石の僕に、”只事じゃない”と慌てた国木田さんに


太宰さんが、まぁまぁと言いながらサボりがてら

僕を社員寮まで送ってくれた






────社員寮に帰ってもする事と言えば

散歩か、掃除か、はたまた昼寝か




しかし気づけば、黒いコートの背中が脳裏にちらつく





吐き捨てるような声音、冷たく睨む瞳


過去に受けた傷を忘れろと言われても無理なように


彼奴が僕につけた『苛立ち』は、容易く拭えるものじゃない









それでも、僕は


あの瞬間のことを、しきりに思い出してしまう





熱い吐息


絡み合う舌


熱を帯びた黒い瞳





本当に、本当にあの時のキスは、“ただの条件”だったのか?



あそこまで、執拗にしたのはなぜだったのか?








芥川龍之介──ポートマフィアの狗


僕と相容れないはずの男





「貴様など、生かしておく価値も無い」





そう言われたとき、心底腹が立った


なのに、どうしてだろう



あの唇が、僕に触れた瞬間のことを思い出すと、胸の奥が妙にざわつく




『……本当に嫌いだ』




呟いても、心は静まらなかった。












僕は珍しく一人で川辺に座っていた

何かがあるわけでも、面白いから来たわけでもない


ただ、帰りたくなかっただけだ


何もない空を見上げながら、芥川のことばかり考えている自分が情けなくて





そのとき、僕の視界に逆さまになった黒い影が覗き込んできた




「……人虎」




その声を聞いた瞬間、僕の身体は硬直した




『……芥…川?』





黒い外套を翻し、蒼白な肌を持つ男

変わらないはずの姿が、なぜかいつもより近く感じた







二人の間に流れる空気が、ひどく濃密だった




どうしてだろう



言葉では「嫌い」と言っているのに、胸の奥は少しも晴れない



それどころか、彼の声が耳に届くたび、心が跳ねるのだ







『──で何しに来たんだよ、…まさか……もう一度、キスでもしに?』


皮肉混じりに嘲笑した僕の言葉に

芥川の目が一瞬細くなった


そして次の瞬間、彼は静かに距離を詰めてきた



『な……何?』



「……貴様、本当は鍵が開いた音に気付いて居ただろう」



『……っ、は?』



「愚者め、”あの部屋”の時だ    扉の開いた瞬間、貴様は一瞬僕から目を離した」





黒々とした目が見抜くようにこちらを見てきた


芥川は見ていたのだ

────僕が  “扉が開いたことに気が付いていたが、キスを受け入れた”事  を





「あれからずっと、貴様の顔が脳裏に張り付いて離れん

────心底気持ちが悪い」






その言葉に、いつもの棘は感じられなかった




『……僕、だって…ずっと……』




──言いかけて、口を噤んだ


言葉にしてしまったら、戻れなくなるような気がして



しかしふと思った









もう、戻る必要なんてないんじゃないか?










『…僕だって、同じだよ…

お前の顔なんて、思い出したくもないのに』




だけど思い出すのは

心配して駆け付けてくれた探偵社員でもなく


どれも芥川だらけで──




優しい静寂が広がった






『なぁ、芥川…なんであの時のキス、長かったんだ?

…僕の記憶違いだったら悪いけど』




「…だったら、あの時の様に試してみるか」




いつもは仏頂面な芥川が、この時笑った様に見えた




『っ…!?    い、いじわるだなお前…!』




「笑止、     …貴様だけだ、敦」








『…………また閉じ込められたらどうする?』





芥川は答えなかった



答えの変わりは、暖かい唇




この間のような熱さも激しさもなく

ただ静かに、そっと寄り添うような優しさだった





『……鍵なんて、もう必要ないのに』








芥川は何も返さず、ただ僕を見た



想いが通じたのか、それともまだすれ違ったままなのか


それは、今の僕にはわからない






あの密室のように、閉じ込められてはいない



指一本分の距離に居て


多分想いも通じ合っていて


いつでも、踏み出すことはできる







……分からない、ではなく

その一歩が、恐ろしくてたまらないだけなのかもしれない




──それでも、いつか


この想いがハッキリと形を持つ時が来るのなら







そのとき、僕は────








彼のことを、何と呼ぶのだろう


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