コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
ディオンとリディアは、馬車に揺られていた。
先程から気まずい空気が流れており、リディアは、ひたすらに窓の外を眺めている。
こんな風に二人だけで出掛けるなんて初めてだった……と思う。そもそもリディアは余り外出はしない。勿論、夜会やお茶会などで誰かの屋敷に足を運ぶ事はあるが、今向かっている街に足を向ける事は殆どない。
ふと正面に座っている兄を見遣ると、足を組み目を伏せていた。
(こうやって見ると、睫毛長いな……本当、女性みたい)
男なのに、美人とか綺麗といった言葉がよく似合う。リディアは暫くディオンの顔を凝視している内に、心臓が早くなるのを感じた。心なしか顔も熱い気がする。
(風邪でも引いたのかも……帰ったらハンナに言って、薬用意して貰おう……)
「何? 言いたい事があるなら口で言いなよ」
「⁉︎」
リディアの視線に気付いていたらしいディオンは、目を開けると訝しげな表情をする。目を瞑っていたのに、気付かれるとは思わなかった。
「べ、別に?……けど、どうして私まで行かなくちゃいけないのよ」
誤魔化す様に投げかける。だが、そもそも何故ディオンと二人で街へ行かなくてはならないのか?とは思ってはいるのは事実だ。
リディアが聞いても、理由も目的も何も教えてくれない。本当に勝手な奴だ。
「何? 不満なの? どうせ大してやる事もなくて暇してる癖に、たまにはお兄様孝行しようとか思わない訳?」
「ない」
「全くお前は、薄情な妹だな」
言葉とは裏腹に、ディオンはどこか愉しそうに見えた。何時もの嫌味ったらしい笑みではなく、屈託のない笑みを浮かべる姿に、リディアも思わず頬が緩む。
街に到着するまでの間、暫し二人はたわいない話をして過ごした。
「可愛い」
街中のとある雑貨屋に連れて行かれた。中に入ると外観よりも広く大きい。沢山の雑貨品が所狭しと引き詰められて飾られている。
だが、兄にはまるで似つかわしくない。この空間は、全て可愛らしい物ばかりで構成されている。こんな場所に兄が用事があるとは、意外過ぎる……。まさか意外とこういった可愛らしい趣味がある、とか……お花とか、フリルとか、人形とか……人形を抱っこする兄か……怖すぎる……。
リディアは思いっきり頭を振る。
(変な想像をしてしまった……)
「お前、今失礼な事を想像しただろう」
まずい、バレている。リディアは笑って誤魔化すも、睨まれた。
「まあ、いいや。……グリエット家の管轄下に、教会と隣接している孤児院がある。毎月、寄付と子供達に贈り物を用意しているんだ。所謂慈善活動でね」
急に始まった、意外な話にリディアは首を傾げた。どうやらディオンの私物を買う訳ではなさそうだ。
安堵すると同時に、些か面白くない……揶揄ってあげようと思ったのに。口を尖らせる。
「これまでは、ハンナに適当に見繕って貰っていたんだが……まあ、お前も嫁の貰い手が無くなった訳だし? 実家にいるなら少しは役に立って貰おうかと思ってね」
嫌味を確りと混ぜながら説明をするディオンに、苛つきながらもリディアは関心を寄せる。これまで家の事には全く関わってこなかった。だからこれは役に立ついい機会かも知れない。
「予算はこれくらいだな」
だがディオンが提示した金額を見て、リディアは眉根を寄せる。正直リディアには物の価値や金銭感覚は持ち合わせていない。必要な物は全てハンナやシモン等使用人が用意してくれているし、ドレスなども仕立て屋が屋敷を訪問して作って貰っている。
買い物などは基本的に行かないし、仮に行った所でリディアがお金を払うなどあり得ない。付き添いの従者か、またはグリエットの名前を出せばそれで済む。リディアは欲しい物を指差すだけだった。後で屋敷に請求して貰うのだ。
「それって、どれくらい?」
「さあ?」
困ったリディアが尋ねるも、ディオンは意地悪い笑みを浮かべるだけで教えてくれなかった。本当にいい性格をしている……。