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店に入って暫くすると店主が出てきてディオンに話しかけてきた。
「これは、グリエット侯爵様。侯爵様自らお越し頂けるなんて光栄でございます」
明らかに媚を売っている店主を、適当に返事を返して遇らっている。ディオンが店主と話している間に、リディアは言われた通り贈り物を選び始めた。
リディアは、目に止まった商品の値札を確認していく。
「えっと、予算はこれくらいだから……」
用意する数は少し多めに見繕うらしく、五十個だ。リディアは頭を目一杯使い計算していく。だが、まるで合わない。
「これ、可愛い……え、高っ」
動物の人形を手にして、値札を確認するも意外と高くて、これでは完全に予算を超えてしまう。
「じゃあ、これは…………え……じゃ、じゃあこっちは」
やはり、かなり値が張る。リディアが良いなぁと思って手にする品はどれも高く優に予算を超える。戸惑いながらも次々に手に取るも、変わらず。これでは、いつになっても決まりそうにない。
「ねぇ。まだ、決まらないの?」
暫くして見兼ねたディオンが覗き込んできた。そして意味ありげに笑みを浮かべる。
「やっぱりね」
「何よ……」
「最初に言っただろう。予算はこれだけだって。それなのに、そんな高い品じゃ一体幾つ買えるんだよ」
今リディアが手にしていたのは、児童書だった。
「それにさ、本なんて一人一冊なんて必要ないだろう。順番に読めるんだから」
言われてみれば……確かにそうだ。
「それともっと大事な事、教えてやるよ。平民は皆が皆文字を読める訳じゃないんだよ。孤児院の子供達もそうだ。まあ、シスターが読み聞かせる事は出来るから、精々数冊あれば事足りる。それにそういった物は必要に応じて寄付金を使って、教会の人間等が用意している筈だから、わざわざこっちが買え与える必要はないよ。理解出来たかな? リディアちゃん?」
貼り付けた様な笑みを浮かべながら、まるで幼い子供に諭す様な口調で問う兄。頭にくると同時に、子供扱いされているのだと感じ、羞恥心が湧いてくる。
(でもそんな事、考えもしなかった……)
リディアは俯き加減になり、黙り込む。
「仕方ないなぁ。助け舟を出してあげようか。 ハンナは毎回、大体飴とかの日持ちする菓子を選ぶ事が多かったよ」
その言葉に店の隅にある棚を見た。確かさっき目を通したが、飴なんてと思い通り過ぎた。
「……でも、飴なんて」
「まあ、お前に取っては飴なんて、だろうね。 でもさ、平民にとっては、お前の言うこんな陳腐な飴玉一つでも買えない事もあるんだよ。だから、そんな風に言うべきじゃない」
リディアは目を見開き、息を呑む。ディオンの言葉が痛い程胸に突き刺ささった。こういう時、兄はやはり優しくないと思う。ワザと相手が傷付く言い方を選んでくる。昔からそれは変わっていない。
「で、どれにするの? 無難に飴にしておく?」
リディアは、少し考えると首を横に振った。
「やっぱり……動物の人形にする」
「それだと予算超えるけど?」
「超えた分は、私の給金から出すわ」
リディアだって働いている。しかも王妃付きの侍女なのだ。毎月結構な額は貰っている。だがお金の管理はシモン等に任せているので、自分が今どれくらい持っているのかは正直把握していない。それでも、この人形を人数分買うくらいなら出来る筈だ。
「はぁ……本当、お前は莫迦だな」
「なんでよ」
「それだと予算を決めている意味がないだろう」
莫迦と言われて腹が立つたが、何も反論出来ない。押し黙るリディアに、ディオンは話を続けた。
「始めに毎月って、話した筈だよ。一回きりなら幾ら出したって構わないさ。だが定期的に支援を続けるなら、予算を設けなければ幾らグリエット家だって破産するよ。お金はね、湯水の様に湧いて出てくる訳じゃないんだ。自分達の生活だってある。家には、シモンやハンナの様な使用人だって沢山いるんだよ。お前は彼等を路頭に迷わす気か」
ディオンの至極真っ当な言葉に、余りに無知で考えなしの自分が恥ずかしく虚しく思えた。これでは莫迦と言われても文句は言えない……。