コンコンコン。
…………。
コンコンコン。
…………んん?
「――アイナ様、おはようございます」
……んー?
目が覚めると朝だった。
うーん……、あれ? 今日はしっかり起きれなかったぞ……?
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「――それにしてもアイナ様が寝坊だなんて、珍しいですね」
宿屋の食堂で朝食をとる。
何だかんだで目覚めは良い方だったんだけど、今日は見事に寝過ごしてしまった。
「うー、面目ない。昨日は普通に寝たんだけどなぁ……。
ああ、寝る前にいろいろと試してたけど」
「試してたって、錬金術ですか? もぐもぐ」
「はい、思い当たること色々やっていたんです。
……目に見える成果は、とりあえずコレしかないですけど」
そう言いながら、アイテムボックスからリンゴジュースを取り出す。
「はい、ルーク。錬金術で、リンゴからジュースを作ってみたよ」
「本当に作ったんですか……? あ、頂いても?」
ルークは食事の途中、リンゴジュースに口を付ける。
「……おお、これは美味しいですね」
「ルークさん、わたしにもくださいー」
「えーっと……」
ルークがちらっとこちらを見る。はいはい、エミリアさんの分もありますよ。
「はい、エミリアさんの分です」
「ありがとうございます!
ごくごく……うん、美味しいですね! 爽やかな甘みが素晴らしい!」
評価は上々。リンゴだけでこんなに美味しくなるなら、単純にお得だよね。
「というわけで、旅先での美味しいジュースが約束されました。
……ところで、エミリアさんは『空箱の魔石(中)』の効果をご存知ですか?」
「中は30%ですね、小の2個分です。
ちなみに大であれば、45%になります」
「え? そうすると、小3個と大1個が同じ効果なんですか?」
「そうなりますね」
えぇー? 小が15%、中が30%、大が45%……。
覚えやすいけど、そんなものなんだ?
「ふーむ……。
小3個で中1個を作れるらしいので悩んだんですが、止めておいて良かったです」
「え? 『空箱の魔石(中)』を作れるんですか……?
あれって……作れるものなんですね……。すごいですね……」
ちなみに『空箱の魔石(小)』は金貨10枚、『空箱の魔石(中)』は金貨30枚、『空箱の魔石(大)』は金貨90枚ほどの値段らしい。
下位の魔石から上位の魔石を作って差額で儲ける……というのは出来なさそうだ。上手く出来ているなぁ……。
昨日は他にも、ユニークスキルの検証もやってみたけど――
……これが一番大きな収穫だったけど、そもそもユニークスキルの存在自体、二人には話をしていないからなぁ。
この話は、いつか必要になったときにするとしよう。
「それにしても、この宿屋は朝から肉々しいメニューだよね」
プレートに乗ったお肉を食べながら一言。
「朝食をしっかり取って、力に変えなければいけない街ですからね」
ルークも食べながら返事をする。
「そういえばアイナさん。金策って何をするんですか? もぐもぐ」
エミリアさんがお肉を美味しそうに頬張りながら聞いてくる。
「まだ何も決まっていないので、とりあえず冒険者ギルドに行って、何か依頼が出ていないか見ようと思ってます。
錬金術で何かを作って売るのも良いんですけど、私の場合はすごく目立ってしまうので」
「え? 目立つって、何でですか?」
エミリアさんがきょとんと聞いてくる。
「私が錬金術で何かを作ると、全部S+級になっちゃうんですよ」
「……それ、すごいですね……」
「クレントスではそれで目立ってしまいまして……。
そんなわけなので、何か依頼をこなして金策をするか、それとも別の何かを考えるか……ですね」
「アイナさん肝入りの、ガルルンの木彫りもまだ出来てないですしね」
「そうですねー。
でもあれだって、すぐに大人気になるとも思っていないので――
……というわけで、それ以外の方向で、です」
「そうしましたら、やはりまずは依頼でしょうね。魔物退治が多そうですが」
ルークが一旦、依頼の話に戻す。
「……魔物討伐となると、私は役立たずなんだよねぇ」
「そう仰らずに。後ほど冒険者ギルドで、全員の適正を考えて良いものを選びましょう」
「うん、そうだね。みんな出来ることは違うし。
いざとなれば、私もアイテムボックスと錬金術をフル活用して、豊かな休憩時間を提供するよ」
「やったー!」
「アイナ様……それは……いや、あの……?」
エミリアさんの反応は良かったが、ルークの反応はいまいちだった。
……何か思うところがあるのだろう。何となくは分かるよ、うん。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
冒険者ギルドは賑わっていた。
やっぱり筋肉隆々の人が多いのは街の性格のようだ。
「ふーん? やっぱり魔物討伐の依頼が多いねぇ」
掲示板を眺めていると、やはり目に付くのは魔物討伐の依頼だ。
「そうですね。近場は比較的安全なのですが、貴重な鉱石を採ろうとすると街から離れなければいけないんです。
そういった場所には魔物が棲んでる……という具合ですね」
なるほど。普通の鉱石は近場で採れる。いわゆる鉄とか銅とか、そういった一般的な鉱石だ。
この街の主力産業になっているのだが、これとは別に冒険者の手が必要になる鉱石があり、それが先の魔物討伐に繋がっていくのだろう。
「もしかして、オリハルコンとかミスリルも採れるのかな?」
「アイナさん、オリハルコンは自然界には存在しませんよ」
「え? そうなんですか?」
「はい。オリハルコンは神の金属。神の祝福により生み出されると言われています。
どこにあるかなんて、わたしは聞いたことがありませんね」
えぇー? そしたら神器なんて作れないじゃーん!?
……いや、それならオリハルコンは自分で作れば良いのかな?
そのための素材は、『英知接続』で調べることが出来るわけだし。
でも何か、あのスキルはあんまり使いたくないんだよなぁ……。
『空箱の魔石(中)』を調べるだけで頭痛がしたのに、それよりも明らかに難易度が高そうなオリハルコンなんて調べようとしたら……ああ怖い。
うん、ひとまずオリハルコンは後にまわそう。
「ちなみに、ミスリルは自然界にあるんですか?」
「ミスリルの鉱脈が出た、という話はたまに聞きますけど……。
その話が広がる前に、あらかた採り尽されてしまいますね」
「あるにはあるんですね。ということは、市場には流通している……?」
「一般の市場ではあまり見ませんね。時価ではありますが、かなり高額になりますし……。
それに、貴族がこぞって買いに走りますから」
「もし買うとなったら、貴族を相手に財力でのバトルが始まるわけですか……。
手持ちのお金すら無いというのに、それはきつい……」
……つまり、何よりも優先しなければいけないのは、結局は金策だ。
でも、金策中に一発逆転の夢を見てミスリルの鉱脈を探す……っていうのはアリかもしれないね。
「それじゃ、今日は何か軽い依頼を受けてみようか?」
「そうですね。それならこれはいかがですか?
それとこちらは、アイナ様が可能であれば……ですが」
ルークが最初に示したものは、魔物討伐の依頼だった。
私が可能であれば……と示されたものは、岩盤破壊の依頼だ。
……岩盤破壊?
「え? 私が岩盤を破壊するの? どうやって?」
「錬金術では爆弾が作れたかと思いまして……。
この依頼ならアイテムの納品ではないので、アイナ様の作る爆弾がS+級であっても問題ないかと」
……なるほど。
そういえば今まで薬ばかり作っていたけど、爆弾も錬金術で作れそうだもんね。
脱・お医者さん!
それにしても、爆弾かぁ……。
今までちょっと馴染みが無いアイテムだけど、材料は何がいるのかな?
どれどれ、『英知接続』――
……って、ダメダメ! あぶない、自然に使うところだったよ!!
ひとまず爆弾についてはどこかで実物を探して、それで作れるようなら、岩盤破壊の依頼も受けてみようかな?
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!