「あーら、ワンちゃん。かわいらしいお耳はどーしたの?」
リゥパの部屋。窓には月に照らされたルーヴァがおり、静かに部屋に戻ってきたリゥパにそう声をかけた。
「ワンちゃん言うな。外してきたわよ。って、なんで知ってるのよ!」
リゥパは1枚、バスローブのような羽織り物を着て、ルーヴァに話しかける。頭に着けていただろう動物耳は着けておらず、ムツキの部屋にひとまず置いてきたようである。
「嫌そうに言っているけど、さっきは嬉しそうにワンワン鳴いていたじゃない? ここにいるあーしにも聞こえるくらいにね。だから、きっと、つけていたんだろうなって思っただけよ」
ルーヴァは表情豊かだ。彼女はにやにやと笑っており、リゥパを小ばかにしている。しかし、リゥパはそれを特に気にも留めていない様子だ。彼女たちだからこその気の置けないやり取りである。
「え、ここまで聞こえていたの? ちょっと……いや、だいぶ恥ずかしいわね」
暗がりの中でも分かるくらいにリゥパは恥ずかしそうな表情をする。明るければ、その長い耳の先まで真っ赤になっていることが分かったことだろう。
「まあ、大丈夫よ。さすがにケット様とかがいる部屋の前だと消音魔法? ってので、聞こえなかったわよ。つまり、知っているのは、あなたたち4人とあーしくらいよ」
ルーヴァは一応、周りがどうなっているのかを確認していた。あまりにも聞こえてしまうようなら、注意にでも行っただろう。しかし、ムツキもそこまで彼女たちを辱めるつもりはなく、音を遮断する魔法をかけていた。残念ながら、ユウ、ナジュミネ、リゥパの部屋は施されていなかったようだ。
「ルーヴァだけならまあいいか」
「それで、解放されたわけ?」
ルーヴァの問いに、リゥパは両手を肩まで上げて、ひらひらと身体の横で振っている。
「……解放? そんなわけないでしょ?」
「まあ、そーでしょうね」
「そうよ。ちょっとばかり休憩をもらったの。たしかに、その、まあ、気持ちいいは気持ちいいんだけど、やりすぎるとバカになっちゃいそうだわ……」
リゥパは先ほどまでの情事を思い出して、ゾクゾクときたようだ。そのゾクゾクは不快ではなく、快楽の証だった。
「そーね。ムツキ様が本気なら、ユウ様含めて3人とも朝までにバカになっちゃうんじゃない? 語尾が取れなくなっちゃたりしてね」
「他人事だと思って楽しんでるでしょ?」
「そりゃ、そーよ」
ルーヴァがあまりにも笑っているので、リゥパまでつられて笑ってしまう。
「もう、ケダモノムッちゃんはすごいんだからね……。それでも痛くならないのが本当にすごい」
「あーし、そこまで聞いてないわよ? なに赤裸々に語っちゃってるの? だいたい、自業自得だからね。ムツキ様だってどんだけ優しくたって男だからね。あんだけ煽られたら、そりゃ分からせたくなるでしょ」
「あー、もう。分かってるってば」
「これに懲りたら、あまりムツキ様をからかわないことね」
ルーヴァはケタケタ笑っているが、リゥパはしくじったとばかりに小さく溜め息を吐く。しかし、嬉しい感じが隠しきれていない。
「本当、そう思うわ」
「まあ、あーたのおかげで、あーしもあーたもここの一員として早く馴染めているわ。そこはありがとうね」
「珍しいわね。ルーヴァが礼を言うなんて」
リゥパは驚いた様子を隠さずにルーヴァにそう言うが、ルーヴァは首を傾げる。フクロウのため、首の傾げ方で角度がものすごいことになっている。
「あーたがあーしに礼を言われるようなことを滅多にしないだけよ。フクロウ遣いが荒いんだから」
「悪かったわね……これからは……」
リゥパはルーヴァの方を向いて、真剣な眼差しで呟き始める。しかし、言葉はそれに続かなかった。
「にゃ! にゃ! ……旦那様、もうこれ以上は、ダメにゃ、ダメにゃー! もう……にゃー!」
「…………聞こえるわね、たしかに」
「…………まあ、こんな感じだわ、あーたもね。わん、わん、ってね」
ナジュミネの甘い声が響いてくる。ルーヴァもリゥパもしばらく硬直した。
「もう少し声を抑えるわ」
「まあ、それはともかく、これ以上差を開けられないように、早く続きに行ってきなさいな」
リゥパはどうやって声を抑えようか考えて頭を抱えているが、ルーヴァは気にした様子もなく、戻るように促す。
「そうね。ナジュミネには負けてられないからね」
「若い娘に嫉妬するなんてみっともなーい」
瞬間。リゥパの手のひらがルーヴァの首を掴む。
「何か言ったかな?」
「ご、ごめ、言い過ぎたわ」
「まったく、年齢だけは許さないわよ」
「はぁっ……はぁっ……。はいはい。早く行ってらっしゃいな」
ルーヴァはゆっくりとしっかりと呼吸をしながら、まるで追い出すかのように再度促す。
「それじゃ、またね、おやすみ」
「おやすみ」
ルーヴァは窓の外に浮かぶ月を眺める。やがて、ゆっくりと眠ることにした。
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