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瑠唯-るい-腐女子投稿頻度🐢
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brfr 赤紫 様
誤字脱字注意
日本語おかしい
雨の音が、窓を細かく叩いていた。
「……今日は、雨かぁ」
ネイロはカーテンの隙間から外を眺めながら、小さく呟いた。
今日は珍しく、ユエルが早く帰ってくる日だった。
二人は同じ歌い手グループに所属している。
ユエルはグループのリーダー。
人に頼ることが苦手で、何でも自分で抱え込もうとする。普段は冷静で、メンバーを引っ張っていく姿はどこか近寄りがたいほどかっこいい。
一方のネイロは、グループ最年長。
穏やかで、優しくて、メンバーの相談にもよく乗る。
歌も上手く、柔らかく響く声を持っていることから、ファンからは「歌のお兄さん」なんて呼ばれることもある。
そんな二人は、恋人同士だった。
「ユエル、何時くらいに帰ってくるかな」
時計を見る。
まだ少し時間がある。
ネイロはキッチンへ向かい、夕飯の準備を始めた。
今日はユエルの好きなものを作ろう。
そんなことを考えていたときだった。
――ピンポーン。
「……?」
インターホンが鳴った。
ネイロは手を止める。
「ユエル?」
けれど、ユエルなら鍵を持っている。
今日は買い物をして帰ってくると言っていた。
だから、インターホンを鳴らす理由はない。
もう一度。
――ピンポーン。
「はい……」
ネイロは玄関へ向かった。
モニターを確認する。
そして。
「…………」
息が止まった。
そこに映っていた顔を、忘れたことなど一度もなかった。
忘れたかった。
ずっと。
何年も。
もう二度と会わないと思っていた。
それなのに。
画面の向こうには――母親と父親が立っていた。
「……なんで」
声が震える。
身体が動かなくなる。
インターホンから、母親の声が聞こえた。
『ネイロ。いるんでしょう?』
「……」
『開けなさいよ』
ネイロは答えられない。
心臓が速くなる。
呼吸が浅くなる。
頭の中では、ずっと昔の記憶が勝手に蘇っていた。
――怖い。
その言葉だけが、頭の中を占領する。
逃げなければ。
そう思うのに、足が動かない。
『ネイロ!』
母親の声が大きくなる。
ネイロは震える手で、玄関のドアを開けた。
「……久しぶり」
母親が言った。
父親は何も言わない。
ただ、ネイロをじっと見ている。
その視線だけで、身体が強張った。
「……どうしたの?」
やっとのことで尋ねる。
「久しぶりに会いに来たのよ」
「……そう」
「家にも来ないし、連絡もよこさないし」
「……」
「親に対して冷たいと思わない?」
ネイロは俯いた。
何も答えられない。
「まあいいわ」
母親は勝手に家へ入った。
「それより、あなた歌い手やってるんでしょう?」
「……うん」
「お金、いっぱいあるんでしょう?」
ネイロの指先が震えた。
「……何に使うの?」
「そんなこと、あなたには関係ないでしょう」
「でも……」
「貸してくれればいいのよ」
母親は当然のように言った。
「久しぶりに会ったんだから、それくらいしてくれてもいいでしょう?」
「……僕にも生活があるから」
「あら」
母親が笑った。
その笑い方が、昔と同じだった。
「随分偉くなったのね」
「そういう意味じゃ……」
「じゃあ何?」
ネイロは黙る。
父親が初めて口を開いた。
「いくら持ってる」
「……」
「聞いてるだろ」
「……分からない」
「分からない?」
「……今すぐ出せるような金額じゃないよ」
父親の目が細くなる。
その瞬間。
ネイロの身体が昔の記憶を思い出した。
怒鳴り声。
閉ざされた部屋。
逃げ道を塞ぐように立つ父親。
幼い自分は、ただ俯いていた。
何をされるのか分からない。
分からないことが、一番怖かった。
父親が近づいてくる。
身体が固まる。
声が出ない。
助けて、と言いたかった。
けれど。
声を出したら、もっと酷いことになる。
そう思ってしまった。
そして、その夜の記憶は、今でも途切れ途切れにしか思い出せない。
ただ、恐怖だけが残っている。
自分の身体に触れられることへの嫌悪。
逃げられなかった悔しさ。
終わるまで息を殺していたこと。
そして翌朝。
何もなかったように振る舞わなければならなかったこと。
母親に気づいてほしかった。
けれど。
母親は助けてくれなかった。
それどころか。
『あんたが余計なことをするからでしょう』
そう言われた。
泣いたら怒られた。
怯えたら怒られた。
家の中で起きたことを誰かに話そうとしたら、もっと酷いことになると脅された。
だからネイロは、何も言わなくなった。
ただ黙って。
何でもない顔をして。
毎日をやり過ごすようになった。
「……ネイロ?」
母親の声で、現在へ引き戻される。
「聞いてるの?」
「……うん」
「じゃあ、お金出して」
「……」
「何黙ってるのよ」
ネイロは俯いた。
「……出せない」
「は?」
「ごめん。でも、無理だよ」
「なんで?」
「僕にも生活があるし……」
「育ててもらった恩を忘れたの?」
その言葉が胸に刺さる。
「……」
「親に金を出すのがそんなに嫌?」
「……嫌というか」
「何よ」
「……怖い」
気づけば、口から言葉が出ていた。
母親の眉が動く。
「怖い?」
「……うん」
「何が?」
ネイロは答えられない。
父親の視線を感じる。
それだけで、呼吸が苦しくなる。
「……帰ってほしい」
小さな声だった。
「何?」
「今日は……帰って」
「ふざけないで!」
母親が怒鳴った。
ネイロの肩が跳ねる。
「久しぶりに来てやったのに!」
「……」
「お金くらい出しなさいよ!」
「無理だよ……」
「じゃあ、何のために育てたと思ってるの!」
「……」
ネイロは耳を塞ぎたくなった。
その言葉を聞くたびに。
昔の自分が蘇る。
怒鳴られる。
叩かれる。
何かを失敗するたびに責められる。
そして、父親が近づいてくる。
あの夜。
何もできなかった自分。
助けてと言えなかった自分。
全部、自分が悪かったのだと思わされていた。
「……ごめんなさい」
ネイロが呟く。
「ごめんなさい……」
「だから何に謝ってるのよ!」
「分からない……」
「本当に昔から!」
母親の手が、ネイロの腕を掴んだ。
「……っ」
痛い。
けれど、その痛みより。
触れられたことそのものが怖かった。
身体が震える。
「離して……」
「だったら金を出しなさい!」
「……無理」
「この――!」
手が振り上げられる。
ネイロは反射的に目を閉じた。
その瞬間。
「――何してる」
低い声がした。
ネイロが目を開ける。
玄関に。
ユエルが立っていた。
片手には買い物袋。
表情は、今まで見たことがないほど険しい。
「……ユエル」
ユエルは買い物袋を床へ置いた。
そして、ゆっくりとネイロの前へ歩いてくる。
「その手、離してください」
「……誰?」
「ネイロの恋人です」
母親が鼻で笑った。
「恋人? あなたには関係ないでしょう」
「関係あります」
ユエルはネイロの前に立つ。
完全に庇うように。
「ネイロに手を上げることは、俺が許しません」
「家族の問題よ」
「家族なら何をしてもいいんですか?」
「……」
「お金を要求して、嫌だと言われたら暴力を振るう。それが家族ですか?」
ユエルの声は冷静だった。
けれど、その目は怒っている。
「あなたに何が分かるのよ!」
「何も分かりません」
ユエルは答えた。
「だから、ネイロ本人に聞きます」
振り返る。
「ネイロちゃん」
「……」
「帰ってほしい?」
ネイロは震えていた。
声が出ない。
ユエルは急かさなかった。
「ゆっくりでいい」
「……帰って」
やっと声が出た。
「帰ってほしい」
「……聞いたでしょう」
ユエルが家族へ向き直る。
「今日は帰ってください」
「でも――」
「帰ってください」
今度は、はっきりとした声だった。
しばらく睨み合ったあと。
母親が舌打ちした。
「……親に向かって」
「親でも、嫌だと言っている人間に無理やり何かをする権利はありません」
ユエルが言う。
父親が初めてユエルを睨んだ。
その視線に、ネイロの身体が震えた。
「……っ」
ユエルがすぐに気づく。
「ネイロちゃん」
「……」
「こっち」
手を差し出す。
ネイロは迷わず、その手を取った。
その瞬間。
父親が一歩近づいた。
ネイロの呼吸が止まる。
昔の記憶が一気に押し寄せた。
暗い部屋。
逃げられない恐怖。
父親の声。
触れられることへの嫌悪。
何度も「やめて」と思った。
けれど、声にならなかった。
自分が悪いのだと。
誰にも信じてもらえないのだと。
そう思い込まされていた。
「……ネイロちゃん!」
ユエルの声。
現実に戻る。
「大丈夫」
ユエルがネイロの前に立つ。
「俺を見て」
「……ユエル」
「ここは今の家だ」
「……」
「昔の場所じゃない」
ネイロは必死に息を吸う。
「俺がいる」
「……うん」
「もう誰にも、ネイロちゃんを傷つけさせない」
その言葉を聞いた瞬間。
ネイロの目から涙が溢れた。
「……怖い」
「うん」
「まだ、怖い」
「分かってる」
「……僕、大人なのに」
「大人でも怖いものは怖い」
「……」
「それに」
ユエルはネイロの手を握る。
「怖がることは、弱いことじゃない」
家族が出ていく。
扉が閉まる。
その音を聞いた瞬間。
ネイロの身体から力が抜けた。
「……っ」
「ネイロ!」
ユエルが抱き止める。
「大丈夫?」
「……分からない」
「座ろう」
ソファへ移動する。
ネイロは俯いたまま、震えていた。
「……ごめん」
「謝らない」
「でも……」
「何も悪くない」
「……僕、何もできなかった」
「できたよ」
「何を?」
「帰ってほしいって言えた」
「……」
「怖かったのに」
ネイロは目を伏せる。
「……ユエルがいたから」
「うん」
「一人だったら……言えなかった」
「じゃあ、これからは一緒に言おう」
「……一緒に?」
「うん」
ユエルはネイロの手を包む。
「嫌なものは嫌って言う」
「……」
「怖いものは怖いって言う」
「……うん」
「助けてほしいときは、助けてって言う」
「……できるかな」
「できるようになるまで俺がいる」
ネイロは俯いた。
しばらく沈黙が続く。
やがて。
「……ユエル」
「ん?」
「僕の昔の話……聞いてくれる?」
「もちろん」
「……重いよ」
「大丈夫」
「気持ち悪いかもしれない」
「そんなこと思わない」
「……」
ネイロはゆっくり息を吸った。
「僕ね」
声が震える。
「子どもの頃……父親から、普通じゃない触れ方をされてた」
ユエルの表情が固まる。
けれど、何も遮らない。
「嫌だった」
「……うん」
「すごく怖かった」
「うん」
「でも、誰にも言えなかった」
ネイロの目から涙が落ちる。
「母親に言ったら……怒られると思った」
「……」
「実際、母親は何も助けてくれなかった」
ネイロは自分の腕を抱く。
「父親から何かされたあと、僕が泣いてたら、母親に怒られた」
「……」
「『泣くな』って」
「……」
「『家族の恥になる』って」
声が掠れる。
「僕は……ずっと、自分が悪いんだと思ってた」
「ネイロ」
「もっとちゃんとしてれば」
「ネイロちゃん」
「もっと嫌われないようにしてれば」
「違う」
ユエルが言った。
「それはネイロちゃんのせいじゃない」
「……」
「絶対に違う」
ネイロが顔を上げる。
ユエルの目には、怒りがあった。
でも、それはネイロに向けられたものではない。
ネイロを傷つけた人たちへ向けられたものだった。
「俺、何も知らなかった」
「……うん」
「もっと早く知ってればって思う」
「ユエルのせいじゃないよ」
「でも」
「今、いてくれる」
「……」
「それだけでいい」
ネイロは泣きながら笑った。
「……本当に優しいね」
「ネイロちゃんにだけ」
「それ、ずるい」
「何が?」
「好きになっちゃう」
「もう付き合ってるだろ」
「……そうだった」
二人とも少しだけ笑った。
重かった空気が、ほんの少しだけ柔らかくなる。
「ねえ、ユエル」
「ん?」
「今日、一緒に寝てくれる?」
「もちろん」
「……手、繋いでて」
「うん」
「途中で離さないで」
「離さない」
「約束?」
「約束」
夜。
ベッドに入っても、ネイロはなかなか眠れなかった。
目を閉じると、昔の記憶が浮かんでくる。
けれど。
隣にはユエルがいる。
繋いだ手から、温かさが伝わってくる。
「……ユエル」
「起きてるよ」
「眠れない」
「そっか」
「昔のこと、思い出しちゃう」
「……うん」
「ごめんね」
「また謝った」
「……癖だから」
「じゃあ、今日から少しずつ減らそう」
「どうやって?」
「謝りそうになったら、ありがとうにする」
「ありがとう?」
「うん」
ネイロは少し考えた。
「……じゃあ」
握った手に力を込める。
「そばにいてくれて、ありがとう」
「どういたしまして」
「手、繋いでてくれてありがとう」
「どういたしまして」
「……僕を守ってくれて、ありがとう」
「……」
ユエルが少し黙った。
「どういたしまして」
優しい声だった。
ネイロは目を閉じる。
「……ユエル」
「ん?」
「僕、幸せになってもいいのかな」
「当たり前」
「過去があっても?」
「関係ない」
「傷が残ってても?」
「関係ない」
「怖くなっても?」
「そのたびに俺が隣にいる」
「……そっか」
ネイロは小さく笑った。
「じゃあ、幸せになってみる」
「うん」
「ユエルと一緒に」
「もちろん」
しばらくして。
ネイロの呼吸が少しずつ穏やかになる。
眠りにつく直前。
「……おやすみ、ユエル」
「おやすみ、ネイロちゃん」
「……大好き」
「俺も」
ネイロが眠ったあとも、ユエルはしばらく手を離さなかった。
過去は変えられない。
父親から受けた傷も。
母親に否定された記憶も。
何年経っても突然蘇る恐怖も。
全部を消すことはできない。
それでも。
これからの時間は、二人で作っていける。
ネイロが初めて「怖い」と言えたこと。
助けを求められたこと。
自分の意思で「帰ってほしい」と言えたこと。
それだけでも、十分だった。
そして翌朝。
「……ユエル」
「ん?」
「今日、ちゃんと歌えるかな」
「歌えるよ」
「どうして分かるの?」
「ネイロちゃんの歌、ずっと聞いてきたから」
「……そっか」
ネイロは微笑んだ。
まだ少し目元は赤い。
それでも。
昨日より、ほんの少しだけ顔を上げている。
「じゃあ、今日も歌おう」
「ああ」
「みんなが待ってるから」
「うん」
ネイロは立ち上がった。
そして、ユエルの手を取る。
「……一緒に行こう」
「もちろん」
二人は並んで歩き出した。
過去から逃げるためではなく。
過去に人生を決めさせないために。
ネイロの歩幅に合わせて、ユエルが隣を歩く。
急かさない。
置いていかない。
ただ、隣にいる。
それだけでネイロは、少しずつ前を向ける気がした。
「ねえ、ユエル」
「何?」
「今日の帰り」
「うん」
「一緒にご飯食べよう」
「いいよ」
「そのあと、歌の練習もしたい」
「付き合う」
「……ありがとう」
「今のは?」
「え?」
「ありがとうって言った」
「あ……」
ネイロが少し笑う。
「じゃあ……嬉しいから」
「うん」
「嬉しいって言えるようになったのも、ユエルのおかげ」
「それならよかった」
ユエルも笑った。
二人の手が、もう一度重なる。
その温もりは、過去を消すものではない。
けれど。
これから先、ネイロが一人で震えなくていいように。
暗い記憶の中に戻りそうになったとき、今ここにいることを思い出せるように。
確かな温度として、そこにあった。
――もう、大丈夫。
全部が大丈夫になったわけじゃない。
それでも。
少なくとも今は。
自分を大切にしてくれる人が、隣にいる。
ネイロはそのことを、ゆっくりと心に刻んだ。
コメント
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このエピソード、めちゃくちゃ重かった……でもユエルが帰ってきてくれて本当に良かった。母親が手を振り上げた瞬間、ユエルが「何してる」って止めたところ、ドキドキした。ネイロが「帰ってほしい」ってちゃんと言えたのも、すごい一歩だと思う。ユエルの「怖がることは弱いことじゃない」って言葉、すごく染みた……。まだ両親とのことは片付いてない感じがして続きが気になるけど、ネイロが少しずつ幸せになれますように🌙