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「一線引いてたって言ったじゃん、あのとき」

結城の上に乗りながら、麻里子はその引き締まった腹筋に両手をついた。

「それって、エッチするときも?」

擦り上げるように腰を前後に動かす。

「はは。絶景ですね」

言いながら結城が下から手を伸ばし、柔らかい胸を揉みしだいた。

「質問に答えてない~」

「そう?」

結城は肘をついて上体を低く起こすと、唇を窄めた麻里子の後頭部に手を回し、キスをした。

唇の柔らかさを確かめるかのような、ついばみ、咥え、甘く歯を立てる。

その優しさとは対照的に、逃がすまいと頭を包む手の強さに、堪らなく切なくなる。

唇を合わせたまま、腰を前に滑らせ、少し身体を浮かせる。

「ちょ……麻里子さん」

「ん?」

「まだしてないですって」

「何を?」

「だから――――」

麻里子は結城の顔を覗き込む。

「する必要、ある?」

「————んな、いきなり…」

戸惑うその顔を見ていたら、面白くなってきた。

「おい!往生際が悪いぞ」

「————う」

ぬかるんだそこに擦り付けられて、結城が快感に耐えながら頭を垂れる。

「ーーーどうする?」

結城はその動きを封じるように麻里子の細い腰をつかむ。

その手を引きはがすと、顔の両側についた。

「今日は積極的ですね」

お手上げ状態で結城が笑う。

「私もね、遠慮はしないことにしたの」

言いながらなおも強めに体の中心を擦りつける。

「好きだよ」

「ーーー俺もですよ」

「ホントに好き」

「俺もだって」

「ーーーちょっとだけ。ダメ?」

切ない顔で見下ろす麻里子を、結城が苦笑して見上げる。

「それって、普通男が言うんじゃないんですか」

「ーーー先っちょだけだから」

ふざけて言った麻里子の言葉に我慢できず結城が吹き出す。

「それもヤローの台詞です」

押さえつけられた手を簡単に押し返すと、結城は身体を起こした。

結城の肩に手を回し、麻里子は視線を落とした。

その接着部を二人で見つめる。

先に視線を上げたのは結城だった。

「ーーーいいの?本当に」

麻里子も視線を合わせる。

「いいよ。本当に」

腰に回された結城の手に力が入る。

熱くて硬いものが麻里子を突き刺す。

麻里子は結城の首に抱きつき、熱い息を吐いた。

その白く細い指には、結城と揃いの銀色のリングが光っていた。


【Ⅰ】営業課 ~麻里子の場合~ (後編) 完

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