テラーノベル
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王城での謁見は、予想外の方向に進んでしまった。
いや、私が迷い子であることを明かすのは、あらかじめ考えてはいたんだけれど……
ライオネル殿下とジェロームお兄様、二人は一体何を口走っているんですか???
おかげで、もう、帰りの馬車の中で顔を上げられない……!
元々お母様の顔は正視出来ないと思っていたけれど、お兄様の顔も、お父様の顔さえも、まともに見れないというか……顔を上げるのすら恥ずかしい……。
「まるで庭に咲いたカーネーションのような色だな」
ガタンゴトンと揺れる馬車の中。
お父様はそんな私を見て、声を上げて笑っていた。
うぅぅ……。
「もう、そんな風に揶揄わないであげてください。殿方からの求愛は、年頃の女性にとっては一大事なのですから」
そんなお父様を、お母様が窘めている。
……お母様、怒っていないのかしら。
声を聞いた限りでは、いつも通りのお母様に聞こえるけれど……。
怖い。
怖くて、顔を上げられない。
これで目が合って、他人を見るような視線だったらどうしようって……そんなことを考えてしまう。
お母様は優しい人だ。
それは知っているけれど、自分が隠し続けてきた真実を思えば、怯えてしまうのは仕方が無い。
「まったく、これからは王城にルーシーを近付けないようにしないと」
お兄様はと言えば、いつも通り……なのかなぁ?
ライオネル殿下に対し、すっかり警戒心を抱いてしまったようだ。
「そうねぇ……殿下も悪い子ではないと思うのだけれど、ルーシーの気持ちが一番大事だし……」
お母様も、どうしてこの状況でさらりとお兄様の話に乗っているのですか。
分からない。
お母様が今何を考えているのかが、分からないよ。
顔を上げる勇気も出ない。
「やっぱり、ジェロームとルーシーが一緒になるのが一番よね!」
「えええええ!?」
そう思っていたのに、お母様の口から飛び出た爆弾発言に、思いっきり顔を上げて声を上擦らせてしまった。
「ねぇ、貴方もそう思わない?」
お母様はどこか上機嫌な様子で、お父様に話を振っている。
お父様ったら、困ったように目を逸らしているわ。
お母様……怒っていないの?
私が自分の子供ではないと知ったのに……
どうして、そんなに普通で居られるの?
あまりにいつも通りなお母様の様子に、どうしてか、じんわりと目の端が熱くなってきた。
「そうすれば、ルーシーだってずっと家に居られて……って、あら」
名案だとばかりに手を叩いていたお母様が、ふとこちらに視線を向ける。
真っ直ぐに私を見つめる、深い海の色をした瞳。
ああ、お兄様と同じ色だ。
日埜和なこ
213
#女性向け
常陸之介寛浩
840
黒猫ている
2,077
#ハッピーエンド
黒猫ている
502
ぽろり……と、涙が頬を伝う。
私の向かい、お父様の隣に座るお母様が、身を乗り出して私の頬をそっと撫でた。
「どうしたの、ルーシー」
「どうしたの……も、何も……」
喉がひりついて、声にならない。
両眼から、ボロボロと涙ばかりが溢れてくる。
「あらあら、どうしたのかしらこの子ったら……」
「ルーシーを泣かさないでください、母上」
ぐいと身体が引き寄せられて、隣に座るジェロームお兄様の腕にすっぽりと抱かれる。
「ちがっ、お母様のせいじゃ……」
首を振ってお兄様の腕から逃れようとしたけれど、がっしりと肩を抱いた腕は、とても振りほどけそうにない。
「じゃ、どうしたんだ?」
「だって……」
「だって?」
私の言葉を待って、お母様が首を傾げている。
私がこの世界に来て、約十八年。
お母様の美貌はいまだ衰えを知らない。
こんな素敵な人を、お母様と呼べるだなんて……今思えば、なんて幸せなんだろう。
「私、ずっとお母様のことを騙していたから……!」
その幸せが、崩れてしまうかもしれない。
そう思うだけで、怖かった。
次々に涙が溢れて、今ではもう、お母様の輪郭さえ定かではない。
お兄様がぐいと引き寄せるものだから、お兄様の服で涙を拭っているみたい。
それでも涙は止まらなくて、両眼から零れ続けている。
「ルーシーが騙したも何も、騙したとしたら、この人だと思うのだけれど……」
お母様が、さらりと言った言葉。
朧気ながらにお母様が指さす方向を確認したなら……。
「わ、私か!?」
「そうよぉ。他に誰がいるの?」
動揺するお父様に、お母様がビシッ! っと指を突きつける。
「言葉を喋れない赤ん坊のルーシーが、騙しようもないじゃない。私を騙していたとしたら、貴方だわ」
「確かに」
お母様の言葉に、お兄様まで頷いている。
え、二人はそう思っているの……?
「し、仕方ないだろう、あの時はああするしか……」
「あーら、一言くらい相談してくれても良かったのに」
お母様は拗ねたように言うけれど、本気で怒っている訳ではなさそうだ。
むしろお父様に甘えて、お父様を悪者に仕立て上げているみたい。
……そうすることで、私の気持ちを軽くしようとしてくれているのかな。
お母様らしいや。
どこまでも優しくて、どこまでも温かい、私の家族。
「……本当言うとね。なんとなく、そうじゃないかって思っていたの」
「え……?」
ぽつりとお母様が零した言葉に、今度はこちらが首を傾げる番だった。
「ルーシーったら、時々凄く申し訳なさそうな顔をするんだもの。ああ、何かあるんだろうな……って、察してしまうじゃない、そんなの」
考えてみれば、当たり前の話なのかもしれない。
皆から迷い子ではないかと疑われていた時……お母様だって、その疑惑を耳にしていたはずだ。
ティアニー公爵家の夫人が、情報に疎いはずもない。
お母様が疑問を抱く機会なんて、何度もあったはずだ。
「でも、貴女が実の子だろうと迷い子だろうと、そんなことはどうだっていいのよ」
いまだ涙に濡れた私の頬を、お母様の指先が撫でる。
「何年貴女の母親をやってきたと思っているの。血が繋がっていようがなかろうが、大事な娘なことに変わりは無いんだから」
「お母様……」
そんな風に言われたら、ほら、また涙で前が見えなくなってくる。
「う……」
もう、無理。
こんなの、我慢出来るはずがない。
「お母様ぁぁぁ!!」
私はお兄様の手を強引に振り解くと、お母様の膝に抱きつくように顔を埋め、泣きじゃくった。
「あらあら、甘えん坊なんだから」
お母様の優しい手が、髪を撫でる。
ずっと、怖かったんです。
貴女に嫌われるのが。
貴女はそんな人じゃないって分かっていたのに、それでもなお嫌われたらどうしようって、不安を抱き続けてきた。
その恐怖から、一気に解き放たれた気分。
優しい手に、ゆっくりと解されていく。
「ねぇ、お母様……」
「なぁに、ルーシー」
声を掛ければ柔らかな声音で返ってくるから、つい、甘えたくなってしまう。
「今夜は、一緒に寝てもいい?」
「もちろんよ」
……良かった。
言いたかったこと。
言えなかったこと。
これまでの想いを、たっぷりと言葉にしよう。
きっと、お母様なら全て受け止めてくれるから……。
「母上ばかり、羨ましい……」
「ジェローム、貴方はもう少し我慢を覚えなさい」
それはそれとして、私が迷い子であることを公表してからのお兄様……ちょっと壊れすぎじゃないかしら???
コメント
1件
もうマジでお母様が尊すぎて泣いた😭💕 「血が繋がってようがなかろうが大事な娘」って…それだけで10回は読み返したわ!! ルーシーがずっと怖がってた秘密、全部お母様は知っててそれでも変わらず愛してくれるのズルすぎるでしょ🥺💖 お父様を悪者にしつつルーシーの気持ち軽くしようとするお母様の優しさにやられた〜! ジェロームお兄様の過保護っぷりも炸裂してて笑ったけど、家族愛が溢れてて心があったかくなったよ⋆♡