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思考が、フリーズする。口がぱくぱくと開いて、喉の奥が渇き、言葉が……出てこない。
涙すら湧いてくる。――違うのか? きみが本当に愛しているのは――
「違うんです。広坂さん。ごめんなさい」広坂の反応を見て取ってか、夏妃が補足を加えた。「わたし、あなたと……。
愛するあなたと、七月七日に、恋愛結婚をしたい。
それが、わたしの、答えです。
愛しているから……大好きだから……」
「ああ! 夏妃ぃっ……」広坂は夏妃を抱き締めた。「もう! なんて焦らしプレイなんだ! おにーさん、一瞬どーしようかと思ったぜ……まったく」
彼女の顎先を摘まみ上げると、上向かせ、「そんな悪い子にはお仕置きだ――」
先ず、ちょっとだけ口づける。鳥が餌をついばむような軽いキス。それだけで彼女は十分に欲情するはずだ。案の定、確かめれば彼女の頬は紅潮する。――感じている証拠だ。
荷物を引っ掴み、もつれあうように部屋に飛び込む。ふるえる、鍵をあける夏妃の手つきがリアルだった。焦るほどに求めている。
玄関に入るなり、鍵をかけて、薔薇の花束やプリンを置くと、広坂は夏妃のあまい唇を貪った。もうひとつの唇も大好物だが、こちらはまた違った感触がする。――ほんの数日離れていただけだというのに、恋しくて恋しくてたまらない。切なかった。いま、彼のこころを満たせるのは夏妃という女神だけ。ほかのなにでも満たされない。どんなに上質なベッドであっても。
室内を確かめると一瞬眩暈がした。まさに、密封空間。いや大丈夫、と彼は気を強く持った。大丈夫、夏妃が一緒なのだから……。追いすがる恐怖症を振り払い、彼は彼女の靴を脱がせると、夏妃を姫抱きにし、布団へと運ぶ。衣類は床に散らばっており、敷き布団は敷きっぱなし。ミニテーブルにはカップラーメンの残骸が。その荒みっぷりで、夏妃の精神状態が把握出来た。
「えーと広坂さん、ごめんなさい」彼女は広坂が見たものを理解したらしい。「すみません、あの、いますぐ片づけますので、ちょっとお待ちいただけ――」
「――ません!」有吉ゼミの誰かを参考に遮り、麗しい彼女の唇を塞いだ。「おれは、きみが欲しくて欲しくてどうしようもないんだ。火傷しそうなくらいに、きみを求めている」
「せ、めてあれだけは……」愛撫を開始してやると彼女は小さく泣いた。「や、め、……首、首ぃっ……」――全身がほぼ性感帯。仕込んだのはおれだ。たっぷりときみに、教え込んであげるよ……きみが、どれだけ愛されているのかを。
「ひ、ろさか、さ……ん、わたし」広坂の情熱的なる攻勢に、夏妃が華奢な肩を震わせ、透明な涙を流す。「あの、わたしまだ……言ってないことが……」
「ああそうだったね。『二つ』って言ってたっけ? 契約の破棄とリスタートで二つだと思ってたよ」やわらかな乳房を揉みながら広坂。「それで、なぁに? 教えて……?」
「なかに、出して欲しいんです」
広坂の手が止まった。あのね、わたしは……と夏妃は、息を吸うと一息に言い切った。広坂の知らない強気な女王様が、
「――あなたが『あんなこと』を言うから。ここはあたしの部屋なんだからあたしのことを思い切り乱してやって、それで、存分に膣内射精するの。それで、何度も何度も狂わしてあたしのことを、全身、精液と愛液まみれにして。恍惚としたあたしはあなたのぶっといペニスを頬張り、ああ譲さんのこれ大好き、とか言いながらアヘ顔を晒すのよ。可愛い可愛いあたしの顔をね」
精密なる再現に、笑った。記憶力抜群の特権は、なにも自分だけに許されたものではない。挙句『ぶっとい』なんて表現が足されている……。
広坂は、愛する者の髪を撫で、
「可愛いお姫様。……夏妃。――愛している。
きみの望みならばなんでも叶えてやる。例え、月に穴をあけてと乞われようともね」
さあ、男としての価値が試される。あまりの興奮に身震いを感じた。しかし、反対に思考は澄み渡っている。さあ――暴れてやろう。どこまでも冷静に。
ゆっくりと、丁寧に、脱がしていく。あまりの恋しさにペニスが痛い。しかし、それは幸せの痛みであった。もし彼女と会えなかったら、この痛みを知らずに済んだのかもしれない。彼はそれを選ばなかった。
なにも身につけぬ彼女の肢体は、カーテンから漏れる薄いあかりに照らし出されており、広坂を、そそった。――おいおい遮光カーテンじゃないのか。この間取りだと朝が辛いんじゃないか? 広坂は心配になった。
されど、いまは心配ではなく情愛を示すべきとき。燃えるような彼女の目線を受け止めながら広坂は脱いだ。そして――愛する女を見据えた。
夏妃は、……泣いていた。静かに泣く女だと思った。あのときはあんなに乱れるのに……あの甘ったるい嬌声で、おれのなかをかき混ぜて欲しい。このとき、広坂は女になりたいと思った。最愛の男を胎内に受け入れるのはどんなだろう……膣内で射精されるのはどれほどの快楽をもたらすのだろう。興味が湧いた。
「夏妃……愛している」
すん、と彼女が鼻をすすった。いやいやここは鼻を気にする場面ではない。ちょっと笑いながら、広坂は、彼女のためにティッシュを取ってやった。顔を背けてこっそり拭う様が――愛らしい。
背後から抱きついて彼女の胸を揉んだ。「あ――や、広坂さん……んっ」
ぽとりと、ティッシュが落ちる。
彼女が感じるやりかたを広坂は知り抜いている。手加減などせず彼は彼女のことを追い込んでいく。とんだSだと彼は思った。なんだろう、夏妃を前にすると自分の庇護欲がそそられる。いままでに見たことのない自分に出会えるのだ。泉のように、胸の底から湧き出でる情愛。教えてくれたのはほかならぬ夏妃だ。
「いっぱい、……感じて、夏妃」
広坂の手は加速するのだが、彼女が首を振った。「だめ、あたしのなかに、いっぱい、入れて……? あたしのなかをめちゃめちゃにかき回して、譲さんの熱い精を――注ぎ込んで?」
――そこまで言われてしまっては。
広坂は支えながら彼女のからだを倒し、彼女の足を開き、片手でペニスを支え、塗るついた彼女の秘所に、あてがっていく。彼女の蜜も手伝い、挿入はスムーズだ。あまりの快楽に耐えながら広坂は彼女を――見た。感じると目をつぶる癖のある彼女。彼女も彼を――見ていた。互いに、涙が、こぼれる。鼻をくっつけて、笑った。「……泣き虫」
「譲さんも……だよ。絶対に譲ることのない、譲さん」
はは、と小さく広坂は笑った。「ねえ、……あなたのなか、すごく、気持ちがいい……いま、あなたに会いに行くから。待ってて」
「譲さ――」
言葉にならない悲鳴が漏れた。絶頂。久方ぶりに見る彼女のエクスタシー。あまりの興奮に広坂はごくりと喉を鳴らした。まだだまだ――
きゃあああ、と叫びながら彼女は脱力した。広坂はその叫びを聞いた瞬間、吐精していた。あたたかくみっしりと包む感触……魂の触れ合い。生身の肌と肌で触れ合う喜びを感じながら、広坂は余韻に浸っていた。
「だ、め、広坂、さ、ん……激しい、激し……っ」
腰使いに身を委ねる夏妃の尻を持ち上げた。背後から胸を揉みしだき、彼女の耳に、囁いてやる。「なにが駄目なの。こんなに――ぐっちょぐちょにしておいて。ここ」
言って夏妃のクリトリスをこねくり回す。また――いった。
「いきやすい夏妃のからだがぼくは大好きだよ……」がくりと崩れ落ち、余波に耐える夏妃を愛しこむ。「まだまだ。夜は長いんだ。今日は、たっぷり……もう無理ってあなたが言っても一晩中、あなたのことを――離さない」
あらゆる体位を試した。あらゆる声を聞かせた。最後には彼女のほうから腰を振るい、もう、精液を吐き出しているのか、蜜をかきだしているのか、それすらも分からないくらいに、愛し合っていた。舞台は敷き布団のうえだけでは飽き足らず。キッチン。玄関。それに風呂場……。きっとここの住民は一晩中むらむらして過ごしたことだろう。夏妃のあんな叫びを聞かされては……それにしても夏妃の声はいい。聞くだけで射精しそうだ。
現在、そんな夏妃は朝のひかりを浴びて眠っている。予想通り、東南向きの窓。これでは朝が辛いだろうに、慣れているのか、ぐっすり眠っている。
「……おやすみ、夏妃」彼女の頬にキスした。すると彼女がむにゃむにゃと、「うーん。広坂さん、大好き……」
夢のなかでも愛されている広坂。彼のこころにあたたかな清流が流れ出す。
「ぼくもだよ夏妃」広坂の唾液で濡れた唇に触れた。雨露に濡れそぼる花びらのようにてらてらと男を誘うそこに、やさしく口づけた。不思議と――彼女といるだけでさまざまな情愛が湧いてくる。強くも弱くもなれる。知らない自分を知ったのは彼女だけではない、広坂のほうも同じだった。
シングルの布団でからだを寄せ合って眠る。体格のいい広坂のからだははみ出そうだ。それでも、幸せだった。愛するひとと想いを確かめ合うこのときが、例えようのないくらいに幸せだった。
彼女の髪の匂いを嗅ぎながら眠る。新たなる彼らの幸せな一日は――始まったばかりであった。
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