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それから数時間。たわいもない会話をしながらゲームに興じていると、ふいに、あの雨の日に出会った秀一のことが頭を過った。 もし彼があの公園の近辺に住んでいるのだとしたら、もしかすると同じ学区だった透ならば、何か知っているかもしれない。
「なぁ、透。お前がいた小学校の二、三学年下に、『秀一』っていう子はいなかったか?」
「え? 突然なに……。っていうか、二、三学年下の子なんて流石にわからないよ。接点ないし」
「……だよな」
やはり、そう簡単に見つかるはずもなかった。あの日以来、秀一とは一度も会えていない。
「というか、珍しいね。理人が自分から他人を気にするなんて。その子、どうかしたの?」
「いや……別に、大した用じゃないんだ。……ただ……猫を見せてくれるって、言われて」
そこまで口にすると、なんだか急に気恥ずかしくなって、語尾が溶けるように小さくなった。
「猫? 理人が?」
案の定、透が意外そうな顔をして眉をひそめた。
「というか、理人って猫好きだったっけ? 十三年も一緒にいるのに、初耳なんだけど」
「別に、そこまで好きじゃない。あのガキが勝手に、『今度、俺(理人)によく似た猫を見せてやる』なんて言い出したんだよ。なのに、最近パタリと顔を見なくなったから、少し気になっただけだ」
「へぇ~……。理人に『猫デート』の約束を取り付けるなんて、その秀一って子、なかなかやるなぁ」
「はぁ!? デートじゃねぇよ! 意味わかんねぇこと言ってんじゃねぇ!」
「えー? でも、オレにわざわざ聞くくらいなんだから、それなりに執着してるんだろ?」
「あのなぁ……相手は小学生だぞ? しかも、男だ」
呆れた口調で突き放すが、透は口元に粘つくような笑みを浮かべてこちらを見ている。
「ふふ、でもさ、顔に似合わず律儀だよねぇ、理人は。そんな口約束、普通は忘れるもんじゃない?」
「……っ」
確かに、あの一方的な約束など、無かったも同然だ。それでも、なぜか胸に棘が刺さったように気になって仕方がなかった。 上手く説明はできないが、彼がふとした瞬間に見せた表情が、助けを求めているように見えたからだろうか。
あの時、初めて会った瞬間の、何処か物憂げな――この世のすべてを諦めたような瞳。それがずっと脳裏から離れず、理人の良心をチリチリと灼いている。
だが、決して深い意味があるわけではない。ましてや高校生の自分と小学生の彼が「デート」だなんて、冗談にもほどがある。
「……さっすがに、ねぇわ」
理人はむっとしながら、画面の中のキャラクターを猛烈に操作して、透のキャラクターに八つ当たりのような攻撃を仕掛けた。
と、その時――。
「二人とも! お風呂沸いたから、入っちゃいなさい」
階下から母親の声が響き、透がプレイする手を止めた。
「お風呂だって。行こうよ、理人」
「いや、俺は後でいい。だから透、先に行ってくればいいだろ」
今更、蓮の家でシャワーを浴びてきましたとは言えるはずもなく、さりげなく促す。
「今更なに言ってんのさ。ちょっと前まで、当たり前みたいに一緒に入ってたじゃん。何恥ずかさがってるんだよ」
きょとんとした顔で詰め寄られると、返す言葉もない。 理人が口を噤んでいると、透は何かを測り知るような素振りを見せた。
「んー、じゃあさ、オレは後でいいや。理人、先に入ってきなよ」
「えっ、いや、俺は後からでも……」
「いいから、いいから。早く入らないと叔母さんに怒られちゃうだろ?」
半ば強引に背中を押され、一緒に入らなくて済むならばと、理人は渋々着替えを準備して部屋を出た。
なんだか、妙にあっさりと引き下がったような気もしないでもないが……。
(……まぁ、いいか)
お互いもう中高生だ。いつまでも子供のように一緒に入る年齢でもないと、ようやく理解したのだろう。
そう思い直して理人は小さく溜息を吐くと、浴室へと向かった。背後に残った透の視線が、どことなく熱を帯びていたことにも気づかずに。
#すのあべ