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※qnmnです
※『理想のデートコース選手権』のネタバレを含みます。
おんりーside
『理想のデートコース選手権』。
少し前に行われた参加者の半分ほどが縁遠い企画。
居酒屋の話題の種には持ってこいと言わんばかりにドズさんがぼんさんにその話題をふった。
そこにおらふくんが乗っかり、めんが囃し立てる悪ノリムードが始まる。
あの企画といえば、 ドズさんのアドバイスのおかげで何とか優勝することができたものの、普段しないような演技をしたからかいつもとは違う疲れを感じたっけな。
『世のカップルはあれを毎週やってるの?……考えらんない』
何気なくボソッと呟いた一言に、視界の端にいるめんの肩がぴくりと震えるのが見えた。
一瞬表情が固まったように見えたが、変わらずぼんさんを揶揄うめんに気のせいかと手元の飲み物に視線をやる。
「そういえばコメントで、おんりーの「おいで」ってところがめっちゃイイ!って評判やったよな!」
な!と屈託のない笑顔でこちらを向くおらふくんに、あぁ、今度のターゲットは俺かとげんなりする。
あれは流石の俺もキュンキュンしたわ〜!などと大袈裟に演技をしながら言うおらふくんに気を取られ、めんがどんな表情をしていたのか、この時の俺は知る由もなかった。
皆がそれぞれの帰路に着く中、俺は普段にもまして酔っ払っためんの介抱役として道路を歩いていた。
『めん、流石に酔いすぎ』
「あ〜?俺は酔ってません〜」
くふくふと笑いながら俺の肩に寄りかかるもんだから、危うく二人揃って転ぶところだった。
『ちょっとめん!体格差考えてよ!』
ガタイが良く、悔しいが縦にもでかいめんを支えられるほどの筋肉は残念ながら持ち合わせていない。
何とか一人で歩いてもらうように身体からひっぺがそうとすると、めんは俺の身体を包み込んで子供のようにいやいやと首を振った。
「やだ」
『なんでよ』
「やなもんはやですぅ〜」
こうなったら押し問答。俺が何を言っても聞かないだろう。
ため息をつくと、めんの身体が大きく跳ねた。
するりとめんは身体から離れ、小さな声でごめん。と一言だけ呟いて、とぼとぼと前を歩き始める。
何を考えているのか分からないめんの行動に首を捻っていると、あることに辿り着く。
大体こういう訳の分からない行動をとる時は、決まって不安がっている時だと。
最近やっと恋人に甘えることを覚えためん。
それでもまだ、あまり弱いところは見せたくないらしい。
歳上だからという事もあるのか、悩み事や不安というものをあまり話したがらない。
正直夜は俺に抱かれてるんだ、歳上の矜持も何もないだろうとは思うが、それで何か不便があったこともないので今までは追求しないようにしていた。
ただ、このようにべろんべろんに酔っ払って不貞腐れるようなら話は別だ。
『めん』
優しく名前を呼ぶ。
ぴたりと足を止めためんが振り返る。
「……なに」
『おいで』
めんが目を見開く。
一瞬何かを堪えた表情を浮かべたと思ったら、覚束無いままに俺の腕の中に収まる。
……まぁ、傍から見れば収まると言うよりは俺が抱きついているようにしか見えないのだが。
腕の中のめんは、俺の肩にぐりぐりと額を擦り付けながらぼそぼそと胸の内を明かした。
「……おれのおんりーなのに」
『うん』
「おんりーの特別は俺だけでいいのに」
『うん』
「……あんな、優しい声、俺だけだと思ってた、のに」
『……うん?』
「それに、水族館だって『待って、待ってめん』……なに」
可愛すぎる。待って欲しい。
つまり?俺がおらふくん、動画内ではおらこちゃんか。おらこちゃんに優しく接したのに嫉妬したってこと?
あのめんが?本当に?
『……続けて』
正直キャパオーバー寸前だが、またとないめんの一面を見られる機会、逃すのは惜しい。
「……断る、もう言わん」
『おねがい』
「ぅ、……ほら、動画で、デートコースに水族館があって。俺、まだおんりーと行ったことないのに、って」
段々声が小さくなっていくめんに、俺は口元のにやけを抑えるのに必死だった。
「それで、誘ってみようかとか思ってたら、さっき信じらんないとか言うからよぉ……」
ぺしょぺしょと擬音がつきそうなくらい弱々しい声が首元で聞こえる。
正直に言おう。可愛すぎる。
存在しない人物に嫉妬した挙句、俺の何気ない一言を気にしてべろんべろんに酔っ払って?
『……なにそれ、かわいすぎんだけど』
しまった声に出たと思った時にはもう遅い。
がばりと身体から顔を起こしためんは、数回瞬きをした後両手で顔を覆い俯いた。
『ねぇ、めん』
今度は諭すように語りかける。
『実はあの時、めんのこと考えてたって言ったらどうする?』
俺は今、とんでもなく甘い顔をしているだろう。
チラリとこちらを見ためんの顔が更に真っ赤に染まっていくのがその証拠だ。
『水族館デート、めんとだったらめちゃくちゃ楽しいだろうなって』
水族館が好きな彼のことだ、きっと楽しいに違いない。
『だから、心配しなくたって俺の特別はめんだけだし、優しくしたいのもめんだけ。分かった?』
これでも心配なら毎日特別優しく愛を囁いてもいいんだが?と半ば脅しのように告げれば、それはいいと慌てて断られなんだかフラれた気分になった。
次の休み、俺はめんと一緒に水族館を見て回った。
薄暗い空間でふと思い立って手を絡めれば、めんはびっくりしてこちらを見たあと、ふいと俺から顔を背けた。
その手が離れないのを見て、俺は自分でも分かるくらいに幸せな顔をして繋ぐ手の力を強めたのであった。
存在しない彼女に嫉妬するくらい君が好き