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「私と結婚して下さい。初めて会った時から、恭吾さんが好きです。大好きなんです」
僕のお見合い相手が、そう言ってくれた。
香織さんというひとつ年上の、少しぽっちゃりした性格の良さそうな人だ。
ショートカットが良く似合っている。
父が昔からお世話になっている友人の娘さんとあって、父の顔をつぶすわけにもいかず……
僕は、無理やりお見合いしてしまった。
でも、さすがに2度目のお誘いはお断りした。気持ちがないのに、また会うのは相手に失礼だと思ったから。
だけど、その後も……数回、香織さんの方からぜひ会ってほしいと頼まれて、父にも、1度しか会ってないのに何がわかるんだと、もっともらしいことを言われ……何度も会うように促された。
結局、僕は断りきれず、仕方なく、また香織さんに会ってしまった。
2人でいても考えることは別の人のこと。
頭の中にはいつもあの人がいて……
今でもそんな風に、穂乃果ちゃんを忘れられないでいることがあまりにも情けなかった。
彼女はもう月城さんと結婚して、子どももいて幸せに暮らしているというのに、僕は、いったいいつまで彼女のことを引きずるつもりなんだ。
自分が、こんなにしつこい男だったとは。これじゃあ、まるでストーカーじゃないか。
「香織さん……。僕といても、あなたは幸せになれないです。僕には……」
「好きな人がいるんでしょ。恭吾さんを見ていたら、それくらい私にもわかります。私は……そのことも承知の上です」
「香織さんを騙すようなことをしてすみません。最初から、僕には好きな人がいて、お見合いなどするべきではなかったんです。はっきりお見合いはできないとお断りするべきでした。本当に申し訳なかったです」
本当に……そうするべきだった。
「恭吾さんのそういう正直なところが私は好きなんです。だから、そんなに謝らないで下さい。でも、お父様のお顔を立てるためのお見合いだったとしても……私はもう、あなたを好きになってしまったから……後には引けません」
真っ直ぐに僕を見つめるその瞳が、とても綺麗だった。この人は、素直で正直な人なんだろうと思う。
僕なんかより、ずっと――
「恭吾さん……。その人を忘れて、私を好きになってもらうことは無理ですか? 私、いっぱい努力して、恭吾さんに好かれるように頑張ります。恭吾さんが嫌なところがあればちゃんと直します」
少し涙ぐみながら言ってくれたその言葉に、僕はなぜか心を動かされた。
もう、いい加減に……穂乃果ちゃんのことは忘れないといけない。そんなこと、本当はずっと前からわかっていたはずなのに……
情けない僕は、香織さんにそれを改めて気づかせてもらったような気がした。