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「ふむふむ……
・魔狼【人・獣型両方の速度上昇、変身時に
薄い霧のようなものをまとう】
・羽狐【人・獣型両方の魔力上昇、変身時に
薄い霧のようなものをまとう】
って―――
この『薄い霧』何ですかね?」
公都『ヤマト』……
そこのパック夫妻の屋敷兼研究施設兼病院にて、
彼らが発酵食品における各種族の効果について
調査した結果を見て、私は首を傾げていた。
「彼らは、人間の姿に変身する時に
衣服まで着込む事は出来ませんから」
「恐らくその間に対する配慮と言いますか―――
そういう事なんじゃないでしょうか」
シルバーの長髪の、中性的な顔立ちの男性と、
ホワイトシルバーの長髪の女性……
パックさんとシャンタルさんが、書類を
眺めながら答える。
そういえば、児童預かり所で裸の子供が
うろついているという事件が昔あって、
あれは引き取ったばかりの魔狼の子が正体
だったのだが、
(■67話 はじめての ろうや参照)
「確かに魔狼や羽狐は変身時、全裸に
なるので対応は必要だと思うけど」
「人間社会に適応したのじゃろうなあ」
童顔のアジアンチックな妻と、西洋モデルの
ような顔立ちの妻―――
メルとアルテリーゼも話に加わる。
そもそも病院に来た理由というのが、
母子である二人とシンイチとリュウイチ、
その定期健診のためでもあり、
「あれ?
ボクたちのように、魔力イメージで服とか
作れないの?」
黒髪ショートに燃えるような瞳を持つ娘、
ラッチが疑問を口にすると、
「ドラゴンやワイバーンくらい高い魔力を持つ
種族じゃないと、それは難しいでしょうね」
「別種族に変身出来る事自体、珍しい
事なので」
パック夫妻がそれについて説明してくれる。
「ていうか、魔力イメージで服作ってたんだ?
初めて知る情報なんだけど」
するとドラゴンの方の妻は微笑んで、
「あくまでもとっさの時にだけよ。
普通に暮らしている時はちゃんとした服を
着ておるぞ?」
「アルちゃん、いちいち破って変身していたら
もったいないって言ってたもんね。
だからシンが任務とかどこそこに行くとか、
予め言ってくれれば……
その時は魔力の服着てるよ」
そうだったのか―――
全然気づかなかった。
「ん? でもワイバーンも?
ヒミコ様も変身した時は裸だったような」
(■110話
はじめての まるずこく(おうと)参照)
#コメディー
「それは人間の衣装イメージがまだ確立
出来ていなかったからでは?」
「私たちドラゴンでも、きちんと知識に
無いものは再現出来ませんし」
パックさんとシャンタルさんが補足で
答える。
「いやでも……
魔狼も羽狐も今は普通に公都で生活
していますよね?
特に魔狼は魔狼ライダーとしても活躍して
いますし、彼女たちはどうやって」
一緒に護衛やプルラン回収の役目もやって
いるし、それで特に問題になったとかは聞いて
いないんだけど、と思っていると、
「そりゃ公都に来て変身出来るようになって、
もう何年も経っているんだからさ。
それなりに対応もしているよー」
「リリィと言ったか?
ケイドの奥方をしている魔狼だが、
当初は首の後ろにローブをまとめたものを
着けていたようだ。
魔狼から人間の姿になっても、首の後ろの
それを解いて身にまとう感じでの」
なるほど。
身を隠すだけならそれでいいし―――
その中で着替える事も可能か。
「あれ?
でもボクも何度かプルラン回収に付き合った
事あるけど、ローブ姿の魔狼って見た事
ないような」
ラッチの問いに大人の女性陣三人が苦笑し、
「まあ、いつまでもローブに頼って
いられなかっただろうしね」
「特にゴムという新素材が出来たであろう?
あれ、本当にいろいろな事に使えてのう」
「ズボンやスカートを小さくまとめて、
魔狼の時はそれに片足につけておけば、
人間に変身した際、一気にはく事が
出来ますし、
上半身はローブじゃないですけど、
簡単に巻き付けるような布を体に巻いた後、
各所をゴムで止めれば簡易な服になります。
後で上着を着れば完璧でしょう」
うーん、いろいろ考えていたんだなあ。
そこまで気が回らなかったので、少し
申し訳なくなってしまう。
「じゃあ、羽狐たちも?」
「依頼や冒険者の護衛をする時にはそうして
いるんじゃないでしょうか。
基本、公都では別に人前で変身する必要は
ありませんし……
家に帰ってから着替えるなり変身すれば
いいだけですからね」
パックさんの言葉に私はうなずいて、
「そうですか。
ですが、ご不便をおかけしていたのかも
知れませんね」
私がバツが悪そうにそう言うと、
「そこまでシンが考える必要は無いと
思うよー」
「何でもかんでも用意してやる事はあるまい。
子供ではあるまいし、必須であれば自分で
考えて対応するであろう」
すかさず妻二人にフォローされる。
「んで、他の人たちってどうなっているのー?」
娘が弟たちをあやしながら話を変えると、
「他の人―――
他の亜人や人外たちの事ですか。
吸血鬼が【魔力上昇・日光克服】、
人間は……
【体力・疲労・状態異常回復速度上昇】」
「吸血鬼は魔力アップと、昼間でも活動可能に
なりました。
人間の方のこれは、何かあった場合、その
治りが早くなったという感じですね」
パック夫妻が医者兼学者らしく、書類に目を
通しながら語る。
「ここで実験―――
もとい調査しているの?」
メルの問いに彼はうなずき、
「はい。ただ公都でやっているのは一部で、
現状確認みたいなものです。
本格的な調査は王都でやっていますので」
「こちらにはそれまでの患者さんのカルテが
ありますから、それも参考に。
あと希望者を募って研究協力してもらって
いますけど……
やっぱり王都の方が人も施設も充実して
いますしね」
続けてのシャンタルさんの言葉に、一同は
ふむふむとうなうずく。
ここは研究所ではあるが、自宅であり病院でも
あるのだ。
質こそトップレベルではあるだろうけど、
出来る事に限界はある。
「ラミア族の【熱さ耐性獲得】って
いうのはー?」
ラッチが好奇心優先で次の質問をすると、
「もともとラミア族は熱さに弱い種族だったの
ですが、それの解消と言いますか」
「特に子供たちは、人間と同じくらいの熱さの
お風呂にも入れませんでしたからね」
パックさん・シャンタルさんが丁寧に娘に
説明してくれる。
そういえばこちらに来たての頃は、そんな事を
言っていたような気がする。
(■63話 はじめての かばやき
■64話 はじめての ひこうじっけん参照)
慣れて来たとも言っていたけど、あれは
そういう事だったのかと腑に落ちる。
「ふーん。
火や炎が平気になったとかじゃ
ないんだー」
「いやそこまでいくと、効果じゃなくて
進化だ……」
ラッチの言う事を私がたしなめる。
「ハーピー族が、【魔力上昇・夜目獲得】
だっけ?」
「夜間飛行可能になったのか。
それはそれでかなりすごい事ぞ」
メルとアルテリーゼが感心しながら語る。
実際、鳥目とも言われるように空を飛ぶ
動物は、夜間は視力が利かない事が多い。
(一部の猛禽類は別として)
それが昼夜問わず飛行可能ともなれば、出来る
幅が相当広がるだろう。
「後は獣人族ですが、これが効果てんこ盛りって
感じですねえ」
「まず魔力こそ上がりませんでしたが、
身体能力上昇―――
そもそも基本的に基礎能力が高い獣人族
ですから、それがさらに強化されるわけ
なので……」
さすがのパック夫妻もその効果に目を見張る。
だよなあ、と私も思う。
身体強化はほぼ全ての種族が使えるものだし、
それとかけ合わせればいったいどれほどの
能力アップになる事か。
「さらに、匂い・眠り・麻痺・毒などの
状態異常耐性獲得―――
これなんかはもう、他種族を圧倒していると
言いますか」
「でもよくこんなの調べられましたね?」
私がふとパックさんに質問すると、
「納豆好きな獣人族の方がおりまして。
『神前戦闘』の選手の1人なのですが。
何でも納豆を食べ始めてから体の調子が
絶好調なので……
この機会にいろいろ調べて欲しいと申し出て
くださったのですよ」
パックさんの代わりに、書類を呼んでいた
シャンタルさんが答える。
「へー、獣人族は絶対食べないと思って
いたけど」
「児童預かり所でも―――
魔狼と獣人の子は、納豆という言葉を聞いた
だけで逃げるからのう」
「あーうん、そうそう」
妻二人と娘が、児童預かり所における納豆の
評価を語ってくれる。
魔狼や獣人に限らず、一回目ではまず誰も
食べないからなあ、アレ。
ひきわり汁や冷やし系の麺類に付属させると、
まだ食べてくれるけど……
「何でもその獣人は、最初は罰ゲームとして
食べさせられたと言っておりましたが、
なぜかそれ以降、納豆の匂いがそれほど
気にならなくなり―――
体の調子も良くなったので、引き続き食べる
ようになったとか」
「何でもやってみてください!
と言うので、一応、実験する際はパック君が
待機して、万全を期して行いましたけど……
あそこまで効果がついた種族はいないんじゃ
ないですかね」
何ていうか、呆れも混じった表情で医者兼
研究者の二人は、感想を述べる。
「他の種族はそういう効果は無いのー?」
「いや、さすがにそこまで協力してくれる
人はいないんじゃ……」
ラッチの問いに私がツッコミを入れると、
「さすがに毒や状態異常の実験については、
好き好んで手を挙げる人はいませんでしたが」
「協力金を増額したら何人かはやって
くれました。
まあそれで確認出来たわけなんですけど。
やっぱり獣人族だけの特性みたいですねえ。
王都でも研究が進めば、より詳しくわかる
でしょう」
そのあたりは、あの元マルズ帝国の
参謀にして―――
『境外の民』だった人のお詫びも
込められているんだろうな。
「他種族はどうですか?
他にもアルテリーゼやラッチのように
ドラゴンとか、ワイバーンとか……
ロック・タートルのオトヒメさんや
精霊の方々、あと鬼人族やアルラウネの
プリムさん、それに」
「アラクネのラウラさんや、土蜘蛛の
つっちーさんもいたよね」
「いつもいるというわけではないが、
魔族や天人族・白翼族もおるしのう」
「亜神のフェルギちゃんもいたねえ」
メルとアルテリーゼ、ラッチからも次々と
他種族の名前が上がり―――
改めて亜人や人外がこれだけいるのかと
再確認する。
「それなのですが、どうも傾向としましては、
元々強い魔力・力を持つ種族はあまり変化が
見られないようなのです」
「私も若干の魔力アップや体調の改善は
認められますけど……
とりたててどうこうという感じはありません」
パックさんとシャンタルさんの話によると、
変化自体はあるようなのだが、
基本的な力が強力過ぎて、他種族から見たら
大きな変化でも、実感し辛いのではという
事らしい。
まあ確かに、ドラゴンやワイバーンが今以上に
強化されてもなあ。
そこへ、十二・三才くらいに見える
シルバーの長髪をした少女が、
遠慮気味に赤ちゃんを抱いて入って来て、
「お父さま、お母さま。
リクハルドが泣いています。
多分、お腹がすいたのかと」
ああ、ゴーレムのレムちゃんか。
パック夫妻の息子を抱いているのを見ると、
髪の色もあいまって、本当の親子姉弟のように
見えるなあ。
「あら、ちょっと話し過ぎたかしら」
「どれどれ、こっちによこして」
パック夫妻が赤ちゃんを受け取ると、
レムちゃんはこちらに向き直り、
「シンさん、それに奥様方。
ラッチさんも―――
こんにちは」
ペコリと彼女があいさつすると、
こちらも返礼として頭を下げ、
「はい、こんにちは」
「礼儀正しいねえ」
「ラッチも見習わないとのう」
「ぼ、ボクも今しようと思ってたの!」
家族で一通りあいさつを返した後、
「ところで……
いつの間に音声機能をレムちゃんに
付けたんですか?
あまりにも自然にしゃべっているので、
気付きませんでしたよ」
そう言うとパックさんとシャンタルさんは
顔を見合わせ、
「??
そんな機能を付けた覚えはありませんが」
「私も別に―――」
すると夫妻の視線は娘同然に可愛がっている、
人工ゴーレムに向かうと、
「あ、あの……
わたくしもいつの間にかしゃべれるように
なりました。
多分、原因は今騒がれている、発酵食品に
あるのかと」
レムちゃんの言葉に、今度は全員が顔を
見合わせ―――
「「「「「「~~~~~!?!?」」」」」」
赤ちゃんがいるので、驚いて叫ぶのを何とか
各々が踏みとどまった。
「そういえばレムの食事は魔力で……
誰かから譲渡されればそれで良かったはず」
パックさんの指摘に、彼女は少し困ったような
表情となり、
「あ、もともと自分でも魔力を吸収する事は
出来たんです。
そのへんの魔力を帯びたものとかからなら
何でも―――」
レムちゃんが語ったところによると、
他人や他の生き物から強制的に魔力を奪う事は
出来ないようで、
(出来たとしても性格的にやらないだろうけど)
ただこの公都の用水路の、いわゆる魔法で
出された魔力のある水、
他は自然物の草花などなら、魔力をもらって
いたのだという。
「後は料理、でしょうか。
発酵食品といわれるものは、全てでは
ありませんが、魔力のこもっているものが
多かったので……
わたくしが料理を運ぶ時に、ちょっと
魔力のつまみ食いをしちゃった事もあって、
多分それで、他の種族の方々に出ている
ような影響が、わたくしにも出ていると
思われます」
研究者である両親の影響なのか、自分で
分析して現状を語る。
「発酵食品に魔力?
となると、オルディラさん他、『腐敗』の
魔法が関わっている可能性が大ですね」
「やはり本人に来て頂いて、一度調査した方が
良さそうです」
娘から話を聞いたパック夫妻は、うなずきながら
そう話す。
「オルディラさんには発酵食品の件、
連絡してないんですか?」
私がそう聞き返すと、
「魔力通信機でいったん魔族領に連絡は
したんですが、イスティールさんに
繋がりまして」
「それで、彼女と魔王・マギア様が相談の上、
『それをオルディラに伝えたら狂喜して
暴走しそうだから、折を見て話す』
と言ってました」
それを聞いた家族の面々は、『さもありなん』
と言った表情で沈黙する。
「しかし、どうしたものか―――
【言語機能獲得】って事でいいのかな?」
「言語理解と意思疎通は前から出来て
いたでしょう?
単純に【会話機能獲得】でいいのでは?」
研究者の顔になったパックさんと
シャンタルさんは、レムちゃんについて
分析し始め、
「お父さま、お母さま。
そういえばあの布ゴーレムの方はどうなの
でしょうか?」
彼女も彼女で、自分の同胞に対して研究意欲を
見せる。
「えっとまあ」
「私たちはこのへんで……」
「ほどほどにのう。
赤ん坊もいるのだから」
「だからー!」
没頭し始めたパックさん一家に、
私たちがそう忠告すると、
「そ、そうでした」
「おしめは大丈夫かしら?」
「わたくしも手伝いますよ」
そしてリクハルドちゃんの世話をし始め、
私たちはそれを確認すると、病院を後にした。
「え?
問題って、発酵食品が?」
翌日、冒険者ギルド支部から呼び出しがあり、
行ってみるとそこには―――
細マッチョの四十代に見える男性と、
パープルの長髪に、前髪を眉の上で揃えた
女性、
ウィンベル王国の前国王の兄・ライオネル様と、
ランドルフ帝国のティエラ王女様がソファに
腰掛けていた。
「こっちの『辺境大陸』では問題は無い
だろうが……」
「帝国を始めとする、クアートル大陸では
少々物議を醸す事になるかも知れません」
筋肉質の、アラフィフの白髪交じりの
ここのギルド長、ジャンさんと、
褐色肌に黒い短髪の、次期ギルド長である
レイド君が顔を見合わせ、
「何がそんなに問題なんだ?」
「それに、こっちじゃよくても向こうでは
問題になる事って何スか?」
二人も疑問のようで、それぞれの国の王族である
男女に立ったまま聞き返す。
「こっちはまあシンがいろいろやってくれた
おかげで、亜人・人外に対する心証は
それほど悪くはない。
逆もまた然り、だ」
「ですが、ランドルフ帝国を始めクアートル大陸
各国が―――
差別是正を始めたのはまだ最近の事です。
ここに来てこの情報は、扱いを違えると
劇薬になる可能性があります」
発酵食品を食べる事で、各種族がパワーアップ
する事が?
と思っていると、
「ああ、確かにそうだなあ。
こっちじゃそんなに危機感無かったが」
「??
何か危ない事ってあるッスか?」
現ギルド長の言う事に、次期ギルド長が
聞き返すと、
「だってなあ、特定のモンを食うだけで……
強化しちまうんだぜ?
値段が高いわけでも、入手困難なものでも
ねえ。
簡単お手軽に強くなっちまうわけだ」
「さらに問題は、人間にこれといった効果が
無いって事なんだよ。
それに対し、獣人にはかなりの効果が付く」
「受け取りようによっては……
そんな獣人たちが人間よりさらに上位に立ち、
報復してくるのでは、と思う人も出てくると
考えられます。
もしくは獣人の中にも、自分たちはこれだけ
強化されるのに、人間は―――
そう逆差別的なとらえ方をする者が出て来る
かも知れません」
考え過ぎ……
とは言い切れないんだよな。
特にあちらの大陸での、これまでの人間と獣人の
関係を考えると。
「幸い、発酵食品は他国でも作られるように
なったが、『腐敗』の魔法まで使って
作られているものは少ないだろう。
輸出されている分はどうにもならんが」
「なので、いったん情報統制を行い―――
どのような形で公開するのがいいか、
シンさんにもお知恵を借りようと思いまして」
ライさんとティエラ様がそう話をまとめる。
しかし……
この力というか現象は、そもそもマルズ帝国の
参謀だった『境外の民』の人が、主に獣人族への
お詫びとして残していったものだ。
それがまた新たな火種になる事は望んでいない
だろうし、それに自分も関わっている。
さらにオルディラさん、魔族も絡んだ
案件なのだ。
出来ればなるべくポジティブな感じで
まとめたい―――
「そう、ですねえ……
要するに危惧されておられるのは、
・簡単に獣人族が強くなれるという事が
知られた場合、今の差別是正にどう影響するか
わからない。
・また獣人族の方でもこの事を知った場合、
今までの被差別経験から、人間に対し
逆差別の意識を抱く可能性がある。
この2点、という事ですね」
私の言葉に、ライさんとティエラ王女様が
コクコクとうなずく。
「であるならば―――」
私の次の言葉を待って全員が息を飲む。
「全部、公表しちゃいましょうか」
その答えに、王族二名が顔面をテーブルに
突っ伏した。
「いやいや、いくら何でもそりゃなあ」
「そうッスよ!
そりゃヤバいって俺にだってわかるッス!」
ジャンさんとレイド君はそう反論して来たが、
「まあ待ってください。
何もこのまま公表するという事じゃ
ありません」
するとライさんとティエラ様が顔を上げて、
「うん?」
「どうするのでしょうか?」
そこで私はソファに腰を掛け直し、
「例えばですね。
1個銅貨1枚で売っている薬があるとします。
その効果は滋養強壮! 各能力強化!
さらには魔力が何倍にもなります!!
……って言われたらどうしますか?」
こちらのギルド支部のメンバーが顔をしかめ、
「うさんくせぇ事この上ねーな」
「まあ絶対買わないッス」
二人の感想を聞いて私はうなずき、
「そういう事です。
こういうのっておかしなものでして。
『そんな物がそんなに安いはずはない』
『それほどの効果があるのなら、最低でも
金貨数十枚は―――』
って考えるもの。
ですがここにある言葉を2・3加えますと、
『まあ安いし試しに買ってみるか』
という方も出て来ます」
「ほう?」
「そ、それはどのような」
興味深そうに王族の男女が食いつく。
「『効果には個人差があります』
『あくまでも万人に、この効果を保証する
ものではありません』
という言葉です」
まるで詐欺まがいの健康食品の宣伝のようだが、
そこそこの値段であれば、『運が良ければ』に
賭けて買う人もいるものだ。
「そもそも発酵食品自体、そんなに高い値段で
売っているわけではありませんから。
日常的に手に入れられるもので、
そこまでの効果を期待する事も無いで
しょうし、
であるならばいっその事、このように公表して
しまえば、何か勘繰られる事も無いかと」
ふむふむ、とライさんとティエラ王女様は
同調してうなずく。
「確かに、それなら別段ウソをついて
いるわけでも無し……
ただの安い食い物に、大げさな宣伝がついたと
思われるだけだろう」
「そうですね。
それに下手に隠したりするよりは、
そちらの方が余計な疑念や考えをもたれずに
すみそうです」
するとジャンさんが私の方を向いて、
「そういやよぉ。
東の村で作られている、高級路線の
魚醤があっただろ。
アレも発酵食品だよな?」
「あ、そういえばそうッスね」
レイド君も続けて私に視線を向ける。
「それは大丈夫じゃないでしょうか。
そもそも高価なものですから、日常的・
長期的に摂取し続けられるシロモノでは
ありませんし―――
何より手間に対しての金額ですからね、
アレは」
そこで私は一息ついて、
「第一、薬としての効能をうたっている
わけでもないですし……
それこそ
『効果には個人差があります』から」
私がそう言ってニッ、と笑うと―――
つられて室内の全員も笑い出した。