テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
充分な休憩も取り、ついに決勝戦となった。
対する相手は、バッシュ・トライアングル。
ガ―レットの女だが、リオンは彼女のことをよく知らない。
彼女が、どういう人物なのか。
しかし…
「必ず勝ってみせる!」
リオンは決意を固めて会場へと向かった。
観客席にいるアリス、シルヴィ、エリシア達に視線を移す。
彼女たちも、その決意を理解しているようだ。
既にバッシュはリングで待っていた。
黒い東洋風の衣装を身に纏い、静かに軽く準備運動をしているバッシュ。
彼女の前に立ち、軽く礼をするリオン。
「これより決勝戦を開始する!では、両者構えて…」
二人は同時に構える。
リオンは試合用の木刀を、バッシュは拳を。
どちらも一歩も引かない緊迫した状況だ。
「始め!!」
審判の声により、戦いが始まる。
開始と同時に突っ込んでくるバッシュ。
しかし、リオンはその動きは既に見切っていた。
相手の攻撃を軽々と避けるリオン。
「次は…なに!?」
だが、これで終わりではなかった。
なんと、バッシュはそのままリオンの背後に回り込んできたのだ。
しかも、背後からリオンの首に腕を巻きつけてきた。
完全にホールドされてしまった形になる。
これはリオンにとって大きな誤算だった。
まさかここまでの速さで懐に潜り込まれるとは。
だが、まだ終わってはいない。リオンは必死に抵抗する。
「ぐ…うぅ…うおおお!!!」
リオンは全力を振り絞り、なんとか脱出に成功する。
大きく肩で息をするリオン。
しかしバッシュの攻撃は止まらない。
今度はリオンの顔めがけて拳を振るってくる。
リオンはそれを間一髪のところで避け、バッシュの腹に蹴りを入れる。
だが、怯む様子は無い。
それどころか更に激しく攻め立ててくる。
そして、遂にバッシュの掌底が命中してしまう。
「うあっ!?」
その衝撃に倒れ込むリオン。
痛みに耐えながらも、どうにか立ち上がる。
だが、休む間もなく第二撃目が襲い掛かってきた。
「つあッ!!」
「うっ!?」
それをギリギリの所でかわす。
第三、第四と続く攻撃を全て避ける。
このバッシュという少女、予想よりも遥かに強い。
もしかしたら、ガ―レットよりも…?
そんなことを考えてしまうほどの強さだ。
だが、ここで負けるわけにはいかない。
「俺は…絶対に勝つんだ!」
そう強く叫び、再び戦いに挑む。
それからしばらくの間、二人の攻防が続いた。
お互い一歩も譲らず、激しい戦いを繰り広げる。
観客達は二人の戦いに見入っており、誰もが言葉を失っていた。
そして…
「そこだぁあああ!!」
一瞬の隙を突き、木刀で渾身の一撃を叩きこむ。
鈍い音が響き渡る。
それは、間違いなくクリーンヒットの音。
確かな手ごたえを感じた。
だが…
「くっ…」
「ふうう…」
リオンの渾身の一撃を試合用の木刀を受け止めるバッシュ。
しかし、その表情に余裕は見られない。
むしろ苦しそうだ。
さすがのバッシュもダメージを受けていない、という訳では無いらしい。
「くそぉお!」
それでも諦めずに何度も攻撃を仕掛けるが、その全てが防がれてしまう。
そしてその時、乾いた音を立て、リオンの試合用の木刀が折れてしまった。
これでは戦えない。
そう判断し、すぐに試合用の木刀を投げ捨てようとしたその時…
「うッ…」
腹部に強い衝撃を受ける。
何が起きたのか理解できないまま、リオンの意識が飛びかける。
腹部を殴られたらしい。
なんとか意識を繋ぎとめるリオン。
そして再びバッシュと対峙する。
「強いね、バッシュ…」
「へへへ…」
正直驚いた。まさかここまでやるとは思っていなかったからだ。
確信した。
このバッシュという少女は確実にガ―レットより強い、と…
一方その頃、観客席では…
「おーおー、やってるねぇ」
「あ、ロゼッタ師匠!」
「怪我は大丈夫なんですか!?」
病院から抜け出してきたロゼッタ。
そんな彼女の登場に、観客席にいたアリスとシルヴィも驚きを隠せない。
一見元気そうに見えるが、完治しているわけでは無い。
「まあ大丈夫さ。弟子の晴れ舞台を見ないわけにはいかないだろう?」
「は、はあ…」
「さて、今は決勝だったか。リオンくんは…」
そう言いながら、リングの方に目をやるロゼッタ。
しばしその戦いを見た後、何故か彼女は顔をしかめた。
その席とはまた別の席。
体調が幾分か回復したガ―レットとメリーランもその試合を観戦していた。
包帯を体のあちこちに巻いたガ―レット、魔法杖を突いたメリーラン。
二人とも本調子では無いようだが、リオンとバッシュの戦いを見に来ていたのだ。
「バッシュのやつ、なかなかやるじゃねえか」
「あんなに強かったなんて…」
「やれぇ!バッシュッ…痛たたた!」
「傷に響きますよ…」
メリーランが静かにそう言った。
しかし確かに、ガ―レットの言うことも理解できる。
バッシュがあれほどまでに強いとは思わなかった。
ガ―レットの応援をしていたので、一連の彼女の試合は見ていなかった。
勝ち上がったのも、たまたま弱めの選手と当たっていただけだと考えていた。
「…変な感じ」
メリーランが呟く。
あのバッシュの動きに何か妙な違和感を感じていたからだ。
ガ―レットは気づいていないようだが…
一方のリオン。
バッシュの強さは賞賛に値する。
しかし一体何故、それほど強いのか。その疑問をぶつけてみることにする。
「君はどうしてそこまで強くなることができたんだ?」
「私が強くなった理由?そんなの…」
バッシュは少し間を開けてから答える。
その顔はとても悲しげだった。
まるで、大切なものを失ったかのような、深い悲しみを帯びた目をしていた。
だが、次の瞬間…
今まで感じたことの無いような悪寒に襲われるリオン。
嫌な予感がする。
直感的にそう思った。
「関係ないだろ、そんなこと!」
そう言い放った直後、今まで以上のスピードで一気に距離を詰めてきた。
「な!?」
突然の出来事に動揺するリオン。
バッシュはそのままリオンに攻撃を仕掛ける。
先ほどの一撃よりも強烈な一撃がリオンの体を襲う。
「ぐぁ…」
あまりの威力に思わず膝をつく。
バッシュは容赦なく追撃を仕掛けてくる。
このままでは本当に負けてしまう。
だが、どうすることもできなかった。
雄たけびを上げながら猛攻を続けるバッシュ。
「うおおおお!!」
「ぐううう!!」
リオンはその攻撃を両手で受け止める。
組みあいになる二人。
カウンターを狙おうとするも、その素早く鋭い攻撃にはなかなか隙が無い。
一旦距離をとるリオン。
しかし…
「逃さん!」
すぐさま追いかけてきて、再び拳を振るってくる。
なんとか避けるも、着地を失敗し地面へと倒れ込む。
バッシュを相手に倒れるのは致命的だ、大きな隙を見せてしまうのと同義。
なんとか起き上がり、体勢を立て直す。
だが、バッシュの攻撃はまだ終わらなかった。
「これで終わりだ!!」
とどめの一撃を加えようと、一気に距離を詰める。
加速し勢いをつけた拳を大きく振り上げる。
もうダメかと思ったその時…
「なに…!?」
「ロゼッタ…さん…?」
二人の間に割って入り、バッシュの攻撃を止めるロゼッタ。
その表情からは怒りが感じられる。
「なんで邪魔をするんだよ!?」
「お前こそ、こんなところで何をしている?」
「あたしはこいつをぶっ潰すだけだ!」
「ふざけるなよ!」
普段冷静な彼女とは思えないほど声を荒げるロゼッタ。
しかしこれは武術大会の試合。
ロゼッタの乱入は許されるものでは無い。
ブーイングを上げる観客。
審判も困った様子でロゼッタに近づいてくる。
「すみません、選手の交代や乱入は基本的には認められていなくてですね…ですから試合を続行して頂かないと…ルールなので…」
「おい審判!この大会は『人間』しか出場できないはずだが?」
「え?えっと…はい、そうですよ」
「なら何故こいつは出場しているんだ!?」
「それは…えーっと…どういう…?」
完全に言葉に詰まる審判。
ロゼッタの言っている意味がよく分からないようだ。
それを見たバッシュは、狂ったように大きく笑い出した。
それを見て困惑する審判。
「ハハハハハッ!!バレない自信はあったんだけどなぁ」
「どういうことです…?」
「このあたし、バッシュ・トライアングルは人間じゃないということだ!」
衝撃の発言に会場中が大きくどよめく。
「バッシュ様はれっきとした人間ではありませんか?」「でも、あんなに強いなんて…」「まさかあいつ…」「まさか…」
ざわめきの中、一人が呟く。
「魔族なのか!?」
その一言で全員が確信した。
あの子は人ではない。魔物なのだと。
「そうだ!かつて極東の大陸に覇を唱えた魔王の遠い子孫、それがこのバッシュだ!」
得意げに大声で叫ぶ。
そしてその姿を変え始める。全身が黒い毛に覆われ、頭部には二本の角が見える。
その姿はまさに二足歩行の牛、といった感じだ。
バッシュの正体は獣人だったのだ。
それも巨大な、牛の化け物。
『これがオレ様のもう一つの姿よ!』
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!