その頃、『ナーラのまち』(日本でいうところの奈良県)から少し離れたところにある『藍色の湖』(滋賀県の琵琶湖に似た『枇杷《びわ》』の形をしている湖)では。
ナオトが通っていた『獄立 地獄高校』の同級生たち(全員揃っていない)が釣りをしていた。(妖精型モンスターチルドレン数体とリル・アルテミスという少女も参加している)
「久しぶりね、私の自慢の教え子たち」
背後から声がしたため、全員が一斉に振り返るとそこには高校時代の担任だった『アイ先生』が立っていた。
※身長『百三十センチ』。瞳の色は黒。白というよりも銀に近いショートヘア。そして衣服は『白一色』。(先生から少し離れたところにグリフォンの『クゥちゃん』がいる)
『なんでここに先生が!?』
高校時代のナオトの同級生十名が同じセリフを言うと、先生《アイ》は。
「あらあら、相変わらずオタクなのね。さて、私がここに来たのは言うまでもないと思うけど、一応説明しておくわね」
アイ先生は少し間を取ると語り始めた。
「あなたたちの役目は、ナオトと合流でき次第、私に居場所を報告することよ。あー、それと……小宮《こみや》さん、黒沢《くろさわ》さん、ちょっとこっちに来なさい」
先生はそれだけ言うと、小宮 光《ひかり》と黒沢 昴《すばる》に早く来なさい、と合図をした。
二人は一瞬、顔を見合わせたが、二人ともなぜ先生に呼ばれたのか見当もつかなかった。
しかし、先生に逆らうと確実に殺されるため、先生の元へ急いで向かった。
その三人が小さな円陣を組んで、何かを話し始める前に先生は他のメンバーに早く行きなさい! と怖い顔で合図をした。(卒業式の時にもらった『白いお守り』をその時のクラスメイト全員が持っているため、ナオトを探すのは容易である)
残りのメンバーたちは慌てて、一方向へと前進し始めた。
他のメンバーが行ったのを見計らって、先生は二人に、こう言った。
「あなたたちも、ナオトに会ったそうね? どうして私に報告しなかったの?」
そのことを知っているということは先生も彼に会ったのだということを理解した二人は逆にこんな質問をした。
「残りの四人とは、まだ合流できていませんが、私たちは先生がこの世界にいることを知りませんでした。それに、私たちも自分たちのことだけで手一杯でした」
小宮がそう言うと、黒沢(女の子)もそれに便乗して。
「そうだよ、先生。わざわざ、僕たちを使ってまで伝えたいことがあるんだったら、どうしてナオトと再会した時に言わなかったの?」
先生はそれを聞くと、急に頬を赤らめた。
「あ、あなたたちは、わ、私が、ナオトの前だと言いたいことを言えないのを忘れたの?」
二人は、やっぱりかー、という表情を浮かべた。
『先生もナオトも相変わらず、ヘタレですねー』
そう言うと、アイ先生の顔は真っ赤になった。
それは宇宙ができる前に誕生し、あらゆる能力値が測定不可能な存在である者の顔ではなく、恋する乙女《おとめ》の顔であった。(ちなみにモンスターチルドレンを生み出した張本人)
「一度目は、ナオトの記憶を操作して私と出会ってないことにして……。二度目は私の名前を忘れさせちゃったから、今、会いに行っても、私のことはおそらく覚えてないわ……」
両手の人差し指同士をくっつけたり離したりしながら、そう言う先生は頭を撫でてやりたくなるほど、可愛らしかった。
それと同時に、ナオトの前でも、そういうことをしておけばイチコロなのに……と二人は思った。
「二人とも、何かいい方法があったら教えてちょうだい」
それを聞いた二人は、今日の正午に行われる『とある大会』の情報を先生に伝えた。
先生は、二人がそのことを教えてくれた意図を理解した。
「二人とも、ありがとう。このお礼は、いつか必ずするわ!」
先生はグリフォンの『クゥちゃん』の背中にまたがると、そのまま目的の場所を目指して飛んでいってしまった。
その様子を、上空から双眼鏡を使って名取《なとり》が見ていた。
その後、名取はナオトたちにそのことを伝えに戻った。
ちなみに、名取 一樹《いつき》は読唇術《どくしんじゅつ》を使える。
※名取 一樹《いつき》。ナオトの高校時代の同級生で名取式剣術の使い手。
名刀【銀狼《ぎんろう》】の所持者。
両目を前髪で隠しているのは、人見知りだから。普段は途切れ途切れに話すが、武器のことになるとよく話す。
彼は異世界にある『とある神社』でナオトと再会してからナオトたちの旅に同行していたが、先ほど出発した同級生たちの気配が本物であるかどうかを確かめるために、チエミ(体長十五センチほどの妖精)から風の加護を受け、ここまで飛んできた。
さて、小宮と黒沢の二人が伝えた『とある大会』とは、いったい……。
*
『ケンカ戦国チャンピオンシップ?』
ナオトがアパートの外に出て、ミサキ(巨大な亀型モンスターの外装)の甲羅の上に移動したあと、ミノリたちに言った言葉がそれだった。
「ああ、そうだ。朝ごはんを食べる前にポストを見たら、こんなチラシが入っていてな」
ナオトは水色のジーンズのポケットから小さく折り畳まれたチラシを取り出して、バッと広げると、みんなにそれを見せた。
そして、ナオト以外の全員がそこに書いてある内容を読み始めた。(全員が優勝賞金の方に目を向けた瞬間、やる気が有頂天に達した。優勝賞金は王金貨百枚。つまり、百万円である)
「いつまでもルルに頼っているわけにもいかないからな。そろそろ、お金を稼ごうと思うんだ」
「私はナオトが毎日、血をくれるなら、いつでも出してあげるよー」
「ルル、いくらお前が金属系魔法のスペシャリストでも、毎回その力を使ってお金を出してもらっていたら、ルルがいなくなった時、困るだろう?」
「ナオトは心配性だねー。でもまあ、ナオトがそう言うのなら、私はそれでいいよー」
「よし、それじゃあ、ブラスト。俺が言いたいこと、分かるか?」
「うむ。この大会で優勝した方の言うことを聞くということだな?」
「まあ、そういうことだ。ただ正午になる前に会場に行ってエントリーしないといけないから、かなり急がないと間に合わない。だから、その……ミサキ、なんとかできないか?」
「そうだね……飛んでいけば、たぶん間に合うよ」
「そうか、飛んでいけば……って、この亀は飛べるのか?」
「歩きだと、どうしても進めないところが昔からあったからね、進化しといて良かったよ」
「マジか! すげえな! おい! おっと、急がないとエントリーする時間が無くなっちまう。それじゃあ、目的地に向かって……出発進行ー!」
俺が拳《こぶし》を天に突き上げると(現在、彼らがいる場所は石見銀山の近く。そして、大会が開催される場所は日本でいうところのマツダスタジアム)
「了解。体を目的地方向に移動……続いて、四足のブースターを起動する…………最後に四足のブースターの向きを進行方向の逆向きに固定……出力良好、前進する」
ミサキ(巨大な亀型モンスターの本体)はミサキ(巨大な亀型モンスターの外装)に指示を出すと、目的地に向かって進み始めた。(ミサキの旧名はメタルタートル)