やあ、皆元気かな?異星人対策室のジョン=ケラーだ。なにやらまたティナが特大の爆弾を持って来そうな気がするのは気のせいかな。気のせいだと良いな。
さて、先日行われた緊急国際首脳会議では初となるアード側の為政者からのメッセージが流されて、様々な反響を生んだのは記憶に新しいだろう。
確約その他を含まないあくまでも個人的な私信に過ぎなかったが、アード政府の実質的なトップに当たる人物が地球に好意的なのは非常に喜ばしいことだ。恐らく、あちらでティナが一生懸命頑張ってくれたお陰だろう。
彼女の頑張りを無駄にしないためにも、我々はより一層気合いをいれてこの問題に取り組まねばならない。なにやら中華が悪巧みをしているようだが、それは外交部やCIAの管轄だ。私達は私達の仕事に取り組もう。
先ず最初に判明したのは、アードはティナの言う通り惑星一つを統治する統一国家であること。彼らから見れば今の地球は摩訶不思議な状態だろうな。当然政体の違いによる誤解も発生することが想定されるので、それに対する対策を練る必要がある。幸いこの件はホワイトハウスが引き受けてくれたので問題はない。
次に発覚したのは、アードは地球で言う王政を維持していると言うことだ。地球で例えるならば立憲君主制だろうか?
この問題は合衆国政府を悩ませた。何せ我が国は開国以来王政が存在しない国家であり、絶対的な君主と言うものに今一馴染みがない。だからこそ礼を失する可能性があるのだが、この件は日本政府の全面的な協力が得られることになった。あの国は世界最古の皇室を今も保っているからな、我々より遥かに敏感なはずだ。
「大前提として、あちらの王。今回言及されたセレスティナ女王ですね。このお方に対するあらゆる誹謗中傷や批判は断固として禁じるべきです。万が一その様なものが現れたら厳罰を以て当たる。それが大前提となります、ケラー室長」
「ふむ、政府や政治家を批判する事とは全く別問題と言うことかな?ミスター朝霧」
我が異星人対策室にも、ミスター朝霧が引き続きアドバイザー兼日本との連絡役として残ってくれた。心強い限りだ。しかし、誹謗中傷だけでなく批判もか。
「室長、外務省の連中が話していましたよ。確か、日本に対して皇室絡みの話題は最大限の配慮が必要になるのが国際常識だと」
「君が言うと説得力があるな、ジャッキー」
まあ、その手の話は聞いたことがある。日本人は原爆を落とされても怒らないが、皇室をバカにしたり不味い飯を食わせたら烈火のごとく怒り狂うと言うブラックジョークが存在するくらいだ。
「つまり、日本の皇室を相手にするような感覚かな?ミスター朝霧」
「先ずはそれでよろしいかと。崇拝の対象になっているとするなら慎重に対応するのが正解でしょう。少なくとも、我々が敬意を示せばアード側も好感を持つでしょう」
「どちらにせよ、情報が必要だな」
我々異星人対策室の本部には、アリアから提供された膨大なアードの情報が詰まったアーカイブがある。
ドクターを中心にこれらの解析を進めているが、どれも我々の常識では理解するのも難しい情報ばかりだ。当然機密情報の類いは含まれていないし、我々が分かりやすいようにかなり簡略化されているみたいだが……それでも理解するのは難しい。
「女王セレスティナ。二千年に渡りアードを統治する絶対的な存在であり守護者。未来を見通す力と、世界を俯瞰する力を持つ……これが女王についての情報だ」
「済まないな、ドクター。しかし、なんともこれは理解が難しいな。まるでファンタジー物語の人物じゃないか」
「嘘を記す理由がないだろうから、本当なのだろうな。まるで神だよ」
「アード人にとって崇拝の対象でもある、か。これは確かに難しい案件だ」
「だが、無視は出来んぞ。何れ外交団を送り込む必要はあるが、その際に女王へ謁見する機会があるかもしれない。妙なものを連れていけば地球は滅びるだろうな」
やれやれ、胃が痛くなるよ。ちなみに私やミスター朝霧は胃痛に悩まされているが身体は健康そのもの。ストレスで相当痛め付けられているはずなのだが、驚異的な回復力がそれを補っている。
我ながら人間離れしているなぁ。まあ、カレンの巨大化よりはマシだが。
忙しい日々を過ごしていると、ティナから預かっている端末に着信があった。十万光年彼方とメッセージのやり取りが出来る装置が腕時計サイズだ。アードの技術には驚かされてばかりだな。
メッセージの内容は次回来訪時により大きな船を持ってくること。そして拠点を作るために月面に土地をもらうと。
……いかんな、胃がキリキリしてきたぞ。大きな船に関してはティナから聞いている。彼女はフロンティア彗星の件で危機感を強めたようだ。この事に関しては問題ない。むしろ地球のために頑張ってくれているんだ。無理をしなければ良いが。
問題は月に拠点を作ると言う件だ。現在月には小規模ながら基地が建設され、今後も拡大していく予定だ。それに伴い月に関しては地球全体の財産として定義されている。
つまり、ティナのやろうとしていることは地球に対して領土を割譲するように要求していると言うことになる。もちろんティナ本人にそんな意思は無いだろうが、地球側としては困ったことになる。地球の財産と定義されている通り、こればかりは合衆国の一存ではどうにもならない。
恐らく必要としているのは地球に面した月の表側だろう。裏側ならばハッキリ言ってご自由にで済むのだがな。
いかん、考えていたら頭も痛くなってきた。取り敢えず大統領にアポをとらねば……また大騒ぎになるぞ。
アポは直ぐに取れた。どうやら異星人対策室からの要請は最優先で対応してくれるようだ。非常に有難い。これからも我々を信じて色々と手を回してくれる大統領のためにも励まねば。
「これは……月面に拠点を作るか……」
早速大統領にメッセージを見せたら早くも胃痛を感じたようで胸を押さえている。気持ちは分かりますよ。
「地球上に作れば国境その他で迷惑をかける。ティナならばそう考えても不思議ではありません」
「気持ちはありがたいが、それならば月についても配慮して欲しかったよ」
「月の所有権についてティナが知らないのも無理はありません。まして、それは我々地球人の考えでありルールです。アードにとって月は地球の衛星。それだけですからな」
「ううむ、ここでも双方の認識の違いが仇となるか。はぁ……」
ハリソン大統領は頭を抱えた。これは直ぐに各国へ図らねばならん。
前途を憂い、ジョンはボトル一杯の胃薬を流し込むのだった。
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