時間は昼過ぎ、13時くらい。
引き続き天気も良くて暖くもあるが、心地良い疲れと共にお腹も減ってくる。
「そろそろお昼ごはんにしない?」
「そうですね、そうしましょう」
「はーい!」
私の一言でお昼休みが決定した。
「それにしても、ここは見事なまでに草原ですね。
見渡す限りが草ばかりで……火は起こしますか?」
「薪も見当たらなそうだし、今回は要らないかな?」
地面にシートを敷いてから、アイテムボックスに手を突っ込んでパンを取り出す。
出発前に、ガルーナ村で買っておいたものだ。
「はい、ルークは好きなだけ食べてね。
エミリアさんは、セーブ気味でお願いします」
「う……はい。分かりました……」
それぞれ挨拶やお祈りをしてから、パンを食べ始める。
味は素朴な感じで、美味しくはあるんだけど――
「……お茶が飲みたい!」
「そうですね、やっぱり温かいお茶が欲しいですよね!」
私の言葉に、エミリアさんも同意する。
飲み物としては水があるものの、味が無いだけにやっぱり寂しいのだ。
お茶のセットはクレントスで買っていたから、お湯があればいつでも淹れられるんだけど……。
「やはり、火を起こしますか?」
「うーん、そんなにゆっくりする時間も無いからね……」
鉱山都市ミラエルツには、急ぎ気味で進んでようやく夜に着く計算だ。
お茶を淹れるのが30分くらいで済むとしても、その時間は案外大きいだろう。
「味は少し妥協して、水でお茶を淹れちゃう……とか?」
「……あの、アイナさん」
突然、真顔になるエミリアさん。
「ポーションは本来、煮立てた水にいろいろな素材を入れて作成するものですよね?」
「はぁ」
何で、急にポーションの話を?
「つまり錬金術に見立てると……『お湯』はどうやって作るのでしょうか」
「えっと……『水』を素材にして、熱を……。
――――ッ!!!?」
「アイナさんは何故か一瞬で色々なものを作ってしまいますが……。
つまりそれは、一瞬でお湯を作れるということなのでは!?」
む、むう……。それは盲点だった……!!
……でも、かなりふざけたロジックに思えるけど、本当に出来るのかな……?
えーい、れんきーん。
バチッ!!
えーい、かんてーい。
──────────────────
【お湯(S+級)】
お湯
※追加効果:美味(小)
──────────────────
「……出来たヨ」
「わぁ、すごいです!
それじゃお茶のセットを出して頂けますか? わたしが淹れるので!」
うきうき気分のエミリアさんに、お茶のセットを出してあげる。
いや、うん……。
『錬金術とは?』みたいな思いも生まれてしまうけど……まぁいっか。
……良いのかな? ……本当に良いのかな?
「それにしてもアイナ様はすごいですね。
いや、今までも超越したものを感じていましたが、まさかお湯という日常のものでも感じてしまうとは……」
ルークがしきりに感心してくる。
まさに、神スキルでお湯を作る錬金術師。
「いや、うん。役に立つことが出来て嬉しいヨ」
「もしかすると、果物からジュースも作れそうですよね」
「……!!」
ルークの発した追加の言葉に、まさか……とは思いつつも、今晩試してみようと思う私だった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
時間は夕方、15時くらい。
引き続き天気は良いけど、少し涼しくなってきたかな。
「アイナさん、お茶にしませんか?」
エミリアさんが明るい声で聞いてくる。
こやつめ、味を占めおったな。
「そうですね、それじゃちょっと休憩にしましょうか。ルークも良い?」
「はい、もちろんです」
お茶のセットをエミリアさんに渡して、私は私でお湯を作る。
「ところで、ミラエルツには順調に向かえているのかな?」
「そうですね。体感ではありますが、あと4時間もすれば到着すると思います」
ふむふむ、なるほど。
そうすると、19時到着になるくらいか。
「ミラエルツに着いたら、さっさと宿屋を取って明日に備えようね」
情報収集やお金稼ぎの算段は、全て明日にまわしてしまおう。
その代わり、ミラエルツへの到着は必ず達成することにしよう。
「分かりました。
クレントス以来の大きな街ですから、見るところもたくさんありますし――」
「お茶が入りましたよ~♪」
「「ありがとうございます」」
エミリアさんから二人、お茶の入ったカップを静かに受け取る。
「はぁ。やはり温かいものは落ち着きますね」
「お茶菓子も買ってくれば良かったですね!」
「まさか旅の途中で、こんな気軽に温かいものが飲めるなんて……」
思い思いの言葉で、それぞれ疲れを癒していく。
……何か私、戦闘はまるっきりダメだけど、休憩のときは一番活躍できそうな感じがする。
これから長旅になるときは、めいっぱいのクオリティで休憩を提供しようかな?
お茶の種類にこだわってみるとか、色々なお菓子を用意しておくとか。
うん、それはそれで面白いかもね。
……それにしても、お湯、かぁ。
お湯といえば、カップラーメンとかがあると便利だよね。
それこそパパッと食べられるし。
確かあれって、麺を油で揚げているんだっけ?
うーん、時間があったら試してみようかな。
「――アイナさん、顔がニヤけてますよ!」
「えぇ!? そんなことは!」
不意に、エミリアさんから指摘が飛んできた。
いろいろ試したくなるときは、顔が緩んでしまうのは仕方がない。
「……さてと、それじゃそろそろ行きますか」
「はい」
「はーい」
順調にいけば、あと4時間ほどで鉱山都市ミラエルツに辿り着く。
ガルーナ村に行かなければとっくに着いていただろうけど――
……そもそも途中でルークに出会わなければ、もう王都に着いていたかもしれない。
ガルーナ村に行かなければ、エミリアさんとも出会わなかっただろう。
色々なところで出会いがあって、自分の旅を変えていく。
――うん、深い。実に深いね。
それならミラエルツでは、どんなことが待ち受けているのかな?
そんな思いを胸に、私たちは再び旅路を歩むのだった。