「ママ! あっちいこ~」
「ちょっと待って。そんなに走ると危ないよ」
「ママ、早く~」
世界で1番大切なもの――
俺にとっては双葉、そして……
初めて見る我が子。
小さな体で走ったり、可愛い顔で笑ったり。
今、そこにいるのは本当に俺の子どもなのか?
自分の分身とは、こんなにも愛しいものなのか?
「ねぇ、ママ?」
「ん? どうしたの?」
「あのおじさん、だれ?」
「おじさん?」
俺に気づいた息子、そして、双葉は振り向いた。
「えっ……」
双葉の顔を見たその瞬間、何ともいえない感覚が押し寄せ、俺の体を一気に熱くした。
「……」
心臓の鼓動がどんどん激しくなっていく。
「やっと会えた」
「ママ、ママ」
「……えっ。あ、あっ」
「ママ、どうしたの? この人、だあれ?」
「……えと、この人は……」
「双葉。本当に……君に会いたかった」
「どうしてここに? 日本に戻ってたんですか?」
「ああ、戻ってきた。ここに来れば双葉に会えると聞いて、いてもたってもいられなかった」
「会いたかったなんて、理仁さんはこんなところに来るべき人じゃないです。早く私から離れて下さい」
双葉は必死に訴えた。
そんなこと、俺に言っても無駄なのに。
「小さな天使だな。本当に可愛い。こんにちは」
思わず、吸い寄せられるように子どもに近づいた。
「こんにちは。おじさん、かっこいい」
この、体中に温かく流れるものはいったい何の感情なんだ?
「ありがとう。君こそかっこいいぞ。不思議だな……勝手に……」
俺はどうかしたのか?
自然に湧き上がる涙を必死で堪える。少しでも気を許したら頬を滑り落ちてしまいそうで……
「理仁さん……。結仁、ごめんね。少し1人で遊んでてくれる? 遠くへ行っちゃダメよ。ママの近くでね」
「は~い」
小さな背中が何とも愛おしい。
そして、目の前にいるこの人も――
「子どものこと、なぜ黙ってた?」
「何のことですか?」
「ごまかさなくていい。朱里ちゃんから聞いた」
「えっ……そうですか……」
「ちゃんと言ってほしかった」
「ごめんなさい。でも、あなたの負担になりたくなくて」
「負担になどなるわけないだろ? 今日、俺は君を迎えにきた。今度は絶対に離さないから」
「あ、あなたは常磐グループの御曹司ですよ。あなたには私なんかじゃなく、もっと相応しい相手がいるはずです。本当は、向こうで彼女さんができたんじゃないですか? 好きな人がいるのに、子どもの責任を取ろうとして……」
「ばかな! そんなことあるはずがない。彼女がいたらここには来ない。俺は正真正銘、君だけを想ってる」
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