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満潮。
シャケが押し寄せる中、ひろは前線を滑るように動いていた。
恒は、後方からカバーしながら、ひろの動きに目を向けていた。
ゲソが短くなっている。
声も、少し低くなった。
右側から声をかけたとき、反応が一瞬遅れる。
でも、恒は何も言わなかった。
ひろも、何も説明しなかった。
休憩室。
ふたりは並んで座っていた。
ひろは、ペットボトルを開けながら、何気ない話を続けていた。
「最近、朝が冷えるね。
インクの温度も下がってる気がする。」
恒は、うなずいた。
「ひろって、寒さ苦手だったっけ?」
「ううん。得意でもないけど、別に平気。」
声のトーンは落ち着いていて、
表情も変わらない。
でも、どこか“隠している”ような気配があった。
恒は、それを感じながらも、
あえて何も聞かなかった。
ひろが話している限り、
そのふるまいを信じることにした。
ひろは、恒の視線に気づいていた。
でも、目を合わせることはなかった。
悟られないように。
気づかれないように。
恒の前では、いつも通りでいること。
それが、ひろにとっての“守り方”だった。