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だがどこを探しても見つからなかった。瑠奈がふと、地上への出口を見るとそこの天井が崩れ落ちて瓦礫が道を塞いでいた。瑠奈は崩れ落ちた廃墟を見てため息をついた。
「ここ、どうやって出るの……?」
その時、瑠奈の頭の中に声が響いた。
「瑠奈!大丈夫か!?」
それは紛れもなく、彼女の兄の声だった。
――ああ、そうだった。私にはお兄ちゃんがいたんだ。
瑠奈は必死に自分の名前を呼び続ける兄の元へ走った。
「お兄ちゃん! 私、生きてるよ!」
「だったら俺についてこい。俺の足音を追いかけて。さぁ、こっちへ来るんだ」
「うん!」
瑠奈は兄の背中を追って廃墟の中を走り回る羽目になった。
――お兄ちゃん、どこに行くの?
――瑠奈、目を覚ませ! そう言われても瑠奈は夢を見続けていた。
――お前はずっとここにいた。
でも、思い出せ!お兄ちゃんは死んでしまった。あの時、私の目の前で……。
――いいや、俺はまだ死んでない。俺が助けてやるから! お兄ちゃん!「お兄ちゃん!」
瑠奈は叫んで飛び起きた。そこは廃墟ではなかった。彼女はベッドの上に横たわっていた。
「良かった……目が覚めて……」
そう言いながら瑠奈の顔を覗き込んでいるのは、兄ではなく、兄がよく知る女性であった。
「お姉さん」
瑠奈はゆっくりと起き上がった。
「長谷川智菜が意識を取り戻したぞ!」
その言葉に瑠奈の周囲にいた人々が歓声をあげた。
病室を出ていく人達を瑠奈は呼び止めた。「あ……あの」振り返った看護師に瑠奈は言った。
「あの……貴方の名前は?」すると看護師は笑って答えてくれた。
「私の名前は山崎莉那です」
「山崎莉那」瑠奈はそう呟き、少し考えた後、その名前が記憶にあることに気づいた。
「えっと、貴方は確かお兄ちゃんの友達の?」
「ええ、よく覚えていてくれましたね」
「いや、だって、貴方が来てくれなかったら私は死んでいたんですよ。その恩人はしっかりと覚えていますから。山崎……ええと、山崎莉那さん、ですね。ありがとうございます」
「いえ、こちらこそ、瑠奈さんの元気な姿が見られてよかったです。本当に心配しましたから。それで、今日は退院ですか?」
「はい。お世話になりました。山崎さんがいなかったら、今頃どうなっていたことか」
「気にしないでください。私はただ、救急車を呼んだだけですから」
「それでも、助けてもらった事実は変わりませんから。それにしても、どうしてこんなにも良くしてくれるんですか?」
「それはあなたのおじいさんに借りがあるからですよ。ラバウルではお世話になった。そして今度はあなたを助けた。それだけのことですよ」
「そうなんだ」「それじゃ、私はこれで失礼します」
「はい。それじゃ」瑠奈が見送る中、山崎莉那と名乗った女性は病院の外へと出ていった。
カナカナカナカナ……セミが鳴いている。そういえばお墓参りの季節だ。
――山崎莉那。山崎……あれ? どこかで聞いたことがあるような?
まあいいか。今はとにかく家に帰ってシャワーを浴びたい気分だ。
瑠奈は病室の窓から夏の日差しが降り注ぐ外を眺めて微笑んだ。
山崎莉那は、病院を出たあと、病院近くの公園に立ち寄って、ベンチに腰掛けた。
山崎莉那の格好はタンクトップに短パンといった軽装だ。首にはペンダントが下がっている。
「それにしても、まさか私がこんなところに来るとは思わなかったな」
そして、「やあ、また会ったな。お嬢ちゃん」
その言葉に山崎莉那は振り向くと、そこには、あの時の少年の姿があった。
「貴方は……えーと、名前は……長谷川直哉君でしたっけ?」
「ああ、そうだ。お前のお陰で助かったよ」
「別に、貴方を助けようとしたわけじゃない。あの子が気の毒だったから。それだけ」
「お前も大概素直じゃないよな」
「ほっといて」
「ところで、その恰好、どうしたんだよ」
「実はこないだの豪雨で家が水没しちゃってクローゼットが水浸しに」
「だったらこれを着ろよ。妹のセーラー服だ」
「いらない」
直哉は笑みを浮かべながら、「おいおい。そう言うなって」
「嫌なものはいや。それと、これ、返しておく」
「なんだこれ。手紙か?……これは!? 何だよこれ!ふざけんな!」
「うるさい。大きな声を出すんじゃないよ」
山崎莉那が取り出したのは、瑠奈が残した置き手紙と、瑠奈の写真。
「こんなものまで……あいつ、一体、どこまで追いかけるつもりなんだ」
「分からないけど、少なくとも、私達は逃げられない」
「……そうか。……そうだな。……俺、行くよ」
「うん」
「ありがとな」
「……別に」「ああ、そうだ。忘れるところだった。はいこれ」
「……なにこれ」
「お前の服」「要らん」山崎莉那の格好が制服に変わった。「じゃあな」
「うん」二人は手を振り合って別れた。
「……さてと、私達もいい加減逃げる場所を見つけないとな」
「ああ」山崎莉那の隣に現れたのは、もう一人の山崎莉那。それは少女の姿をした分身だった。
「そろそろ次の隠れ場所に移ろう。ここは危ない。もっと遠くに行かないと」
「そうね。だけど、この世界は広すぎるよ。私達の探し物は、まだ見つからないみたいだし」
「探すしかない。それが俺達にできる唯一のことだから」
「手掛かりは私の祖父がラバウルで人助けをしたということ。情報が足りないわ」
「そうだな。まずは人を助けることから始めよう。きっと何か分かるはずだ」
「そうね」二人の少女は歩き出した。そして再び姿を消した。瑠奈は家路についた。
「お兄ちゃん。今帰ったよ」
瑠奈が家のドアを開けると同時に、兄の卓也が出迎えた。
玄関には靴が二足並んでいる。片方は男物でもう片方は女物のようだ。
瑠奈はリビングに向かった。そこには兄の他に女性が座っている。
瑠奈が女性の顔を見ると、彼女は嬉しそうに手を振ってきた。
「おじいちゃんの麦わら帽子が出てきたの」
――え? お姉さん、誰?