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エミ・サイラは王都でも活気あふれる商店街にあるパン屋で生まれた。両親は人には優しく親切にを娘エミに教え、愛情たっぷり育てたという。そのおかげか、街の子供達からはエミ姉ちゃんと呼ばれ慕われている。そんな彼女には稀な力が宿っていた。それが分かったのは些細な出来事である。


エミが11歳の時である。商店街から少し離れた宿屋にパンを届けた帰り道。商店街手前の橋の下で、膝を擦りむいて血が滲んでいる男の子を見つけた。

「あらカールじゃない。それに怪我してる。大丈夫?」

橋の下へ土手を下れる道を辿ってカールのところに近づいた。

「エミ姉ちゃん。かくれんぼしてて転んだ」

「あらもう、バイキン入っちゃうわ。手を貸すから歩ける?」

「うん、歩ける」

「その前に、血が流れてしまうから‥‥」

と持っていたハンカチを長細く折ると、カールの膝に巻こうとした。

「姉ちゃんダメだよ。汚れちゃう」

「バカね、そんな事言っている場合じゃないでしょ」

と困惑するカールをなだめて、ハンカチを巻いて抑えた。

「痛い」

「痛いけど我慢よ」

「うん」

エミはカールに手を差し出すと、ギュッと握って立たせた。その時だった。ガツンと頭の真ん中辺りに強い痛みがはしった。そして、ぐらっとよろけた拍子に膝をついてしまった。カールはビックリして座り込んだエミに声を上げた。

「エミ姉ちゃん!大丈夫?!」

不安そうな顔でエミの痛そうな顔を覗き込む。

エミはあまりの痛さに吐きそうになるのを堪え、ゆっくり呼吸を整える。ふーっと息を吐いた瞬間、握ったままのエミの手からカールの手を伝って、眩い光がカールの膝に集まっていた。

「姉ちゃん、膝が‥‥」

驚くカール。エミはだんだんと頭の痛みが和らいでくるのを感じてからチラリと横目でカールの膝を見て呟いた。

「癒しの力?」

頭痛が治って、カールの膝の傷も塞がりかさぶた状態まで回復した。

エミはついていた膝をはたきながら立ち上がり

「カール、この事は皆んなには内緒ね」

と、苦々しい笑みを浮かべると、フラフラと土手を上がって行ったのだった。

そんな事があってから数週間後。聖職者数人がエミの実家のパン屋に訪れた。子供の口を塞ぐ事はなかなか難しく、結果広まることとなる。聖職者の中で教会で有名な主任司祭のプラベル・ソラテーラ神父がいた。彼は部下から報告を受けエミを迎えに来たのである。両親を説得してエミを教会で預かり、教育を受けさせる事を約束をした。そんな事があり、彼女はオーガスタ学園に入学したのである。そして、この事が彼女を聖女候補としての始まりでもあった。


入学式が終わって講堂を出ると、少し冷たい風がショートボブの髪を揺らす。エミ・サイラは小さく笑って呟いた。

「恋まちの世界に来ちゃった」

恋まち「恋に落ちる瞬間をまちわびて」と言う乙女ゲームである。エミ・サイラはカールの怪我を治した瞬間、癒しの力と共に前世の記憶も蘇っていた。

前世のエミは大の乙女ゲーム好きだった。この世界が乙女ゲーム恋まちで、憧れの推しに会えると内心ワクワクしていた。しかも、自分はヒロインである。

「まず攻略対象を探さなきゃ」

この国の第2王子、アルノールド・サバイ・コンタノール。彼とのルートは国に革命が起きて反乱軍をエミの愛の力でアルノールドが一網打尽にする。彼の側近達と共に国を建て直す。そしてエミはアルノールドと結ばれ、新王になる彼の隣で国母として国を守ってゆく。と言うストーリー。

ランドリュース・ボンハーデンルートは宰相の次男で妹大好きシスコン。エリナーミアは見た目も中身も地味であり何に対しても後ろ向きな考えの妹である。兄はそんなエリナーミアを愛し過ぎていた。しかも兄妹の壁を超えてしまったのだ。そんな(肉体関係になった)事を父に知られてしまい勘当される。そんな時エミと出会い、エリナーミアの魅力は幻だったと気がつくのだ。美しい容姿の騎士であるランドリュースは真実の愛を知るのである。

次にクラハム・ハスラナは学園一の秀才である。入試から全てのテストでいつも学年トップなのである。頭が良いだけあって、政治や戦術など頭が良くまわる。しかし、恋愛となると上手くいかず、女性に対して苦手意識が強かった。エミに出会って恋愛の手順を学び、恋愛の素晴らしさを知るのだ。

そして最後は隠しキャラの存在。誰か分からず攻略にはとても苦労したと、SNSで攻略経験者が言っていた。その彼をも 探して絶対自分のものにすると決めた。

男主人公全員をコンプリートして、逆ハーレムを目指し、楽しい第二の人生を送りたいのである。

「早速、出会いのシーン。アルノールドと接触するわよ〜」

エミは鼻歌まじりに、アルノールドと出会う林道へ向かうのだった。


入学式が終わって、私とラルは寮に帰る林道を横に並びながら歩いている。

「そう言えばロイドお兄様、来ると言っていたけど見た?」

「いや、見てない」

「そうよね。執着系粘着質のボンハーデン家が静かなのは、とても不安だ」

そう、とても不安。

この世界にカメラがあったら、はじめての〇〇とタイトルがついて、いちいちアルバムを作るまめさがあるし、お祝い事も〇〇何ヶ月記念日的な、付き合い始めのカップルみたいにいちいち記念日つくるのだ。

ニヤニヤしながらラルは

「うちは親父も兄貴も剣にしか興味がないから、俺が入学しても興味ないみたいだ。しかもおふくろは‥‥」

とラルはモゴモゴと急に口籠もり、顔を赤くして「いや、なんでもない」と呟いた。

「何?」

「いや、いい」

「ふーん」

私はハッキリしないラルを横目にし、ふとある仮説を思いつき呟いた。

「婚約者の話でも出てるの?」

「え?!」

驚いた顔で体をこわばらせ固まっている。

「図星ね」

ま、そんな事だろうと思ったわ。

ラルの母、シルサラ・ララドールは私をラルの婚約者にしたいと思っている。政略結婚とかではなくて純粋に気に入ってくれているのである。 それと言うのも、ずいぶん前の話になるけれど、剣を習いに行って1ヶ月ほど経った時の事。稽古が終わり時間に近づき、ラルの指示で木剣を100回無心で振っていた。

そんな時「キャーッ!!」と響き渡る女性の悲鳴。

私は木剣を握りながらその声の方へと走った。その後から「どうした?」とラルも追ってくる。

現場に着くと、侍女が高貴な服装の人を庇いながら前に立ち、地面に存在する何かに怯えていたところだった。

それはさほど大きくは無いが嫌いな人にはとんでも無く恐怖なのだろうと思った。

基本私は虫が嫌いだ。誤って踏んづけてしまった時、中からあんな色の物が出るなんて、そんな存在を見るのがしんどい。赤い血が流れている生き物は怖くは無いが、ほんと虫はしんどいのだ。

私はそれの尻尾を掴むと、そいつがこちらにうねってくる前にクルクルと頭の上で回した。そして勢いつけて、花壇の更に向こうの森へ飛ぶように向けて回し勢いが乗った状態を見定めてなげた。

それは勢いよく森の中へと飛んで行ったのである。それとは、長さ1.5mほどの蛇である。

「ふむ。飛んだわね」

私は満足げに両手を腰にあてて、シルサラ様の方へ振り返った。

「シルサラ様、ヘビーな蛇でした。なんちゃってぇ〜‥‥」

怯えていたので少しダジャレでもと気を利かせてみたのだが、侍女の表情を見ると結果は言うまでもなく失敗だった事がわかる。「こりゃ不敬で罰せられるかも‥‥」などと思っていると、とりあえず 「あはっ」と笑って誤魔化してみたその時である。シルサラ様が急に笑い出した。

どうやら後から来るやつだったようだ。

涙を流し、指で拭いながら、

「エリナちゃん、お陰で怖かったのがどこかに行ったわ」

と笑みを浮かべてくれている。

「いえいえ、お役に立てて良かったです」

「あなたって、勇敢でユーモアのある娘だったかしら?ありがとう。それにあの子が熱を上げるの分かる気がするわ」

「‥‥有り難うございます?」

ここはお礼を言うところだったのかな?

遅れてラルが現れると、シルサラ様の側により

「母上、お怪我はありませんか?」

「ええ、大丈夫よ。エリナちゃんに助けて貰ったわ」

ラルはこちらを向いたと思ったらすぐ様そっぽを向いて、肩をピクピクさせている。

失礼なヤツだ。ダジャレのくだりから聞いていたのね。滑って悪かったわよ。でも、あんたの母上は笑ってたわよ。てか、いつも「おふくろ」って言ってるくせに、カッコつけて「母上」って、何言っちゃってんの〜

と、最終的に何の文句か分からなくなったけれど、誰も怪我なく事を終えて良かったと思う反面、怪我したのは私だけだと気がついた時更に傷口が開くのであった。


なんだか急にムカついてきて、ラルの二の腕にグーパンチをくらわした。

「なに?!」

「なんとなく」

「はぁ?」

理不尽にも私のイライラをくらって、ラルも困惑している。

そもそも婚約の話だったのだ。蛇のダジャレじゃ無い。

私は前世で孫も授かった52歳だった。結婚は最愛の人を45歳の時亡くして、再婚すら興味が無かった。今世で残念ながら、結婚に対して興味が無い。誰と婚約しようがどうでも良かった。

こんな状態で、ラルの婚約者になってもラルにとって切ない話である。

「ラル、あなたは‥」

と言いかけた時、林道の分かれ道近くで、痒くなるセリフが耳に入ってきた。

「アルノールド様、運命ですわ」

これは明らかに不敬ってヤツだな。第2王子の許しなく、名前呼びは残念な事である。

エリナの中の人 〜悪役令嬢と聖女編〜

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