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ちゅんちゅんという子鳥のさえずりや目まぐるしく部屋を明るく照らしてゆく朝日をこんなにも憂鬱に感じる朝は今までにあっただろうか。段々と日差しによって温まっていく部屋を他所に僕はより一層深く布団に潜った。その時
\バァン…/と、突然部屋の扉が開かれる音がした。
「王子!おはようございます!今日はとってもいいお天気ですよ。絶好のお見合い日和ですね!」
ベッドから起き上がる様子もない僕の事など気にも停めず、部屋に入ってきた黒い髪が朝日に照らされてキラキラと光る彼。朝だと言うのにとても元気で、次から次へと風呂や着替えなど準備を進めていく。
「やあー、リクス。お前、僕がこの舞踏会に全然乗り気じゃないって知ってるだろ。それにこれはお見合いなんかじゃないんだ……」
ベットから起き上がる様子もなくダラダラと文句を言っているのはあろう事かこの国の王子サマキムソクジンだ。まあ、’王子サマ’なんてまるで夢の中に出てくるようなイケメンで(まぁ、僕がイケメンじゃないってことでは無いけれど)でとっても身分の高い人みたいに言われているけど、実際には王様の息子という立場に生まれたということの副産物に過ぎないんだ、例えば1億円当たるかもしれないっていう宝くじにたまたま当たったみたいな…そんなもんでしょ。それでも、そんな役回りに生まれてしまったからには礼儀やら作法やらには小さな頃から叩き込まれていて、人よりは何事にも取り繕うのも上手い方だろう。たが、何事も時と場合によって変わるものである。僕だって王子である以前に人の子だ。人によってはさ、朝型・夜型ってあるよね。そんな圧倒的に夜型の僕としては朝はめっぽう機嫌が悪くなってしまう。今だって寝起きで声はガサガサだし多分すごく機嫌の悪そうな顔までしている自覚はある。でも、今は誰に見られているわけでもなく、部屋にいるのは彼だけなので、彼には申し訳ないがもう少し僕の我儘に付き合ってもらおう。「そんなこと言ったってしょうがないでしょ!ジニヒョンもう26過ぎようとしているのに婚約者どころか恋人のひとりも連れてこないっーて王様が痺れ切らしたんだよ。そもそも昔あったその女の子が今どこにいるのかも分からないのに」
いつの間にか敬語を忘れ普段のように話しかけてしまっている彼、フィリックスは僕がまだ小さい頃から一緒にいる使用人の一人。最初紹介された時は僕より歳下だったし背もちっさくて腕なんか片手で掴めてしまうんじゃないかってくらい細かったから「大丈夫かな」と心配だったがその実力は子供の頃から大人顔負けの技術があった。それに何よりあのなんとも言えない美しい顔とその強さのギャップがたまらなく初めて紹介された歳の近い友達にソクジンが興味をそそらないわけが無いのだ。
「夢がないこと言うなよ。それに彼女を連れてきたことがないって言うけど2・3回はお父様が連れてきた姫様方と付き合ってあげただろ?」
プーと口をふくらませて子供かのように言い返す僕に着替えを渡しながらフィリックスは、はぁと一言溜息をついた。「あんなの数に入るわけがないじゃないですか。お姫様の方は元々”顔だけは”いいヒョンにつられて沢山話しかけてくれるのに、ヒョンと来たらいっつも薄っぺらい笑顔浮かべて 「うん」か「そーなんだ」しか言わないし時々質問に答えるくらいでちっとも楽しくないってバレバレなんですよ!」
そんなこと言ったってしょうがないじゃないか…だって僕は今でも彼女に惚れてるんなんだから、――そう口に出そうになったがなにぶん彼も忙しい身の上である。これ以上引き止めるのは可哀想かなと思い
「あとは自分で出来るから大丈夫だよ。舞踏会にもちゃんと行くから、」
と伝えると一瞬疑いの目を向けたが多分色々察してくれたのだろう、そうですかではまた後ほどと綺麗に礼をして部屋を出ていった。渋々布団を出て渡された服に触れると柔らかい絹の感触が伝わってくる。黒をベースに作られているそれには金色の糸で美しい刺繍が施されており。前の留め具には王国の紋章が掘られたボタンがキラキラと輝いている。いつも以上に高価な布や見た目から父の気合いの入りようが伺える……はぁ、どうして朝起きた後に着る服はこんなにも冷たいのだろうか、と意識を馳せながら服を着込んでいると、机の上にある1つのリングに目がいった。シルバーに光るリングは自分が持ってきた記憶が無いし、父がこんな装飾品に興味を持たないことから、多分今日つけていきなさいという母上の計らいによるものだろう。だが、そんなことよりソクジンの気を引いたのはそのシルバーの上で艶々と輝く琥珀色の宝石だった。あの子の目みたいだ……そう思うとあの日、彼女とすごした日々のことが鮮明にフラッシュバックした…。
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彼女との出会出会いもまたフィリックスと同じくらいの時期だったのではないだろうか。毎日追われるように増えていく勉強と礼儀作法のレッスンにいい加減痺れを切らして気晴らしとでも言うかのように城を抜け出した時、その子に出会ったのだ。青々と一面に広がる草むらの丘の上で、木でできた剣を振るうその少女の剣さばきはさながら舞のようでそれでいてビュンビュンという力強い音がする。その姿に目が釘付けとなったのを今でも鮮明に覚えている。日差しを十分に受けた少し焼け気味の薄い褐色色の肌。そして剣を振る度にふわっと動く美しく白いクルクルの癖の入ったベリーショートの女の子。彼女こそがソクジンの数少ない友人の一人であり、密か初恋の人である。
「ねぇ、なにもして来ないみたいだから黙ってたけどなんか用?それとも君も僕のことをからかいに来たの?」
可愛い外見とは裏腹に少し口が悪いのが子供ながらにグッとくるものがあったんだっけ…
「いや、違うよ…ただ…僕はなんというか……」
王子だ、ということも君に惚れ惚れしていた、とも言うことが出来ずなんと言ったら良いのか分からなくなってしまった僕に興味をなくしたのか、害がないと判断したのか彼女はそっ、と言うと再び剣を降り始めてしまった。普段ひとつのものを長時間見るのはあまり好きでは無いはずだったのだが、彼女が剣を振る姿を見ているとあっという間に時間が経ってしまったようだ。一通り特訓が終わったのか一瞬こちらに目を向けた気もするがそのまま彼女は何も言わず去ってしまった。そこで気がついたのだ、外に出た時には南東くらいに行ったはずの太陽がもう南西の空へ差しかかろうとしていることに。まあ、その後のことは言わなくても分かるだろう。城へ帰った途端に両親2人から説教をくらい挙句の果てには勉強まで倍にされてしまった。だが、その時の心に後悔の気持ちは一切なくウキウキとした高揚感で満ちていたのは内緒である。
その日をきっかけに気づくと暇があればそっと城を抜け出し彼女の元へ出向いていた。どうやら彼女も毎日そこに来ているようで数日空けてから来ても彼女はそこで特訓をしていた。相変わらず名前は知らないしどんな子なのかも分からないがそれでもその姿を見れるだけで何故か疲労という疲労が何処かへ飛んで行ってしまうようだった。そうして、そこへ出向くようになって8回位だったかな?多分それくらいが過ぎようとした頃、彼女が不意に話しかけてきたのだ。
続く