テラーノベル
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『声の主は、蠢く闇』サイト-19の、摂氏5度以下に保たれた極寒の地下隔離室。研究員のアイは、何重もの防弾ガラスの向こうにある、暗く凍てついた部屋を見つめていた。部屋の隅に、一人の男が立っている。それは、白衣を着たアイの先輩研究員の姿にそっくりだった。しかし、彼の歩き方はどこか歪で、ガタガタと不自然に体を揺らしながら、ゆっくりとガラスの方へ近づいてくる。「SCP-906、これより定例の音声対話実験を開始します」アイがマイクに向かって声をかけると、ガラスの向こうの「先輩」がゆっくりと顔を上げた。ライトの光がその顔を照らした瞬間、アイの心臓は恐怖で跳ね上がった。彼の顔には、目も、鼻も、口もなかった。顔に見えていたものは、何万匹、何十万匹もの、焦げ茶色の細長い虫の群れだった。それらが、まるで一つの巨大な生き物のように、ベチャベチャと音を立てながら、お互いの体を複雑に絡み合わせ、必死に「人間の形」を維持していたのだ。『アイ……アイ……たすけて、くれ……寒いんだ……』スピーカーから響いたのは、あの日、この部屋のメンテナンス中に行方不明になった本物の先輩の声だった。かすれてはいるが、間違いなく彼の声だ。しかし、アイは騙されなかった。このSCP-906は、捕食した人間の声を完璧にコピーし、仲間を安心させて引きずり込むための「囮」として使う知性を持っている。あの先輩の肉体は、とっくに彼らの体内にある強力な酸で、骨も髪の毛も跡形なくドロドロの液体に溶かされ、すべて吸い尽くされているのだ。『どうして、ドアを、開けてくれないんだ? アイ、私の名前を、呼んでくれたじゃないか……』人型の虫の塊が、防弾ガラスにその「手」を押し付けた。ジジジ、と嫌な音がして、ガラスの表面から白い煙が立ち上る。彼らの皮膚から滲み出ている、金属をも一瞬で溶かす強力な腐食酸の液体だ。もし、この部屋の温度管理システムが壊れて、室温が5度以上に上がってしまったら。冬眠状態から目覚めた何百万匹もの虫たちが、一斉に人間の形を解き、真っ黒な「動く絨毯」となって床や天井を埋め尽くすだろう。そして、通気口や排水管のわずかな隙間から基地中に溢れ出し、出会った人間を全員、笑いながら生きたまま酸の海に沈めていくのだ。『アハ、アハハハハハハ!』突然、スピーカーから、先輩の声を使った不気味な爆笑が響き渡った。ガラスの向こうの人型はぐにゃりと崩れ、何千匹もの虫が床へポタポタと落ちては、また這い上がって男の形に戻っていく。彼らはアイが恐怖に怯えているのを理解し、楽しんでいるのだ。「……音声を遮断。部屋の冷却装置を最大出力に」アイは震える指でボタンを叩き、マイクを切った。ガラスの向こうの闇の中、こちらをじっと見つめる、顔のない虫の塊。アイは足早に部屋を後にしたが、通路を歩いている間も、自分の背後から「アイ、助けて」と、あの溶かされて消えたはずの先輩の声が追いかけてくるような強い幻聴に襲われ、ただ一人、冷たい通路で耳を塞ぐことしかできなかった。
直線NN
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コメント
1件
うわ、背筋が凍ったわ…第8話めちゃくちゃ怖かった😨 アイ研究員が防御ガラス越しに向き合う“虫の塊”の描写が生々しくて、先輩の声で「助けて」って囁く狡猾さがゾッとするね。騙されずに冷却最大にした判断はプロだと思ったけど、通路にまで幻聴が追いかけてくるラストが余韻を残しすぎてる…次が気になる🔥