大森side
コン…コンッ
控えめに病室のドアをノックする音。
大森「どうぞ」
僕の返事の数秒後、ゆっくりと開かれたドアから若井が病室に入ってきた。
大森「ここ座りなよ」
僕のすぐ横にある椅子を指さして若井に座るように誘導する。
しかし、椅子の前までは来たけど、俯いたまま一向に座ろうとしない
大森「若井……?」
俺の声掛けを合図に若井がバッと顔を上げ、俺と目を合わせたと思ったら、腰を90度に曲げ謝罪をしてきた
若井「元貴!!ごめん!!」
大森「いや、若井だけが悪い訳じゃないし」
若井「原因は俺だ、俺が自分をちゃんとコントロール出来てればこんな事になってなかった!
だから本当にごめん!!」
大森「とりあえず座ってよ。俺、若井のつむじしか見えないまま話するのは嫌だし、目、見て話そうよ」
そう俺が若井になげかけると顔を上げ、目の前の椅子にようやく座った。
右の口端が切れているのは、本当に涼ちゃんが若井を殴った証拠だった。
目がどことなく赤いのも先生から怒られた結果の産物なのだろう。
大森「若井……俺こそごめん」
若井「いや、元貴は悪くなくて悪いのは全部俺で」
大森「いや、俺も悪い。先生に怒られたし」
若井「え、元貴も?」
大森「うん。サブドロップで下手したら死ぬ事もあるからって」
若井「やっぱり俺が」
大森「だから違う。あの状況がどんな理由で出来たとしても最終的に首を縦に振らなかったのは俺。だから若井のせいだけじゃないんだ」
若井「ごめ……本当ごめん」
大森「もうやめよう、謝るの……互いにずっと謝罪し続ける事になる。だから仲直りの……握手」
涼ちゃんの時と同じ様に若井の前に手を差し伸べる。
若井も納得はしていない顔ながらもゆっくりと手が伸びてきて俺の手を握った。
大森「これで仲直り。もうおしまい。……にしても若井のソレ……痛そうだね」
若井「あーこれは」
大森「知ってるよ。涼ちゃんでしょ」
若井「聞いたんだ」
大森「涼ちゃんが「若井をぶん殴ってボコボコにしてやった」って言ってた」
若井「いや、話盛りすぎ!ボコボコにされてないし」
大森「あはは、ボコボコは嘘だけど殴っといたって」
若井「……うん、涼ちゃんの元貴への愛情の重さだっからすげー重いパンチだった」
大森「俺、愛されてるわ〜」
若井「……」
大森「……」
若井「あの」
大森「あのさ」
若井「先にどうぞ」
大森「いや、若井から」
若井「…………退院はいつ?また長い?」
『また』と言われたのは昔の事と重ねられてるのだろうか……
少し昔を思い出して胸がわさわさする。
大森「明日には退院。一応念の為って事での入院みたいなもんらしいから。身体はもう大丈夫」
若井「そう、それなら良かった…………あのさ、明日、俺が来ていい?」
明日退院だと言っても特に何かある訳ではないが、来たいと言うのは若井なりの気遣いだろう
大森「退院が何時か俺わかんないからマネージャーに聞いて若井の時間が大丈夫なら別にいいよ」
若井「わかった。マネージャーに聞いて大丈夫なら俺来るから」
大森「うん、ありがと」
若井「元貴は?さっき何言おうと思ったの?」
大森「あー…………何だっけ?忘れた」
若井「えー絶対嘘じゃん」
大森「嘘じゃないって、本当に何言うつもりだったか忘れた。思い出したらまた言うって」
本当は忘れてなんかない
ただ、話の流れで若井の俺への愛はどうなの?って聞いてみたくなった。
でも若井には女がいる。
聞くだけ自分が苦しいだけなのに聞きたくなったなんてどうかしている
そんな事をすれば、知られたくない感情に気付かれるかもしれないのに
でも……若井の口からはっきりと否定の言葉を聞いてしまえば最初はつらくても時間とともに気持ちが楽になるかもしれない
でも……
やっぱり今は怖くて聞けない
俺も涼ちゃんみたいに素直な気持ちを言葉にしたり、行動出来たら少しは変わるのだろうか
大森「……涼ちゃんが羨ましい」
若井「え、急にどうした」
大森「思った事を行動に移せるって凄いなって思って」
若井「まあ、確かに、現に移した結果がコレだもんな」
そう言って自分の口端を指さして笑う若井。
大森「涼ちゃん見習って俺も若井を殴るか」
若井「それは勘弁してっ、これ以上になるとメイクさん泣かせちゃうって。せめて他の事にして」
大森「えーー、じゃあ……美味いパスタ食いたい」
若井「また地味にめんどくさい」
大森「なら張り手一発」
若井「パスタでお願いします」
大森「ふふ」
若井「あはは」
ふたりだけで笑い合ったのはいつぶりだろう
やっぱり聞かなくて良かった
今のままでいいんだ
今のままがいいんだ
笑った後も若井と他愛もない話をしていたけど、面会時間の終了が近付いた事を看護師が伝えに来た為、若井は席を立った。
若井「長いことごめんな、じゃあまた明日」
大森「マネージャーにちゃんと聞いてからな」
若井「わかってるって」
若井は俺の頭をポンポンとして病室から出ていった。
「また明日」
その言葉に期待を持ってはいけないと思いつつ、来てくれたらいいなと思った。
それが今の素直な気持ち
今だけ
今日の今だけ
明日を期待して俺はベッドに背中を預けた。
コメント
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お二人さんともまだまだ恋愛への初心者マークが取れてなくて可愛い…🤭 もう我が子のようにこの2人を見守っていきます、誰にも邪魔はさせません、(?)
読むのが少し遅れました… このもどかしさも最高です!♡ kuraraさんやっぱり神様ですよ。 大森さんの期待が現実になりますように…♡ 続き楽しみにしてます、!