今回まじで分かりにくいので雰囲気で読むことをオススメします。
第二話 「目を覚ます朝」
白い天井が、ゆらゆらと霞んで見えた。
どこかで、鳥の声がしている。
やわらかい布の感触。
冷たくない。
……あたたかい。
小さな胸が、ふかふかの布団の中で小さく動いた。
まぶたのすき間から、淡い光が差し込んでくる。
晴明「……ぅ、ん……」
声にならない声が漏れる。
首を動かすと、ほのかに薬と木の匂いがした。
昨日まで嗅いだことのない匂い。
人の家の匂いだった。
蘭丸「起きたみたいだよ」
すぐそばで声がして、はるあきはびくっと肩を跳ねさせた。
そっちを見ようとしても、布団が重くて動かない。
かわりに、ひょいっと顔をのぞきこむ影があった。
道満「おいちび、」
しかめっ面で僕を見る男の人は、昨夜見た“あったかい腕”のひと。
蘭丸「あっちゃん、そんな言い方したらびっくりしちゃうでしょ〜。」
道満「はぁ?……ガキの扱い方とかよく分かんねぇんだから仕方ねぇだろ?」
蘭丸「もう仕方ないなぁ」
蘭丸「ねえ僕、ここが、どこかわかる?」
晴明「……ん、……うち、じゃない……」
蘭丸「そうだね。昨日、雨のなかで倒れてたの覚えてる?」
晴明「……あめ……ぬれた……」
蘭丸「うん、びしょ濡れだったよ。寒かったでしょ?」
そう言って、男――蘭丸はゆっくり手を伸ばして、はるあきの頭を撫でた。
その掌の動きは、風のように静かで、あたたかい。
蘭丸「なまえ、わかる?」
晴明「……はる、あき……」
「はるあき、うん、いい名前だね。俺は蘭丸。あっちにいる怖い顔の人が道満」
視線の先。
蘭丸の隣で腕を組んだ男だった。
眠気も飛ぶような鋭い目。
でも、そこにあるのは怒りではなく――警戒。そして不安。
蘭丸「……まだ熱が高いね」
道満「雨に打たれてたってのと……まだヒートが収まってないからじゃねぇか?」
蘭丸「ヒートねぇ。年齢のわりに、ちょっと早すぎるけど……」
蘭丸が小声でそう言うと、道満は眉を寄せて短くため息をついた。
道満「……そういう体質なんだろ。とにかく、落ち着くまで動かすな」
蘭丸が頷いて、木盆をテーブルに置く。
湯気の立つおかゆの香りが、ふんわりと広がった。
はるあきの喉が、ごくりと鳴る。
蘭丸「食べれる?」
晴明「……た、べ……」
蘭丸「食べたい?」
晴明「……うん……」
スプーンを差し出されると、はるあきは小さく頷いた。
けれど手を伸ばそうとして、力が入らず、こてんと倒れる。
慌てて道満が支える。
道満「おい、無理すんなって。俺が食べさせてやる。」
晴明「……ん……」
熱でぼんやりした頬に、ひとさじのおかゆが運ばれる。
あつくて、優しい味がした。
喉を通るたびに、体の中の痛みが少しずつほどけていく。
晴明「……あったかい……」
ぽつりと呟いたその声に、蘭丸は少しだけ笑って。
道満は視線をそらしながら、低く呟いた。
道満「……よく生きてたもんだな。あんな冷たい雨の中で」
蘭丸「だから、見捨てられなかったんだよね」
道満「……お前らしいな」
蘭丸は笑って、布団をそっとかけ直した。
はるあきの小さな手が、無意識にその袖を掴む。
まるで、もう離れたくないと伝えるように。
蘭丸「……だいじょうぶ。もう寒くないよ」
蘭丸の声に、はるあきのまつげが小さく震えた。
その奥で、夢のような意識の中――
知らない家のぬくもりに包まれたまま、彼は静かに息を整えていった。
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