テラーノベル
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あの日から、いろはは学校を休んでいた。
何も言わなくても、兄たちは文句を言わな かった。
「休んでいい」って、言葉よりも行動で伝 えてくれた。
朝起きれば、混斗があたたかいスープを作 ってくれていた。
涼也は、さりげなくカーテンを開けて、部 屋に光を入れてくれる。
元貴は、何も言わず横に座ってくれる。た だそれだけで、不思議と呼吸が楽になっ た。
「無理に話さなくていいよ」
「泣きたいときは泣いていいよ」 「君がそこにいるだけで、俺たちは嬉しいんだから」
そんな風に言ってくれる人がいるなんて、 いろはは知らなかった。 いつも「普通にならなきゃ」 「期待に応え なきゃ」って、そう思っていた。
ある日、こたつの中でいろははぽつりと呟 いた。
「…..ねえ、もし….. 私が、死んでたら、ど う思う?」
突然の言葉に、兄たちは黙った。
しばらくして–元貴が、はっきりと答えた。
「地球ぶっ壊したくなるくらい、悲しいと 思う」
「俺、多分、自分責めると思う」 混斗も、ふざけた口調を封印して、真剣な 目でいろはを見た。
「もっと守れてたらって。毎日、そればっ か考えると思う」
涼也も、そっと手を握った。
「ねえ、いろは。あなたが生きてくれてる ことって、本当に尊いんだよ。
泣いても、寝てばっかでも、笑わなくて も、いてくれることが….. 嬉しいんだ」
いろはは、泣いた。
ぽろぽろと、声も出せないくらい泣いた。 誰にも理解されないと思っていたこの苦し みを、誰かが一緒に背負ってくれることが、こん なにあたたかいなんて–
数日後。
少しだけ早起きして、鏡の前に立ったいろは。
目の下にはまだクマがあって、手首にはま だ傷がある。
だけど、自分の中にある“少しだけ頑張って みたい気持ちに、
初めて気づいた。
「…… ありがとう、みんな」
小さく呟いて、いろはは初めて自分でリビ ングのドアを開けた。
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