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くわぁ…と欠伸を漏らした楽に、トナカイ頭の鹿島がムッと顔を顰めた。

トナカイの頭を被っているので見えないのではないか?と思うが、仲間として過ごしている時間が長いせいか、鹿島がいい顔をしなかったのは察しが付く

「楽?昨日は何時に寝たのですか?」

「昨日?と言うか…今日?」

「はぁ…しっかり睡眠を取らなければモチベーションの低下に繋がりますよ!?」

まるで、反抗期の子を抱える母の小言のようなこと言う鹿島

全く表情を動かさなかった楽だったが、内心(しまった、面倒臭い事になった…)と思い、ソファーで花の図鑑を見ているXに視線を移した。

Xも眠りが浅く、夜更かしをしていることを知っていた楽は「ボスだって、よく夜、寝てないじゃん」と言い訳を始める

Xを比較として出されると、鹿島は弱い

今回も「そ、それは!X様は考えることが多いからで!」やら「常に、私たちを見守るために!!」など言っているが

結局、Xが夜更かしをしていると言うことを認めている事になり

言えば言うほど、夜更かしをしても仕方がない!という感じになってしまい、鹿島は「ぐぬぅ…!!」と唸る

「…僕はちゃんと7時間寝ているよ?最近はね」

「え?」「何ですって!?」

Xが図鑑のたんぽぽを眺めながらそう告げると、楽と鹿島は(ありえない!!)と言いたげな顔で見た。

現に、二人はXが寝た姿を見たことがなかったからだ…

Xが目を閉じるのは瞬きの瞬間だけ、と思っていた二人にとって【7時間睡眠】が衝撃的だったようだ

「そ、そうなのですね…あの…どう言った方法で?」

鹿島は、純粋にXの睡眠について気になり疑問を投げ掛けたのだが

Xは、思い出すかのように「ふむ…」と口に指を掛け…口角を少し上げて微笑んだ

もちろん、そんな表情もなかなか拝めることができないため、鹿島は「はうっ!!」と胸を抑えると膝から崩れ落ちる

いつもの光景を楽もただ眺めているが、彼も自分のボスがこんなに嬉しそうに微笑む姿をあまり見たことがなかったため、一体何があったのかと首を傾げた。

「寝たくなった時は、最近、添い寝屋を利用していてね…」

「「…添い寝、屋?」」

「あぁ、添い寝屋だよ…最近やっとお気に入りのキャストを見付けてね…でも、人気があるみたいで中々予約が取れないんだ」

「そいつはどんな奴なんです!?怪しくはないのですか!?」

「安心してくれ、ある意味身元はしっかりしている…それに…とても可愛らしい子だよ、子猫みたいで」

(X様と寝室を共にするだと!?う、羨ましいっ!!)

(…ボスってデリヘルとか頼む感じなの?)

(そんな!!この方に限ってそんな不埒なことありませんよっ!!)

コソコソと鹿島と楽が話していると、Xはスマホを取り出し何やら打ち込んでいる

少しして楽のスマホが振動し、何が来たのかと確認すると目の前のXからメッセージが届いていた。

それを開くと、そこには【GoodSheep:お友達招待割引券付き!!】と大きく書かれたメールが入っていた。

「そこに書いてあるキャストを選べば、友達割で少しお手軽に指名できるよ」

「…なんか、頼む事になってる?」

「ゲームで夜更かししてしまうなら、添い寝して貰えば寝るだろ?…言っておくが、君たちが想像しているような性的サービスではないからね?」

ある意味逆らえない上司命令に、楽は心底面倒臭そうに頭を掻く

もはや何が何だかわからなかった楽だったが、Xが隣に来て「このキャストだよ…」と言って選択したのは【朝倉くん】という男性キャストだった。

殺連騒動の時、一応出会っているのだが…

楽は、シンのことは覚えておらず、本当にただ…上司が勧めてきたキャストとしか認識していない

「…男っすか」

「女だなんて言っていないだろ?それに【朝倉くん】はチョr…扱いやすいから、すぐに打ち解ける」

「俺で遊ばないでくださいよ…」

(絶対チョロいって言い掛けた。)

「あ、あのX様…わ、私も…!!」

「…鹿島さん耐えられそう?ボスのお気に入りに嫉妬しそうじゃない?」

「うぐぅっ!!」

(否定はしねーんだ…)

男に添い寝される事になるとは…楽もこうなるとは、思っていなかっただろう

プロフィール画像はスタンプでほとんど顔が隠れていたが、その隙間から見えている金色の頭髪は、Xが見ている図鑑のたんぽぽと同じ色に見えた。

【特技:マッサージ】と記されているため、Xが言っていることは嘘ではない

だが、別に楽はどこか凝っているという自覚はない…特に不調もないのにどこをマッサージするのか、と、思うと…やはりそういう事なのか?

しかし、ハッキリと【性的サービス】は無いと言ったので

「ボス…マジで添い寝してもらってるんっすか?」

「あぁ、彼と一緒だとよく眠れるんだ…程よい硬さと温かでね…良い香りもするんだ、楽もきっとぐっすり眠れるよ、特別に彼を譲ってあげよう」

「えっと…譲る?」

「本当はその日は僕が予約したかったところだけれど…この子は人気過ぎて、直ぐに予約枠が埋まってしまうんだ、全日予約したいところなんだけどね」

「ボス、めっちゃ語るじゃん…」

(しかも、結構ガチ勢)

楽は結局、二週間後に【朝倉くん】と添い寝する事となり

「忘れないようにね」と言ったXは、花の図鑑でヒマワリを眺めている

予約をした二週間までは、あっという間だった。

色々と裏工作だったり、殺連への攻撃だったりをして…──そして、添い寝屋のことなど忘れていた時

…Xが楽を呼び止めた。

「楽」

「?」

「家に料理を注文しておいたから、朝倉くんと食べるんだよ?」

「朝倉くん?誰っすか?」

「やれやれ…やはり忘れていたか、今日は、前に話していた添い寝屋のキャストの【朝倉くん】が来る日だよ?」

「……あぁ〜、そんな話ありましたね」

(俺は別にどうでもよかったんだけど?

…あぁ、ほら、部屋の外で鹿島さんがハンカチ噛んでんじゃん)

楽しげに【朝倉くん】について語るX

どういう構造になっているのか全くわからないが、二人がいる部屋の外で鹿島のトナカイも涙を流している

Xは気にしていないようだが、選択したコースの確認をしておくように言われ、確認のための折り返しメールに目を通す事にした。

【朝まで添い寝:朝食付き】X曰く、初回客は皆このコースになるのだという

朝食をキャストが作ると聞き、楽も(朝食出てくるならいいか…)と気楽に考え、家に戻った。

楽の家は、単身者向けのワンルームのため寝室というものは無く、ソファーベッドが部屋に置かれている

適当にゴミをまとめ、Xが頼んだという食事が届き…つまみ食いをしながら時間を潰していると、インターホンが鳴った。

「こんばんは!」

「あー…どうも、すごいね、時間通りじゃん…あの、じゃあ…狭いけど…」

キャップを被りニコッと屈託なく笑う朝倉

楽はキャストを玄関に招き、朝倉がキャップを取ると金色の髪がよく似合う快活そうな青年が立っていた。

「お邪魔します!…改めて、GoodSheepの朝倉です。よろしくお願いします!」

家に上がる前に朝倉は「店の決まりなんで、先に確認事項あるので聞いてもらってもいいですか?」と楽に声をかける

何という事もない、客である楽の名前とコースを口頭で確認し、楽は全てに間違えはないと頷く

朝倉は、それを確認してから家に上がった。

「飲み物、お茶でいい?」

「ありがとうがざいます!あ、手伝いますよ?」

「ねぇ、朝倉くん?だっけ…敬語とかいいよ、俺たち年近そうだし」

「…タメ口でいいんですか?」

「うん」

「わかった、じゃあタメ口で!」

朝倉にお茶を出し、テーブルに広げたオードブル料理を食べていると、話は【何故、添い寝屋に申し込んだのか?】という話になった。

何故と言われても…楽自身も何故こうなったのか首を捻るしかない…

とりあえず、最近夜更かしがちな自分に上司が心配して添い寝屋を勧めてきた…ということを簡単に説明すると、朝倉も「ゲームで夜更かしかぁ」っと納得した。

「そういえば、ゲームって…どんなのやってるんだ?」

「最近はFPSが多いかな」

「FPS?」

「一人称視点のシューティングゲームだよ、ファーストパーソン・シューティング」

「へぇ〜!!」

「…朝倉は、ゲームとかしないの?」

「俺…やった事ないんだ、ゲーム…」

苦笑いを浮かべながら頬を掻く朝倉は嘘を言ってない、今までの境遇のせいで、まともにゲームなどの娯楽に触れたことはなく

楽が触っていたポータブルゲームを気にしていたのは、言うまでもない

「食べ終わったらやってみる?」

「いいのか!?」

パッと輝いた顔に「ダメ」なんていう言葉が出るはずもなく、Xが言っていた『チョロい』の意味がわかった気がした。

人懐っこい雰囲気でこちらの懐に飛び込んでくるが、朝倉自身も両手を広げて立っている…そんな雰囲気だ

「そう言えば、風呂入るんだよね?ゲームやってる間に入れとくか…パーティーゲームとかにしとく?マリオとか」

「まりお…?」

「ホント変わってるね」

食べ終わった器を片付けながら、早速ゲームをダンロードする

そのあと浴槽の栓を落とし、給湯ボタンを押した楽が戻ってくると、朝倉は大きなテレビ画面に写ったゲームに食い付いていた。

ゲームのOPにそこまでの感動を覚えたことがない楽にとって、朝倉のその表情は純粋に楽しんでいる子供に見えた。

「風呂、30分後とかでいい?」

「わっ!?…あ、あぁ!!」

気配もなく背後に立った楽に驚いていたが、差し出されたコントローラを受け取り頷く朝倉

楽の慣れたコントローラさばきに、朝倉は何度も画面と手元を見比べて「すげぇ!」と喜ぶ

今までソロプレイしかしたことがなかった楽にとっても、初めて一緒にゲームをする人がいると言う状況に(あれ?いつも俺どうやって遊んでたっけ?)と首を捻る

パーティーゲームの30分などあっという間だ…対戦途中で風呂が沸き、楽はわざとポーズ画面を開いた。

「あっ!?」

「風呂沸いたし」

「ぜってぇ嘘じゃんか!俺、リードしてたのに!!」

「いやいや、何言ってんの朝倉くん…ハンデだから」

気兼ねなく話すようになっていた楽と朝倉は、互いに憎まれ口を叩きながら浴室へ向かう

朝倉が小瓶を開け浴槽にオイルを落とすと、浴室にラベンダーの香りが広がった

「花?」

「ラベンダーだよ、一応安眠効果促進」

「マジで添い寝すんの?」

「俺が派遣された意味無くなるから、今日は寝ろ!」

浴室から出て行く朝倉、楽は風呂に浸かりラベンダーの香りを吸い込み(こんなんで、本当に眠くなんのかなぁ…)と首を傾げる

よくアロマだなんだと言われているが、楽はそこまで効果がある様には思えないでいた。

体が温まってから風呂場から出ると、スウェットを抱えた朝倉がソファーベッドに寄り掛かりながら、テレビを眺めていた。

「チャンネル変えればよかったのに」

「っ!?…なに、お前って気配消すのうまい?」

「…意識したことはないけど?」

「そ、そうか…えっと、風呂入ってくる」

浴室へ消える朝倉を見送ってから、楽はソファーベッドの背もたれを倒しベッドの形に変えると、他のゲームを取り出し時間を潰す

それほど時間もかからず上がってきた朝倉は、ソッと楽の後ろに周り、その画面を眺める

「気になる?」

「なるけど、俺そんなのできる気がしねぇよ…見てるだけで良いわ」

「…ゲーム続きする?」

「する!ぜってぇー勝つ!!」

ゲームを再開させた二人は一時間ほど遊んだあと、朝倉はベッドに倒れ「負けたー…」と唸る

ゲーマーな楽と違い、ゲームを触ったことのない朝倉ではこうなるのも分かりきったことだろう…それでも「楽しかった!」と言った朝倉を見て、楽も「パーティーゲームも、面白いんだな」と返した。

「寝るか、もう11時だし」

「まだ11時だよ?」

「…よーし、分かった!絶対寝かす!!楽、ベッドに横になれ!!」

「え」

ベッドに寝かされ、朝倉は楽の背中に跨る

重みと暖かさが伝わり、首、肩、腕、背中…と温かい手が楽の身体を這っていく

(…気持ちいい)

怪我ばかりで、痛覚はあってもあまり触覚を感じていなかった楽も、血が巡る感覚に身体が温まっていく

目元が熱くなり、眠くなってくる…と言う感覚に楽は驚きつつも瞼を閉じると「マッサージ終わり、な?眠くなってきただろ?」と問い掛けた朝倉は、布団を楽に掛け、その中に潜り込んできた。

温かい塊に、楽はそれを抱き締める

(あ、花の匂い)

「7時起きで良いのか?」

「ん、勝手に起きるから…」

(抱き枕、今度買おう…)

ラベンダーの香りを感じながら、少しずつ呼吸がゆっくりとしていく

くわぁ…と、あくびを吐いた楽は、そのまま意識を眠りへと落とした。


………


珍しくシンは目が冴え、楽を起こさない様に頭を動かすと抱き締めていた腕に力が入った。

一緒に寝ていて何も感じない、と言うことは時折ある…今回の客、楽もそうだった。

夢を見ていないのだ…眠りが深く、夢を見ないこともあるが、こんなに寝ていて夢を見ない人は稀だ

(…本当に何も見てないのか?)

ある意味好奇心に近かったのかもしれない、シンは少し動き、楽の額に自分の額を付けた。

見えてきたのは、真っ暗な空間で…ヒヨコがピヨピヨと鳴きながら楽の周りを歩き回っている光景だった。

楽は突然ゲームをし始め、ヒヨコは大人しく膝の上に乗るとその画面を眺めて、またピヨピヨと鳴く

額を離したシンは、そのヒヨコが楽の中の自分のイメージだという事に気が付き、眉間にシワを寄せ…背中をつねった。

「い”っ!…なに…?」

「……」

(気のせい?背中つねられて気がしたけど…)

シンを抱え直した楽は、目を閉じ…寝息を立てる…

予定時間に目が覚めたシンは、時間を確認した後ゆっくりと身体を起こした。

楽は起きない…まだあのおかしな夢を見ているのかもしれないと思ったシンは、軽く楽の鼻を摘まんでからソファーベッドから降りた。

リビングと台所は目に着くほどなので、朝食の準備中に起こしてしまう事になるが

今日ぐらいは早寝早起きをさせようと考え、シンは冷蔵庫からベーコンとチーズ、卵を取り出した。


………


パチパチとフライパンで何かを炒めている音を聞き、楽は目を覚ました。

卵が焼ける香りに布団から顔を出すと、それに気が付いた朝倉が「あ、起きた…おはよう!」と声を掛ける

フライパンの上で跳ねているオムレツを、楽がベッドから頬杖を突いて眺めた。

「意外と料理が趣味とか?」

「自炊する様に見えるか?」

「…オムレツは作れるんだ」

「一応、客先ではな…俺、もう家出るけど」

「そっか…ねぇ、朝倉くん」

「ん?」

「ここまでの交通費っていくらだった?」

「今回は交通費かからないぞ?お友達割だったから」

「次回だよ、あのゲームもまだミニゲームとかいっぱいあるみたいだし…ダウンロードした分は遊ばないと勿体無い」

それらしく言っているが、楽自身もそんな言葉が自分の口から出るとは思っておらず…

楽の方が不思議そうな顔をしたので、朝倉も妙な顔をして「あぁ、そうか…?」と答えると皿にオムレツを出した。

「えっと…交通費だったよな?往復で2000円だけど」

「じゃあ、次回は用意しとく」

「そう言えば、今回は楽の上司からの招待だったのか?」

「うん、結構通い詰めてる?っぽい…なんか、ガチ勢」

「は〜…コアな客かぁ、良いじゃん!」

布団から抜け出した楽は、テーブルに置かれたオムレツを見て「美味しそう…」と感想を告げた。

朝倉はカバンを持ち上げ、家から出るように玄関へ向かうと楽も見送るために着いてくる

「面白そうなゲームあったら探しておくよ」

「うん」

あっさりと帰っていく朝倉の背中を見送り、作って貰ったばかりのオムレツを口に運ぶ

その日の昼、Xに朝倉について感想を聞かれた楽は、「ヒヨコみたいだった」と答え

Xは、楽のそんな感想に声を上げて笑った。




その日の朝倉は、少しテンションが高かった。

今回の指名は【ゲーム好きの楽】

家にいけば自分でもできるゲームを選んでもらい、一緒に遊んで添い寝をする

この間はパーティーゲームでやっと勝てたので、今回も勝ってやろうと朝倉は息巻いていた。

(あの時の悔しそうな楽の顔、面白かったなぁ~)

ムッと拗ねたような顔で朝倉を見て「運ゲーだろ、これ」と文句を言った楽は、その隣で喜んでいた朝倉の脇腹をつつき抗議した。

そんな事もものともせず朝倉がさっさと寝る準備に入るため、楽も其れに従う

二人の間には、ゲームで勝った方の言うことを聞くという、子供っぽいルールがいつの間にかできており

朝倉からは【12時までに寝ること】楽からは【午前2時までゲーム】

初めて添い寝してから、次の添い寝の時はなかなか素直に寝てくれなかった楽も、すっかり朝倉を抱いて寝ることに慣れてしまい

【午前2時】までだったルールは【午前1時】までに縮んだ…いったいその一時間で何が変わるのか?と問えば「海外のプレイヤーは大体その時間からはいるから」だそうだ

前に一度、なかなかゲームを終えない楽の痺れを切らしプレイを邪魔した時に気絶させられたため、朝倉は止めに入らなくなった。

しかし…その日は楽を起こしもせず家を出て、二回ほど指名を蹴った。

【備考欄】に「ごめんなさい、ちゃんと言うこと聞きます。」と入り、やっと指名を受けた時、楽は平身低頭…素直に寝付いた。

そんな、楽と朝倉の客とキャストの関係は友達のような間柄でもあった。

「お前、抱き枕とか買わないの?」と以前読んだ思考をそれとなく言うと「朝倉がいるし、要らないでしょ」とゲームの片手間に返され、少しの優越感にニヤけたのはバレていないだろう

―ピンポーン!―と、楽の家のインターホンを鳴らすとドアが開き、楽は「いらっしゃい」と朝倉に声を掛ける

「お邪魔しまーす」と何時ものように部屋へ入り、テレビ画面を見ると、暗い廃屋のようなものが見えた。

「今日はなんのゲーム?」

「…的当て系、さっきダウンロードした。」

(かわいい…ヒヨコかよ…)

「…長くなるなら風呂入ってからにしようぜ?」

「いいよ、じゃあ、飯食おう…お茶取ってくる」

(今日の風呂は何の匂いかな)

最近は、不意に聴こえてくる楽の思考に振り回されることもなくなってきた。

初めて(かわいい…)と言う思考が聞こえたときはドギマギとしてしまったが

楽が思う【かわいい】は大体小動物や、それこそヒヨコのような愛玩動物を指すものだと言うことも分かってきた。

(かわいい…)と思わせる程あざとくは動いているつもりはないので、楽の感性が特殊なのだと朝倉は思っている

何時もの美味しそうなデリを頬張っていると、不意に楽の手が延び口元を拭き取り、ソースが付いた指をペロッと舐めた。

「え…あ、えっと…ソースついてた?」

「ついてた…コレ美味い?次も頼んどく」

(気に入たみたいだし…この店、イイネ押しとこ)

自分の口についていたソースを躊躇いなく舐めた楽に、朝倉は驚いていたが…意識のしすぎだと頭を振り

恥ずかしさを紛らわすように食事を頬張った。

何故こんなに惹かれるのか分からない、他の客とそうそう変わらないのに…朝倉が必死に考えているのをよそに、食事を終えた楽は二人で遊ぶゲームのセッティングに移っている

おどろおどろしい音楽がしているが、面白そうなステージに朝倉も急いで食事を終え、後片付けをすると用意されている浴槽にオイルを落とした。

順に風呂に入ると、ソファーは既にベッド型になっており、朝倉はゴロリと楽の隣に寝転んだ

「ホラーって大丈夫?」

(かわいい…さっきのは犬みたいだった)

「この前、楽がやってたバイオ?ナントカ?みたいなら大丈夫」

楽からコントローラーを受けとり構えると早速ゲームが始まり、ゾンビがゾロゾロと連なって襲ってくる

「うわっ!うわっ!?」と言いながら必死にゾンビを撃ち抜いていく朝倉の姿が滑稽で…楽の肩が震えると、照準がズレた。

その隙を突いてゾンビに噛じられた楽のキャラクターが苦しげに声を上げたのを見て、朝倉はどや顔を楽に向ける

それを見た楽がステージのに出てくる戦績リザルト画面へ移る瞬間、朝倉の腰から背骨をなぞり首筋を撫でるように指を滑らせた。

「ひッ、ゃん!?」

「!?」

「おっ、お前!いきなり何すんだよっ!!」

「いや、どや顔がうざかったから…」

(ひッ、ゃん!?って…やばっ…エロい)

「忘れろ!さっきの忘れろっ!!」

顔を赤くさせた朝倉が楽の肩を叩き、文句を言っていると画面ないのキャラクターが悲鳴を上げる

二人が画面に視線を戻すと、波のようにゾンビが押し寄せており…二人のキャラクターはすでに事切れていた。

最終リザルト画面には、二人の戦績が載っており【12550P】と【12500P】と出ていたのを見て、楽は小さくガッツポーズをした。

今回の勝敗は、楽に軍配が上がったようだ

「俺の勝ち」

「あーぁ…言っとくけど!ゲームは一時までだからな!」

「いや、今回は…そっちじゃなくて」

「?」

楽が体勢を変えると、ソファーベッドのスプリングがギッと小さく音を立てた。

互いに向かい合い…朝倉が緊張で身を固くすると楽は、朝倉の肩を掴み引き寄る

引かれるままに身体を傾けると、楽と朝倉の唇を触れ合わせ、どちらともなく舌を這わせてていた。

「んッ…ンんっ…楽…っ」

「朝倉、ヤらせて…どうせ、今日は俺の勝ちなんだし」

(なんか、すっげぇエロい)

「この間で…最後って、言ったじゃん…ンんっ、ぁ」

「そんな顔しといてよく言う…──ダメ?」

互いにこうしてキスをした時点で「ダメ?」と聞くのは確信犯なのではないか、そこまで分かっていながら探るようにキスをしてくるのは卑怯だ…

朝倉の頭の中で言葉が交差する

そもそも、自分が拒まないと分かった段階でこんなことをしてきたんだ…聞いてきたところで、答えは一つだ…

「ダメ?」と問われた答えは、キスの仕返しだった。

少し離れた口から「いいね、そうこないと…」と囁く声が聞こえ(ああ、乗せられたんだな…)と思いながらも止めることのできなくなり、二人を絡め取って離すことはなかった。

「楽っ、楽!待て…っ!!」

「なに?」

「ゴム、あんの?」

「生がいい」

「腹くだすの、俺なんだけど?」

「お前も生の方が好きじゃん…どうせ、ヤってる途中で生がいいって言い出すんだし…要らないじゃん」

押し倒された朝倉はトレーナーの中に入ってきた楽の腕を掴んだが、楽はその手を止めることもなく胸元に辿り着くと突起を捏ね、首筋を軽く噛んだ

─ちゅっちゅっ─とリップ音が聞こえ、むず痒さに朝倉は「痕、付けんなって…んゥ…店にバレる」と喘ぎ声を混ぜながら楽に注意をする

「虫に刺されたとか言えばいいじゃん」と楽が言い、朝倉の腰を撫でると身体を震わせた。

スウェットと下着に指を掛け、引き下ろすと既に反応している陰茎に指を這わせスルスルと刺激を加えていく…何度も身体を重ねている楽は、朝倉の弱い場所を熟知している

最初は指で撫でる様に陰茎とタマを刺激させるのが好きで、その後で少し強めに握り込んで扱けば直ぐにその気になる…元々そう言う流れだったか、楽がそう覚えさせたかは今はもう分からない

自慰はそれ程しないと言っていたのを思い出す度、こうして呆気なく反応してしまうのを見て楽は微笑み、既にいっぱいいっぱいの朝倉の口にキスをした。

「ホント、朝倉くんって扱かれるの慣れないね…余裕そうにしてたの何なの?」

「うっ、うるせぇ…ひッ、ンんっ!楽が…無理やりっ、するから…あぁっ!!」

「真剣に拒否しなかった朝倉くんのせいでしょ?それに…このまま止めて辛いのは朝倉くんの方だと思うけど?」

手を離し耳元で囁くと朝倉は楽をキッと睨み付ける

しかし、それすらも楽しげに眺めるだけで、楽は人差し指と中指を朝倉の口内へと無遠慮に捩じ込み、柔らかく暖かい舌を撫で付けた。

「ローション取ってくんのめんどいから、指舐めて」

「んっンゥ…ふっんん…んっ、ァ…」

「ねぇ、後でフェラしてよ」

(こんなエロい口してんのに、突っ込まないのもったいない)

「やら”っ!!」

「…あっそ」

(どうせ後でやれば良いか)

楽の思考に眉を寄せるが、楽は十分朝倉の舌で遊んだ後その指を孔へと押し当てた。

口の端から溢れた涎を伝わせながら朝倉の口から嬌声が上がると、楽はニヤニヤと笑みを浮かべ…グチュグチュと指を動かし、中を掻き回す

「ねぇ、朝倉くん…何だっけ?もう、俺とセックスしない。だったっけ?…そのわりには、ずいぶん準備万端じゃね?」

「あっ!?あ、やめっ!ひっぁ”!?」

「柔らかいじゃん…でも、奥の方そうでもないね、届かなかった?」

「や”めっ!楽ッ…っ!?い”ッ!やめろっ、楽!!」

聞かせるようにいっそう激しく指を動かすと、押し返そうと腕を伸ばした朝倉は楽の肩を掴んだ

しかし、その手は楽のトレーナーを掴み、握りしめることしかできず指を止めることすらできない…イイトコロを突き射精を促したかと思えば、わざとポイントを外し波が過ぎ去るのを浅い動きで刺激する

イキたいのにイケない…もどかしさに朝倉はただ啼く事しかできず…その間隔が短くなってきたのを見計らい、楽は指を引き抜く

蠢いていたものがなくなり、やっと寸止めの状態から解放されたものの果ててはいないため、腹の底を切なくさせる熱は溜まったままだった。

「やめて」と言っていた朝倉だったが、止められてもどうすることもできず、トロンと惚けた顔で楽を見詰めた。

「ぁ、うゥッ、んぅ…楽…?」

「騎乗位、跨がって」

「な、んで…」

「…まぁ、確認の一種?」

どうも掴み所の無い答えだったが、朝倉の頭の中にはもう『イキたい』という考えしかなく、寝転がっている楽のスウェットに手を掛ける

興も乗っており、主張しかけている陰茎に指を這わせると「舐めて」と声がかかった。

ローションもなく、滑りを良くするものはこの場にない…確かに選択肢は限られているため、朝倉はゆっくりとソレを口に含んだ

必死に舌を這わし、自分の唾液を絡ませ、程よい固さになるように奉仕する

そろそろ良いかと口を離し、舌先でペロッと先端を舐めた朝倉は、四つん這いになり楽の腰元へと移動すると腰を浮かせた。

入るように手を沿わせ、確認をするように孔に擦り付ける…その姿は、淫乱と呼んでも差し支えないほど厭らしい

ゆっくりと腰を落とし、朝倉の中へと消えていく自分の陰茎を眺め、楽が舌舐めずりをしていると…あと少しで全てが埋まる、と言うところで朝倉の動きが止まった。

膝立ちのままプルプルと震え…必死に耐えているその姿を見て、楽は首を傾げる

「んっ!あ…あぁ…くッ、はぁ、ァあ、んッ!ひゃ、ァッ…!!あっ!ダメッ、無理っ!!」

「ん?なに、どうしたの?…まだ全部入ってないけど?」

「っ、イキ、そぅ…っ!!」

「なんだ、そんなことか…いいじゃん……イっちゃえば?」

さんざん弄られ、すっかり熱が浅いところに留まってしまった朝倉の身体は、楽の陰茎を咥え込んだだけでピクピクと肉壁を痙攣させ、堪えていた。

あと少し、最奥を突かれただけで果ててしまいそうになっている

しかし、そんなことに構うほど余裕はない

朝倉の腰をガッと掴んだ楽は、そのまま下へと力を込めた。

残っていた分はあっさりと入り、下から軽く揺さぶってやると「ぃやアッ!?あ”!ぃぎッ、あっあぁーっ!やだっやだぁ!!」と声を上げ果てた。

楽の射精を促すように無意識にキュッキュッと中の襞が締め付け、陰茎を刺激する

腰が抜けたのか楽の上から退くこともできず、果てた後も楽が朝倉を揺さぶり続けると「楽ッ!楽!!もう、もうイったからぁッ!イったから、やめっ、やめてッ!!」と首を振り泣いていた

「スゴいね、ずっとイってるじゃん…焦らされてきつかった?」

「楽…ほんとに、一回っ!止ま、って!!」

「分かったよ…俺が出したらね?」

再び突き上げられ、数度、楽の腰の上で跳ねた朝倉の中に熱いものが流れ込む…

何とか抜こうと腰を上げると、出された精液が楽の陰茎に絡み、朝倉の後孔からとろっと漏れた。

朝倉が息を整えるために楽の胸に身体を預けると、満足気に頭を撫で「ほらな?」と声を掛けた。

「俺ともう、セックスしないって?無理でしょ…俺と朝倉くんの身体の相性良いんだからさ」

「絶対、今日で…ッ、さいごっ!!」

「本当に最後なら、思いっきり楽しまないともったいないよな?」

身体を起し、押し倒された朝倉がポカンとしていると…楽はそのまま覆い被さった。


………


「もう、最後だから!!」

「あ〜、はいはい、無理無理…言っとくけど、このやり取り五回目なの覚えてる?その度に挿れたらコロッと転がされちゃってさぁ…いい加減お家芸だよ?」

「コロってなんかしてねぇ!楽が無理やり襲うからだっ!!」

「ケツの穴から俺のザーメン垂れ流しといてよく言うよ……じゃあ、襲いたくなるぐらいエロい身体してる朝倉くんが悪い」

「はぁ!?」

「って事でもう一回ヤろうぜ?」

「イヤだって!…んっ!ンん!っァ、ァあっ!ダメッ!ひゃっ、あ!ぁんっ!!」

「ほら、エロい顔して俺のこと誘ってんじゃん…ぜってぇ最後なんて無理」

ピロートークもそこそこに

再び組み敷かれてしまった朝倉は、楽にキスをされ抵抗が弱くなると、結局夜明け頃まで続いた。






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