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美希みなみ
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久しぶりによく寝たな……。なぜかまだ起きたくなくて、目を閉じたまま枕に顔を埋めていると、くすりと笑い声が聞こえてハッとする。
「俺の身体、硬くないですか? 柚葉さんは柔らかい」
え? その一言で一気に私の頭は覚醒した。
「どうして!」
ガバッと起き上がると、そこにはなぜか上半身裸の望月先生がじっと私を見つめていた。
枕だと思って顔を埋めていたのは、どうやら抱きしめられるように眠っていた彼の胸だったらしく、私はだらだらと冷や汗がこぼれ落ちる。
あろうことか、それに頬をすり寄せてニヤニヤしていたなんて。
そして昨日のことを思い出す。酔っぱらった望月先生が離してくれなかったのだ。
「先生のせいですよ! それにどうして何も着てないの? 意味がわかんない」
羞恥と今の状況の整理がつかなくて、とりあえず罵声を浴びせると、相変わらず可愛い顔で望月先生は私をじっと見る。
「なによ!」
何か言いたそうな彼に、私は言葉を投げつける。
「何も。病院と違って可愛いなって。柚葉さん、男にあまり慣れてませんよね」
「なっ、慣れてる慣れてない関係ないじゃない。誰だってこんな状況になれば慌てるでしょ!」
言い放った私に、彼は少し考えるような表情を浮かべた。もしかしたら、イケメンにとってはこんなことはよくあることなのかもしれない。
ましてや年上の女なら、さらりとかわすのだろうか。そうは思うものの、私はこんな経験は初めてだ。
言い訳のように言っていた私に、彼は静かに笑う。
それがまた嫌味なほど、寝起きのはずなのに様になっている。
この人は、いつも見ている人と同じだろうか。
柔らかなイメージで、いつも小児科で子どもたちに優しい笑みを浮かべているその人が、今目の前にいる彼とどうしても同じだと思えない。
「誰?」
つい言葉にしてしまった私に、目の前の人は意外そうな表情を浮かべた。
「誰ってどういう意味です?」
それはそうだろう。どこからどう見ても望月先生なのに、感じる雰囲気はまったく別物で、つい口にしてしまったのだが、やはりどう見ても彼は望月先生だ。
「いえ……」
言葉を濁して視線を外したが、それを追うように望月先生の瞳が目の前にあった。
「え?」
つい漏れたその言葉に、私は自分の声ではない気がした。何が起きたというのだろうか。
キスされる! そう思った瞬間、間近でふっとからかうように笑ったのがわかる。
「どういうつもり?」
医者と看護師という関係など忘れ、イラッとして強く言った私に、いつもとは違う妖艶な笑みを浮かべた望月先生の視線がぶつかる。
「柚葉さん、ドキドキした?」
どういうつもりかわからないが、今までの敬語はなく、挑むような視線を向けられ、内心ドキマギしてしまう。
そして少しふざけたような言い方に、私はそれを隠すように語気を荒くし、背を向けた。
「だからなによ?」
「キスしてほしかった?」
ふっと、あまりにも綺麗な表情を浮かべて、私をじっと見つめる。
「そんなわけないでしょ!」
それを悟ったのか、トンと肩を押され、私は今度こそ仰向けに縫い留められるような体勢になる。
これでは押し倒されているのと変わらない。ドキドキと心臓の音がうるさい。
どうしてこんなにも動けないのか、自分でもわからない。
「柚葉さん、ちょろすぎ。こんなんじゃ騙されますよ、婚活」
くすりと笑いながら、望月先生は私の上から退くと、ベッドサイドに腰かけた。
「なっ!」
からかわれたとわかると同時に、羞恥で今なら軽く死ねそうな気がした。
こんなことを言うような人だったことに、もはや開いた口がふさがらず、私があわあわしていると、望月先生はいつもの病院で見せる笑顔を浮かべた。
「そういえば昨日、迷惑かけたんですよね。すみません」
またあのキュルンという効果音が聞こえそうで、めまいを覚える。
「ねえ? どっちが本当よ?」
頭痛がして頭を押さえながら尋ねれば、望月先生の綺麗な唇が弧を描く。
「柚葉さん、朝食行きましょ。僕、お腹ペコペコなんです」
まったく私の話など聞いていないようで、いつのまにかきちんと掛けられていた昨日着ていたシャツを身に着けている。
私が眠った後に、わざわざ脱いで掛けて、また眠ったということだろう。
その用意周到さに、もはや何も言えなかった。
「起きたなら帰れたわよね?」
「え? だって電車もないし、なぜか柚葉さんが俺に抱きついてきてたから、一緒に眠りたいのかなって」
「そんなわけないでしょ! そっちが離さなかったのよ」
勢いよく一気に言った私は、怒りもあって息が切れる。そんな私をじっと見つめたあと、望月先生は「そういうことにしてあげますね」と、それだけを言うと立ち上がった。
「柚葉さん、そのまま外に出られます? いいなら無理やりでも連れていきますけど」
不敵な笑みを浮かべた彼に、私はなぜかゾッとした。
このままでは本当に連れて行かれそうな気がする。
「待って! 準備するから」
年下で可愛いだけだと思っていたこの人がわからない。そうは思うものの、従うしかない気がして、私は慌てて洗面所へと駆け込んだ。
どうしてこんなことに……。
ため息がこぼれるも、もうどうしようもなかった。