テラーノベル
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「お兄ちゃん……、大丈夫?」
「え? オレが……、どうかしたか?」
「だってお兄ちゃん……、酷い表情してるよ? クマもいつもより酷いし。 やっぱりこの前の事件で何かあったんじゃ……?」
「いや、そんなこと……。 ごめんな、心配かけちゃって。 オレは大丈夫だよ」
その朝は、妹に心配された。
確かに体調は悪いが……、そんなことより、『いつもの場所』に行って野崎に会わないと。
四周目の夏に起きたことを話して……、それで、あのネオンマスクの男に、御山秀次郎の権能の対策を練らないと……、いけないのに。
頭痛が酷い。
意識がぼんやりする。
こんなことは今まで繰り返してきた夏にはなかった。
死ぬっていうのは、こんなにも気分が悪いものなのか。
それともまさか……、これがオレの使った権能の代償、とでもいうのか?
ロビンソンは苦悶の出血を支払うことで、『爆弾作り』を扱うことが出来る。
ディオは確か、身体の腐敗だったか。
権能はそういった代償を払い、初めて使えるもの。そう聞いた。
もしオレの代償が頭痛なら、血や腐りなんかよりずっと安いものだが……、実際がどうかなんて、どうすれば知れるのだろう。
オレは揺れる視界に負けず、足早に『いつもの場所』へと向かった。
――――――――――――――――――――
コンテナにはいつもの通り、仁が先に着いてポータブル電源に扇風機を繋げて風を回していた。
「…………煌、大丈夫かい? なんだか、様子がおかしいみたいだけど」
「ああ……、妹にも同じこと言われたよ。 大丈夫、ちと頭が痛えだけだ」
「折角の夏休みだからって無理して来なくてもいいんだよ? どうせ遥夏のことだし、毎日のように集合のLINNEが飛んでくるはずさ。 皆勤賞は小学生の頃のラジオ体操だけで充分だよ」
「……ああ、そうだな」
「…………本当に体調悪そうだけど、本当の本当に大丈夫?」
「おまたせ〜、アイス買ってきたよ〜!」
遥夏に「よう」と挨拶だけしてコンテナ外へ出ていくと、既知の通り、アイス棒を握った野崎が壁に寄りかかっていた。
「あ〜もう煌ったらー! サプライズだったのにー! 野崎ちゃんいるの何で分かったの?」
「偶然だ。 丁度良かったよ野崎、話がある。 ちょっと着いてきてくれ」
「ああ、良いけど……?」
「なになにー!? 二人でどこいくの! 私も行く!!」
「遥夏…………、」
遥夏にラヴェンダーやネオンマスクの話を聞かせる訳にはいかない。
夏をループしてるなんて話も、野崎以外に話すつもりはない。
これ以上……、皆を巻き込みたくはない。
「悪いが、二人にさせてくれ」
あまり良い言葉選びではなかったと自覚しているが……、頭痛であまり冷静になれない。
これくらい強く言わなきゃ遥夏は離れてくれないだろうし、仕方ないんだ。
すまないが……、許してくれ。
コンテナ群、操車場、長い石段、線路。
「そんな話をするために、遥夏さんを突き放すような態度を取ったのか」
「そんな話ってなんだよ、オレは本気だ!」
「…………いつもの君なら自分の話を否定されるより、友人を突き放した、なんて私の表現に対する弁解を優先するだろうに。 それ程までには耳を向けてもらいたいみたいだね」
四周目での出来事を話しても、野崎はまだ信じてはいないようだった。
前の時もそうだ。だが、それでも彼女は手を貸してくれた。しっかり話せば、今度もきっと協力してくれるはずだ。
「夢でも見たのだろうと跳ね除けたいところだが、君がラヴェンダーのことをそこまで深く知ることのできる情報元は私くらいしかいないだろう。 ……分かっているのかよ? 煌、君は――――、」
「覚悟しなくちゃいけない、そう言いたいんだろ?」
「…………フン、本当に未来を知っているみたいな言い草だ。 しかもその言い当ては完璧ときた」
オレが知っているのは未来じゃなくて過去だ。
四周もしたこの夏の出来事を憶えているだけで、未来が予知できるワケではない。
……いや、予知なんてレベルの真似が出来なくとも、似たようなことは可能かもしれない。
オレは今朝、野崎が『いつもの場所』に来ることを過去の夏の経験から知っていた。だから野崎と会うためにコンテナに足を運んだんだ。
四周目でネオンマスクにもう一度会った時だって、三周目にあいつと出会った日と場所を憶えていて、そこへもう一度向かったからだ。
繰り返される夏に起きる出来事の数々は、同日、同刻、同所に、同様に起きる。
この事実をあまり意識せず利用していたが……、もっと上手くやれば、予知や先回りみたいなことが出来るかもしれない。
「にしても信じられないな。 そのネオンマスクの男に……、君だけならまだしも、私すら手も足も出ないなんて」
「奴の『そして誰もいなくなった』を使った移動は、目で追えないほど速すぎる。 対してお前の『爆弾作り』は、比較的には近距離に対して有効な権能だろ? 作品ってのを創り出そうにも、出血でそいつを描く工程が必要だし、あざ叩こうにもお前の筋力じゃ斧は大振り、弩弓じゃ取り回しが悪い。 ……相性が悪すぎたんだよ」
「……別に私の権能は近距離特化じゃあない。 真価を隠しているんだ。 君に見せていない作品もまだまだある」
「それで手首を切って大量出血かよ? 知ってるぜ、四周目のお前が使おうとしていた奥の手だ」
「……それを知ってるということは、私は本当に追い込まれていたらしいね」
野崎は包帯の上から手首を掴んで、
「それで……、見たのか? 傷を」
「傷? いや、その時は結局、お前の奥の手を見ずに終わったから傷なんて知らないな」
「そうか、それは良かった。 私は昔……、ほんの出来心で手首を切っていたことがあった。 今思えば……、恥ずかしい過去だ。 全身の傷がどれだけ見られてもいいが、手首傷だけは隠したくってね。 唯一の友人たる君にも……、いや、君だからこそ見られたくないものだ」
「……なんでそんな話を?」
「警告だよ、見たら殺す」
そうか、だから野崎はあの時も「あまり見られたくない」と言っていたのか。
世間でリストカットと呼ばれるものだ。
野崎の過去については前に聞いた。
きっと悲惨な環境に揉まれて自傷行為に手を出してしまったのだろう。
悲しみの上に切り傷をつけて、最悪を切り刻んで、異常を日常として受け入れることでしか安寧に近づけなかった……。
それでも夢だけは失わず、立ち上がった。
野崎海舟はそういう強い人間だ。
「負けたとはいえ、まだ奥の手を出していなかったのなら勝機はある。 問題はそのネオンマスクとどうやって会うかだけど」
「その点は大丈夫だ。 確実に会える日を知っている。 オレが殺されたのは、三周目も四周目も同じ日の、同じ場所だったからな。 だが……、正直、もう一度挑んでもうまくいく気がしねえ。 だから、先手を打ちたい」
「先手を打つ? 具体的には?」
「……あいつ、オレを殺す直前にこう言ったんだ。 僕のランニングコースに現れなければこんなことにならなかったのに、不運だったねと」
8月13日に会ったネオンマスクはスポーティな装いに身を包んでいた。
発言から察するに、彼は定期的にランニングを日課としており、オレが襲われた場所はその道中だったらしい。
つまり……、あの場所で張っていれば奴に会えるということだ。
「さっきの話だと、その男に襲われたのは公園だったよな? 人気がないところを狙って、不意打ちしてしまおう」
「おいおいおい! 物騒なんだよ仮面持ちは! 話し合って誤解を解くんだよ!」
「自分を二度も殺した相手に話し合う? 四周目のでは話すら通じず戦闘になったのだろう。 そんな精神じゃあ、どれだけループしても同じ運命を辿るだけだ」
「策が無えワケじゃねえ。 だから、チャレンジさせてほしい。 協力してくれねえか」
「……そいつが話を聞かなかったら、その場で彫刻してやるからな」
その後も野崎と話し合い、早速明日から公園で張ることにした。
「……公園か。 日射しが強いだろうし、日焼け止めを用意しておかなくちゃな」
「包帯あるから大丈夫だろ」
「逆だよ、後からほどいた時に包帯の形に日焼けしてたら嫌だろ?」
こいつ、全身包帯のハロウィン野郎なのに、たまに美容やらを気にするのは何故なんだ……?
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