テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
今日は、遥夏に海へ行こうと誘われた日だった。
だが今、それをキャンセルして、オレは野崎と二人であの公園にいる。
御山の弟を名乗る男と出会った、血の並木道に。
暑いからと近くのカフェで買ったコーラフロートとメロンソーダフロートを、プラスチックカップの底の氷溶け水が無くなるまで吸い尽くして、日陰のベンチに座り込んでいた。
「……汗が一粒流れる度に、もし今日そのネオンマスクがここを通らなかったらと……、全部徒労だったらどうしてくれようかと……、煌への憎しみが強まるのを感じる」
「少なくとも8月13日にはぜってえ来る。 だが、同じ日に同じ会い方じゃ未来は同じ。 オレが殺されちまう未来だ。 だから別の未来を呼び込むために、辛えけど仕方なく、こうして別の日に待ち伏せしてんだよ。 頼むから理解してくれ」
「理解はしている。 理解はしているが、暑すぎる。 これをこれから毎日か!? 気が狂ってしまうぞ」
「オレはもう五ヶ月目だ、ほんと、狂いそうだよ……」
殺されたあの日ほどではないが、頭が茹であがりそうなレベルの暑さに、全身が調理されているのを感じる。
「今日は昨日より人通りが多いな……、ペットの散歩してるおじさんとか、子供とか……」
「煌……、あれ」
「ん? ……おー、黒ネコだ。 チリチリ言ってっし、首輪の鈴付きみてえだけど……、散歩中のどっかの家ネコか? 良かったな、飼い主がいてよ。 野良なら今日みたいな日は大変だと思うぜ。 こんな暑いんじゃ、メシ探しに外歩くのも一苦労だろうし」
「何を見てる、その奥だよ!」
野崎が横目で示す方向、並木の奥からやって来る人影。
ぼんやりとしたその顔に、目を凝らしてピントを合わせる。
「おい、そんなまじまじと見るなよ、待ち伏せがバレてしまうよ。 緑のインナーカラーに、スポーティな装いをしたランナー。 君の話していた特徴に一致するけど、どうだ?」
「……まず間違いない。 遂に来たな」
御山秀次郎。
あの大事件を起こした伝説的失踪学生、御山翔太郎の弟。
そして……、オレを二度も殺した男。
ランナーは汗を振りながら目の前まで駆けてきて、
「あ、テロリスト」
「誰がテロリストだ!? ……御山、話がある」
「あー、おっけおっけー。 でもちょっと待って、まだ日課終わってない」
「日課?」
「そこでやっていい?」
「え? お、おう……?」
すると御山は一直線の並木を右手に座り込み、急にクラウチングスタートを決め込んだ。
まさか逃げる気か、と追いかけようとしたが、数十メートル走ったところで減速してクルリと引き返してきた。
「50メートル全力ダッシュ、歩いて戻ってきて、スタート地点着いたらまたダッシュ。 これ十五本、毎日の日課」
「は……?」
「並木の植栽間隔は一律、4メートル。 50メートル走で横切る本数は12.5本。 僕の速度は時速――――、」
と、御山はごにょごにょ計算しながら再び走り出した。
走って行って、競歩で帰ってを繰り返す。
「……君が話してたことは本当みたいだね。 あの男は勝人君が競争した陸上部の相手だ」
「まだ疑ってたのかよ、冗談なんて言うか!」
「にしても、あの様子……。 なぜ御山は走り続ける? 何か狙いでもあるのか?」
「さあな……、だがこちらから話し合いを求めている以上は、何はともあれ待つしかないな……」
オレ達は、御山弟が本当に十五本も全力ダッシュを終えるまでベンチで座って待った。
日課を終えた御山は汗だくで、肩で息をしたまま寄ってきて、オレと野崎の合間に勢いよく座り込んできた。
「……よお、お疲れ。 もう話せるか?」
「待って……、今……、まだ……、息が……、落ち着いて、ないから……」
御山の鎮静を待って数分。
気まづい空気を強い息吹で吹き飛ばして立ち上がった彼は、ベンチから数歩離れて振り向き、
「よし、じゃあやろっか」
「やる……? やるって何を?」
「何って、殺し合い?」
男はポケットに手を入れるが、
「あ、今日ボール忘れた」
「おい! オレの話を聞けって! 殺し合いなんてするつもりねえんだよこっちは。 話をしようぜっつったろ」
「話し合い? 話題がないな、だって君たちは僕らを殺そうとしたテロリストだよ? 何を話せっていうんだよ」
「御山秀次郎、お前は何か勘違いしてるぞ。 オレ達がお前を殺そうとなんて、したことがない。 思うわけもない! 何を根拠にそんなことを言ってるんだよ?」
「だって君たち……、学校を占拠したテロリスト達でしょ?」
それは違う。
学校を占拠したのはお前の兄……、御山翔太郎だ。
「聞いたよ、『廃棄物』のリーダーからさ。 『少数派』は僕ら『分派』を目の敵にしてて、見つけ次第殺そうとしてるんでしょ?」
「『少数派』が『廃棄物』の奴を殺そうとしている……? そうなのか、野崎?」
「いや……、そんなことはないはずだよ。 確かにラヴェンダーのように愛団心の強い奴は『分派』の存在を良くは思っていないみたいだけどね、少なくとも私は殺せなんて命令を貰った憶えはない」
野崎がこんなところで嘘をつく必要はない。
となると……、その『廃棄物』のリーダーとやらに間違った情報を教えられている可能性が高い。
「聞いたろ、こいつは『少数派』のメンバーだ。 『少数派』は『廃棄物』を殺そうなんてしていない。 オレ達はお前の敵じゃないんだよ」
「じゃあさ、体育館の殺人劇はどう説明するの? あの日、僕の兄は君に殺された。 この一部始終を体育館で見ていたんだ、これは否定できないでしょ?」
「御山翔太郎のことだろ? 先ず、お前の兄は死んでねえ。 それに殺されかけたのはこっちの方だ!」
オレが刑事との事情聴取を経て得た情報によると……、御山翔太郎は事件後に拘束された状態のまま入院、そして……、急に病院から失踪した。そう、聞いた。
「お前はきっと、入院先で兄がオレ達に殺されたなんて思い込んでるんだ。 いや、そうお前のところのリーダーに誤解するように情報操作されているのかもしれない。 悪いが……、オレ達は真相を知らない。 入院先も、失踪後の行方も。 体育館を襲ったのはお前の兄の方、そしてオレ達は巻き込まれて迎え撃った。 それだけだ」
「……テロリストは煌クンと包帯オバケじゃなくて、にぃにの方だった?」
「そうだ! 弟のお前にとっちゃ、信じらんねえ話かもしんねえが――――」
「なるほどー、そーゆーことだったんだ〜!」
「…………え。 分かってくれた……、のか?」
「うん、なんか、可能性は薄いと思ってたけど、もしかするとそうなのかなと思ってたし。 ごめんごめん煌クン、勝手に疑ってた〜」
オレはこいつに二度も殺された……、んだよな?
なのに……、こいつ……!
なんだよ、その態度は!? そこまで深く話してもねえのに、簡単に打ち解けちまった……!
いや待て、こんな簡単に今まで自分の兄を殺したと思ってたテロリスト相手に信頼出来るワケがねえ……、ってことは、この態度はブラフなのか!?
オレ達を安心させて気が緩んだところを背後からスーパーボールでズドンか!? それが狙いなのか!?
「の、野崎……!」
「ああ、分かってるよ煌。 私は疑い深いからね、警戒を解く気は更々無い。 君の話の通りならこの男の権能は、触れたものを超スピードで射出する能力。 石ころひとつ、ペットボトルひとつ拾っただけで、いつでも意表を突いた一撃を繰り出せる上に、自身を射出して超速移動まで可能な野郎だ。 いつだって応戦する準備は出来ているさ」
「おー。 なーんだ、僕のこと知ってるんだ。 でもその認識、厳密には違うけどね。 僕の才能『そして誰もいなくなった』は、射出する仮面能力が真髄じゃない。 本質は、挑み背追う才能。 僕が触れたものを物理法則を超越して加速させる能力だよー。 あ、名誉の為に言っとくけどさ、僕、陸上部でタイム上げるために仮面を使ったことなんてないから。 エースなのは僕自身の実力だから、そこんところ勘違いしないでねー」
「ば、馬鹿な……。 こいつ、権能はバレてるぞと圧力かけただけなのに、ペラペラと目の前で内容全部吐きやがったよ……! 仮面持ちは自信過剰の奴が多いが……、こいつも極度の自信家か、または他に奥の手でも隠してなきゃあただの馬鹿だ……! 自殺行為だ……!」
「もしかして僕って今、バカにされてる? 酷いよー、信頼してってオーラ出してきてたのそっちなのに、いざ話に納得したら敵意丸出しってどうなのさー?」
ディオと対峙した時……、オレと野崎は権能の詳細を推理するのにかなりの手間を要した。
目の前で仁と遥夏が『悲劇の誕生』で洗脳されて……、野崎まで『裏方』にされてやっと能力に気づき、奴に直接触れたり、何か物を渡されても受け取ってはいけないと対策を知ることが出来たんだ。
野崎が言っていた通り、仮面持ちにとって、仮面の能力は他者に知られるワケにはいかないとっておき。
その理由は、自身の専売特許の弱点を探る余地を周りに与えてしまい、付け入られ、折角の権能が無駄になりかねないからだ。
ラヴェンダーの様に、ほぼ無敵で弱点もございませんと言えるほどの権能でない限りは、絶対に避けねばならない事案……、のハズなのだが、この男は……!?
「まだ聞きたいことが山ほどある。 どーやらそっちもそーみたいだし、下手に探り探り踏み入るより、サッサと砕けた方が良くない? 効率的にいこうよー」
「……煌。 君は私がこの男と相性最悪と言っていたな。 ばっちり当たりだ、もうこれ以上ないほどに最悪だよ。 こういう掴みどころのない寒風みたいな奴は、どうも何を考えてるか分からず不気味で苦手だ」
「あ、ああ……。 無血で話せるってのはこっちとて本望なんだけどよ……。 なんかこいつ、テンポ感っつーか、なんつーか、やりづれえな……」
「二人とも、どしたの? 僕、なんか変なこと言ったかな。 あ、よくいる猫チャンだ。 今日もかわいー!」
御山から三周目四周目で感じたような戦意が、完全に消えていた。
警戒を維持しているのが馬鹿らしくまで感じられる彼のお天気具合に、夏の暑さも相まって野崎がぐったりし始めたので、まずは話し合いの場所を変えることにした。