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夏希?」
私を呼ぶ声が聞こえて、ゆっくりと目を開けると、心配そうに私を覗き込む将嗣の顔が見えた。
「夏希! 気が付いたか、ああ、良かった」
将嗣の言葉に段々と意識が覚醒していき、自分に迫る車、降り注ぐガラス、
美優の泣き声がフラッシュバックした。
「美優! 痛っ」
ベッドから起き上がろうとしてしたが、体に痛みが走り上手く起き上がれない。視線を彷徨わせて美優を探した。
「美優は?」
「美優ちゃんも無事だよ。念のため小児科で一日預かってもらう事になったけど、目立った外傷はない。ごめんな。痛いだろ? お前の席にモロに突っ込まれたもんな……」
将嗣は、私の頬に手を当て今にも泣き出しそうな顔をしている。
「将嗣のせいじゃないよ」
コンコンとノックされ、看護師さんが入って来て、検温や血圧などをしてくれた。
指先動きますか? 手足にしびれを感じませんか?など聞き取りもされ、段々と不安が募る。
「あの、今、私、どうなっているんでしょう?」
「足の細い方の骨が折れているのと足首のじん帯傷めてしまったのが一番重傷で、あとは首のむち打ちと、左腕前腕が5針縫ったけど傷は深くなかったから抜糸をしたら動かせるようになります。入院1か月、全治3か月よ」
「えっ! 1か月も入院って……」
もう、何がなんだか頭が真っ白になってしまって、その後、看護師さんと何を話したのか……。
ただ、「はい」と返事を返していた事しか覚えていない。
「夏希、連絡しておくところある?」
将嗣に声を掛けられ、ハッとした。
仕事も自宅に帰らないと出来ない。仕事先に連絡をしなければ……。
朝倉先生にも連絡したいけど、どうしよう。
「病室って、携帯電話ダメなのかな?」
「病室で電話OKだって、手術室とか放射線のあるところはダメなんだって、昔とイメージ違うんだな」
病室で電話OKだと聞いてホッとした。右手に点滴、左手に裂傷の包帯でも通話ボタンぐらい押せる。と、思ったら首が動かない、腕が曲げられない状態で、スマホの画面が見えない。
自分の状態が思っていたのと違う。
誰かに操作してもらってからハンズフリーで通話するしかない状況。
かと言って、将嗣に朝倉先生への通話をお願いするのは無神経な気がする。
自由に連絡も入れられないとか、不安ばかりが増えていく。
「1か月入院って、ココ小田原市内の病院だよね。どうしよう」
将嗣だって、明日から仕事だろうし、見ず知らずの土地で美優を抱えてどうしていいのか、途方に暮れる。
「俺、何日か休みをもらえるように今調整してもらっているから、少しなら残れるから一緒に考えよう」
「うん」と返事をして白い天井を見上げる。
入院期間や退院してから完治するまで満足に動けない状態で、美優をどうしたらいいのか。
涙がこぼれそうだ。
「美優ちゃんの事も一緒に考えよう」
「うん、ありがとう」
身寄りも居ないシングルマザーの私。
朝倉先生に連絡も出来ない今、美優のことを頼めるのは、将嗣だけだった。