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「この人、普段はこんなじゃないのよ」ジゼルはナツミさんの腕に触れながら、コチコチの俺に視線を送った。ナツミさんが「いつもはどうなんですか」と聞いてくる。答えられるはずはない。
ナツミさんはリトルトーキョーの安ホテルから、クラスメイトのタイ人の親の親戚の一室に引っ越したという。
本当は何か楽しい話がしたかったのだが、俺の口から出てきた言葉はなぜか「クレンショーは相当気をつけた方がいいですよ」だった。
「そうよ。私に相談してくれたら、もっと安全なとこ紹介したのに」ジゼルはナツミさんの腕を揺すった。
俺はチキンコンボについているフライド・ポテトの、最後の一つをつまんだ。
「確かバスは、サンセットを行ってウエスタンで乗り換えて、クレンショーですよね?」と俺は言った。
「すいません、よくわからないんです」とナツミさんは答えた。
「それよか、フィゲロアをウィルシャーで乗り換えて行ったほうが近いよきっと」とジゼルが言った。
「バスの時間はあてになりませんよ。それに、危険な地域を通るときは車内でも気をつけててくださいね」前にバスが治安の悪い地域に入ったとき、外から飛んできた棒っ切れが、開いた窓を通って俺の前の席を直撃した話をした。ジゼルは平然としている。ナツミさんは目を大きくした。
ジゼルは茶の紙袋からオレンジを、俺とナツミさんに一個ずつ渡した。オレンジは、チキンコンボ・プレートのポテトがあった場所に置かれた。
そのとき、背後から男の声がした。振り向くと、デジュンだった。
「イクスキューズ・ミー」
彼は、なんと俺とナツミさんの間に椅子を持ってきて割り込んだ。
ジゼルは両肩を上げた。
「こんなのが『割といいヤツ』なわけ?」
授授業開始十分前のベルに、カフェテリア全体が一斉に動き出した。デジュンはナツミさんとの会話を完全独占した挙句、俺やジゼルに挨拶もなく教室へと消えた。