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考えた結果、私はすっかり新藤さんファンになってしまったのだ。
推しを盗られるのは嫌だというファン心理なのだろう。私はRBの白斗の時のように、ファンになったら一途に応援し、推しまくる性癖があるから、きっとその流れで新藤さんを盗られたくないというファン心理が働いたのだ。
それなら、この複雑な気持ちにも納得できる。
マイホームを建てるまでの期間限定の付き合いだから、余計彼に惹かれてしまったのだろう。営業マンで優しいから、余計に。
ただ、困ったことに……新藤さんとは光貴以上に音楽の趣味が合うし、喋っていて楽しい。できれば友人として長くお付き合いができればいいけれど、新藤さんは男性だから、それは無理だろう。逆のパターンで考えてみる。光貴に私以上に話の合う女性がいて、その女性と仲良さげに話したり親密にしているとなれば……やはりいい気はしない。
重いため息をついていると、小さくノックの音の後、カチャッと寝室が開く音がしたので、身体を起こした。
「新藤さん……ですか?」
入って来たのは光貴だと思ったけれど、違った。新藤さんだ。彼が心配そうに私を見つめている。
「光貴さんは今、別の部屋で電話をなさっています。サファイアのやまねんさんから、込み入ったお電話がかかってきたので長くなりそうです。一人になりましたので、律さんの様子を伺いに参りました。申し訳ありません、起こしてしまいましたでしょうか?」
「あ、いいえ。起きてました。すみません。折角打ち合わせの時間を作って頂いたのに」
「律さんの体調が優先です。それより、昨日お預かりしたご自宅の鍵をお返しさせていただきたくて。皆さんの前でお返しするのは良くないと思いましたので、タイミングを伺っておりました。今、お返ししても?」
「はい」
新藤さんから鍵を受け取った。そっと彼の長い指に触れるだけで、ドキドキする。
返してもらった鍵を見て、見慣れたサルのストラップが無くなっているのに気が付いた。
「申し訳ございません」私の視線がストラップに集中していたので、新藤さんが謝罪してくれた。
「かわいいおサルのストラップですが、何処かへ引っ掻けてしまったようで、紛失してしまいました。お預かりしたものなのに、本当に申し訳ございません。その代わり、別のものを用意させていただきました」
「そんな、気にしないでください。もう古くなっていましたから」
「失くしておいてそういう訳にはいきません」
新藤さんがスーツの内ポケットをまさぐり、空色の綺麗な包み紙を取り出した。「律さんなら、きっと気に入って下さると思います。開けてみて下さい」
言われた通りそれを受け取って、中を開けてみた。入っていたものは、シンプルな黒色の本革ストラップが付いていて、白斗のピアスみたいな三連の十字架が付いたキーホルダー。革に刻印がある。RedBlueって――うそ!?
「これって……もしかしてRBのグッズですか?」
「はい。RBのストラップキーホルダーです。スタッフ専用に作られた非売品です」
「ええっ!? 非売品なんて、こんな貴重なもの……」
「気にしないでください。私が持っていても宝の持ち腐れなのです。特に利用もしないので、処分しようと思ってもなんとなく捨てにくくて持っていただけですから。律さんが元気になるかと思い、プレゼントしたいと考えました」
「そんなのだめですっ! こんな貴重で大切なものっ!! 汚したくないので、自分でなにか別のものを買いますから」
使ったら汚れるっ。オタクが何たるかを新藤さんはわかっていない。グッズは使うとき、余分に三個ぐらい買ってからでないと使えないの!!
「興奮なさらないで。RBのグッズを大切にお部屋に飾っておられるくらいですから、もしかすると『使えない』と言われるかと思いましたため、お詫びの品はもうひとつ用意しております」
うわっ。やっぱりバレてたぁー。
白斗の写真を完璧に見られていたのにドン引きせず、しかもオタク心を理解していただいた上、非売品のグッズ以外にも用意してくれるなんて!
嬉しいけどっ……複雑!