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一人暮らしの悠馬の部屋。
夜。明かりは落とされ、間接照明だけがぽんと灯っている。
「なにこれ、綺麗な色……」
ソファの上でグラスをのぞき込んでいる那央が、不思議そうに眉をひそめる。液体は淡いピンク色をしていて、わずかに甘い匂いがする。
「姉貴がゼミで作ったって言ってた。『ナオくんと飲みなよ。きっと面白いよ』って。お土産がわりらしい」
「……え、お姉さんが? すご……ゼミでこんなん作れるんだ……」
「怪しい飲み物じゃないよ、たぶん」
「たぶん?」
那央が天城を見上げる。
天城は、どこかおかしそうに笑いながら、グラスを口に運ぶ。
「……って言っても、まだ飲んでないからなあ。味見しとくか」
そのまま一口。
口元が濡れたまま、天城はわざとらしく那央に顔を近づける。
「な、なに?」
「口移ししてみる?」
「……へ?」
言葉の意味を理解する前に、柔らかい唇が重なった。
「んっ……っ、ぁ……」
体ごとソファに押し込まれる。口の奥に、ぬるい液体と天城の舌が流れ込んできて、息を吸おうとするたび喉の奥にからんでくる。ぬちゅ、と粘る音がして、息もできないまま、ただ身体が熱くなる。
「っ、や…ゆ、ぅ、まぁ…」
「ほら、飲んで。口開けて」
耳元で甘く囁く声が落ちてくる。那央の喉がぴくりと動く。まるで命令のような声だった。
無意識に舌を受け入れて、溶けるように身体が崩れる。
ようやく唇が離れたとき、二人とも肩で息をしていた。
「っ、なに……これ、なに飲ませたの……」
ぽわんとした瞳で見上げる那央の髪を、天城がやさしく梳く。
「さあ? なんだろうね、これ」
「ん……味、あんまりしないけど……」
「でも、顔、赤いよ」
からかうように言って、天城はそのまま那央の耳元に唇を寄せる。
「ねえ、コンちゃん。もっと飲む?」
「……はあ?」
「今の、ほとんど俺の唾だったからさ」
「……や、やだ……っ、なにそれ……へんなの……」
言いながらも、那央の瞳はとろんとしていて、逃げる手もゆるい。
天城は笑った。
まるで遊んでいるような、でも瞳の奥が熱を帯びている。
「かわい。コンちゃん、酔っちゃった?」
「……酔ってない……し……」
けれど那央の身体は、もう天城にしびれるようにして、ふらついていた。
「じゃあ、もうちょっとだけ……確認させて?」
とろんとした目のまま、那央の唇をそっと指でなぞって、天城は再び口づけた。
深く、長く、ゆっくりと。
ふたりの吐息だけが部屋に落ちていた。