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インフルって怖いですね。実はやられて1週間ほど寝込んでました。ということで💡さんが西に看病される話です。なんか前も書いたような気がするけどなんぼあってもいいですよね??
inm視点
冬の夜、ひとりでベッドに倒れ込んだ。体温計は39.8度。頭が割れそうで、スマホを握ったまま意識が遠のく。グループチャットに短く投げる。
ーーインフル陽性。死にそう。助けて
すぐに既読がつき、返信が三つ同時に飛んできた。
ーー位置情報plz。今から行く
ーー差し入れ持ってくわ
ーー薬とポカリ買ってくる。鍵開いてる?
それから三十分後、玄関のチャイムが鳴り響いた。
「よ」
最初に飛び込んできたのはカゲツだった。黒のコート姿で、額に汗を浮かべながら部屋に上がり込む。
「お前せめてマスク着けてこいよ…オレ病人だけど?」
「まあなんとかなるでしょ。てかほんとにぶっ倒れてるやん。体温計どこ?」
「ん」
動かしたくない腕を放置し、目線で合図するとカゲツはすぐに体温計を奪い取った。すぐさまオレの脇に差し込むと台所へ。
「米はあるな。卵もある。おかゆ作る」
カゲツが冷蔵庫を見ながら独り言のように呟いていると、続いて小柳が大きなレジ袋を抱えて現れた。
「生きてる?ほら、ゼリー……十個」
「十個は多すぎだろ……」
苦笑いすると、ロウはきょとんとした。
「なに。文句?」
「別に。どうせ病人に与えたら良いもの10選とか調べて持ってきてくれたんでしょ」
「はは、当たり」
「珍しく認めるじゃん」
「病人と喧嘩してる場合じゃないんだよ」
「おおかみ!ぼくの仕事手伝え」
はいはい、と返事をして小柳は台所へ向かっていった。ちょうどそのとき、星導が静かにドアを開けた。
「遅くなってごめん。解熱剤とスポーツドリンクと……あと氷枕」
星導は無言でオレの額に手を当て、眉を寄せる。
「まだ高い。安静にね?」
「はーい」
「あとカゲツはマスクして」
星導から差し出されたマスクを、カゲツは渋々受け取った。
「そんなにマスク嫌い?」
「なんかヒーロー衣装みたいで嫌やもん」
「あー…いや、納得できないでしょ。どういう理由?」
「良いからタコも手伝え!!」
こうして、四人の男たちの奇妙な看病生活が始まった。なんと彼らは数日オレの家で寝泊まりするらしい。別にそこまでは求めていなかったのだが、好意に甘えることにした。
「塩分と水分補給が大事。全部食え」
朝ごはんとして与えられた味噌汁と卵がゆのおかげで、かなり好調だった。少し楽になった気がして、トイレを目指す。
「……自分でいける」
立ち上がった瞬間、世界がぐるんと回る。膝から崩れ落ち、床に激突した。
「やっば…」
ドン、という音が響いた瞬間、三人の足音が一斉に聞こえる。
「何やってんだ」
「無理すんなって言ったやん!次やったらマジで殴る」
「本気で心臓止まるかと」
ベッドに戻され、三人に囲まれて小さくなる。
「……ごめん。迷惑かけたくなくて」
小柳が深いため息をついた。
「迷惑じゃねぇよ。倒れて病院沙汰になったほうが困る」
カゲツがオレの手をぎゅっと握る。
「ぼく、看病して楽しい。これガチ」
星導もにっこりと微笑んだ。
「そうだよ。こんなに一緒にいられる機会、あんまないじゃん」
その日から三人はさらに過保護になった。
カゲツは「動くな」と言いながら枕を叩いて整え、ロウは「飲め」とストローを口に突っ込み、星導はオレの欲しいものを記すメモ帳を片時に持つ。
「やりすぎだって…」
「病人は大人しくしとけ」
「はぃ…」
数日経ってやっと熱が平熱に近づいたところで、カゲツが「復活記念!」と叫びながら、手作りホットケーキを持ってきた。
「おおかみが焼いて、ぼくがデコった!タコは……生クリーム絞るのうますぎ!」
切るやつ持ってこないと、とカゲツは包丁を探しにいった。ケーキの上にチョコペンで書かれたような文字を見て思わず口角があがる。
『早く治らんかいバカ』
ふと台所をみると、容器にあまったチョコが見えた。湯でほかほかになったチョコペンを握り、『バカ』を無理やり『天才』に変えてやった。濁点の部分はハートとかにしておけばいいでしょ。
「…んふ」
「なに満足げな顔して…って!!あ!!文字変えられとる!!」
「はは、バレたぁ」
四人でベッドを囲んでケーキにフォークを刺す。
「……ありがとう。ほんと、お前らがいなかったらオレ死んでたかも」
「当たり前やん」
「当たり前」
「当たり前でしょ」
数年も経てばあんなに警戒し合っていた彼らから全く同じ言葉が出てくるのか。
「揃いすぎて気持ちわるかったな今」
「またまた。ホントは嬉しいんでしょ?」
「元気になったら口がよく回りますねぇ伊波クン?」
窓の外は雪が降り始めていた。
熱にうなされた数日間は、終わってみれば一番温かい冬の記憶になった。