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📖 第二十一章:「言えない言葉」
放課後。
夕焼けが教室をやわらかく染めていた。
オレンジ色の光が、静かに二人の距離を浮かび上がらせる。
○○は席に座り、ノートを開いている。
けれど、視線は文字を追っていない。
○○:(……いる)
見なくても分かる。
教室の後ろ。
冴が、いる。
壁にもたれて、腕を組んで——
ずっと、こっちを見ている。
その視線が、今日はやけに熱い。
○○:(……無理、意識する)
ペンを持つ手が、少し震える。
沈黙。
いつもなら、冴が先に何か言うのに——
今日は、何も言わない。
ただ、見てる。
まるで、逃がさないみたいに。
○○:「……なに」
耐えきれず、小さく言う。
少しだけ間があって——
冴が、ゆっくり体を起こした。
冴:「……お前の方こそ」
低い声。
一歩、足音が響く。
冴:「なんで最近、避けてんだよ」
そのまま、まっすぐ歩いてくる。
一歩。
また一歩。
逃げる時間なんて、くれない。
気づいた時には——
目の前。
近すぎる距離。
○○:「……避けてない」
冴:「嘘」
即答。
短いのに、強い。
○○が目を逸らそうとした瞬間——
冴の手が、机に置かれる。
コツン、と音がして。
完全に、囲まれる形になる。
逃げ場が、ない。
○○:「……っ」
心臓が、一気に速くなる。
冴:「前はもっと、普通だったろ」
顔を少し近づけてくる。
視線が、真っ直ぐぶつかる。
冴:「なんで急に距離置く」
○○:「……」
近い。
近すぎる。
息がかかりそうな距離。
○○は顔を上げられない。
でも——
冴の視線から、逃げられない。
○○:「……噂、あるし」
やっと絞り出した声。
冴の表情が、少しだけ動く。
○○:「冴と私のこと…みんな言ってる」
冴:「……だから?」
即答。
迷いがない。
○○:「だから……これ以上、変に思われた
くない」
その言葉に、少しの沈黙。
冴は何も言わない。
ただ——
じっと、○○を見てる。
冴:「……それ、本音か?」
低くて、優しい声。
さっきより、少しだけ柔らかい。
○○:「……え」
冴:「本当にそれだけで、俺避けてんのかって聞いてる」
その瞬間——
冴の指が、ほんの一瞬だけ、○○の手に触れる。
触れたかどうか分からないくらいの距離。
でも、確かに感じた温度。
○○:「……っ!」
反射的に手を引こうとする。
けど——
冴が、軽く手首を掴んだ。
強くない。
でも、逃がさない力。
冴:「逃げんな」
小さく、低く。
その声が、近すぎて震える。
○○:「……離して」
冴:「嫌だ」
即答。
迷いが一切ない。
その一言に、胸がぎゅっとなる。
冴:「ちゃんと答えろ」
視線が絡む。
逃げ場がないまま、心の奥まで見られてる気がする。
○○:「……近くにいると」
声が震える。
冴の手が、少しだけ緩む。
○○:「余計、変に思われるから……」
違う。
本当は——
そんな理由じゃない。
沈黙。
でも、冴は離さない。
むしろ——
少しだけ、距離が近くなる。
冴:「……じゃあなんで」
低い声が、すぐ近くで落ちる。
冴:「顔、赤いんだよ」
○○:「……っ!?」
思わず顔を上げる。
冴の目が、すぐそこにある。
冴:「噂のせいだけで、そんな顔になるか?」
図星。
何も言えない。
冴の指が、そっと手首から離れて——
今度は、頬に触れそうになる。
触れる寸前で、止まる。
冴:「……なあ」
その声は、今までで一番優しい。
冴:「俺のこと、どう思ってんの」
核心。
逃げられない質問。
○○の心臓が、壊れそうなくらい鳴る。
○○:「……それは」
言わなきゃいけないのに。
言いたいのに。
言葉が、出ない。
その瞬間——
冴が、少しだけ目を伏せる。
珍しく、迷ったような表情。
でもすぐに、決意したみたいに顔を上げる。
冴:「……俺は——」
言いかけた、その時。
ガラッ。
教室のドアが開く。
クラスメイト:「あれ、まだいたの?」
一瞬で、空気が壊れる。
冴の表情が、わずかに歪む。
冴:「……チッ」
小さく舌打ち。
○○から、ゆっくり距離を取る。
さっきまでの熱が、一気に遠くなる。
冴:「……なんでもねぇ」
ぶっきらぼうに言うけど——
さっきまでと違って、どこか悔しそう。
○○は、何も言えない。
ただ——
○○:(……今の、続き)
聞きたかった。
冴はそのまま背を向けて歩き出す。
でも、教室を出る直前で止まる。
少しだけ、横を向いて。
冴:「……明日」
低く、短く。
冴:「ちゃんと答えろ」
○○の心臓が跳ねる。
冴:「逃げたら——」
一瞬、間。
ほんの少しだけ振り返って。
まっすぐ見てくる。
冴:「今度は、俺から行く」
ドクン。
意味が分かるようで、分からない。
でも——
確実に、逃げられないって分かる言葉。
そのまま、冴は教室を出ていった。
扉が閉まる。
静寂。
○○はその場に立ち尽くす。
頬が、まだ熱い。
手首に残る、さっきの温度。
○○:(……明日)
(ちゃんと答えろって)
つまり、それは——
○○:(……逃げられない)
夕焼けが、ゆっくり沈んでいく。
その中で——
初めて、自分の気持ちから目を逸らせなくなっていた。
END
コメント
1件
固まってしまった。めっちゃ好き…マジで主様愛してます。