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いとの両親、雅経と苗子の関係は、最初から良好ではなかった。
苗子はある資産家の娘で、裕福な家の出だった。
家同士が決めた結婚だったのだ。
雅経は自分本位な性格で、気に入らないことがあればすぐに怒鳴り、人に物を投げた。酒を飲めば巻き舌で説教を始め、何人も愛人を作っていた。
対して苗子は穏やかな性格だった。辛いことがあろうと、絶えず笑顔を作っていた。
苗子は、雅経の仕打ちに黙って耐えていたのだ。
その標的になったのは、苗子だけでなくいともだった。
いとが雅経に辛く当たられた時、苗子はいとの頭を撫で、抱きしめ、慰めの言葉をかけた。
時にはいとを雅経から守った。
しかし、いとが七つの時、とうとう耐えられなくなり、苗子は出ていった。
宮野家に仕えていた使用人の若い男も消えていた。
いとはそれまで辛苦を共にしてきた母がいなくなったことに衝撃を受け、絶望した。
恋しさに何日も泣き、雅経に怒鳴られた。
それからの宮野家は地獄同然になった。
雅経のいとへの当たりはさらにきつくなった。
女に学問は必要ない、家のことだけしていればいいと家事をさせられ、外にも出してもらえなかった。
逆らうと部屋に閉じ込められ、食事をなしにされた。
母が怒鳴られているのを目の前で何度も見、そして自分も怒鳴られて折檻された記憶が、いとの中で恐怖となり心の傷となるのに、そう時間は掛からなかった。
いつしか、おいいと、と雅経に呼ばれる声が恐怖になっていた。
その上でいとに疑いの芽が初めて出たのは八つの時だった。
雅経の仕打ちには見て見ぬふりをしつつも、宮野家の使用人たちはいとに対していつもにこやかに接していた。
いとは使用人たちを信用していた。
使用人たちを味方だと思っていた。
ある日、いとが廊下を歩いていた時、いとは使用人たちの会話を聞いた。
使用人たちは、いとの愚痴を言い合っていた。
いとは何もしていなかった。
ただただ優しく接し、使用人たちと家事をこなしていた。
いとはその日、夜もすがら嗚咽を漏らした。
そして、もう人を信じないと自分に誓った。
いとの話し相手は、庭に入ってくる動物のみになった。
一方、兄の雅邦は長男のため雅経にかわいがられた。
お陰で父親と同じように傲慢になり、女を汚物のように扱うようになった。
けれども、いとは兄を嫌いにはなれなかった。
ただ父親に愛されたことが羨ましかった。
いとは、子供らしく、無邪気に、自由奔放に育つことはできなかった。
それでもいとは今でも、人を信じたいと、愛されたいと思わずにはいられないのだ。
薄暗い部屋の中、いとは目を覚ました。
いとの視界に、もう見慣れた天井が入る。
「いと」
もう聞き慣れた声。
いとは徐ろに声がした方を向いた。
いとの予想通りの人物が胡座をかいて彼女の手を強く握っていた。
……ああ。怒られるのだろうか。
いとはぼんやりとそう思う。
貴時はいとに手を伸ばした。
叩かれる……っ。
いとは反射的に目を瞑った。
が、貴時の手はいとの頬に添えられた。
「すまなかった。辛かったろう」
いとは驚いて目を開け、貴時の顔を見た。
美貌は心配そうに歪められていた。
いとの胸が締め付けられる。
「……どうして貴時様が謝られるのですか」
悪いのは私なのに。真っ先に咎められるべきなのに。
いとの目から涙がぼろぼろとこぼれ落ちる。
貴時はいとの涙を拭いながら、握っていた華奢な手を自分の頬に当てた。
「茶々丸の行動に制限をかければよかった。俺の責任だ」
……優しいひと。
#とどひゅ
マカロン
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#センシティブ
🐥
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#日本受け
りな@主食は日本受け
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いとがそんなことはないと口を開きかけた時、貴時は続けて言う。
「お前の体調が安定したら、父への謝罪に着いてきてくれるか?」
いとは間髪入れずにこくりと頷く。
すると貴時はふっと小さく笑みを浮かべた。
「ありがとう」
いとは自分の心臓がどくりと脈打ったのを感じた。
ああ、まただ。
いとはずっと認めたくなかった感情を認めることにした。
いとは、貴時を愛しているのだ。
いつからかは定かではない。
いとの中に初めて芽生えた、甘くやわらかな感情。
貴時を信じるか信じないかなんて、もうどうでも良かった。
貴時の優しさが嘘でもいいから、ただ彼に幸せでいてほしいと思うようになった。
「貴時様」
いとは夫の名を呼んだ。
「ん?」
貴時は妻を見つめる。
「今宵は、どうか、ずっと一緒にいてください」
いとは懇願した。
昔の夢を見て、怖くなったのだ。
貴時は笑む。
「もちろんだ」
いとは安堵した。
自分が入っている掛け布団をめくり、とんとんと手で叩く。
「こちらに」
貴時は一瞬驚いた顔をしたが、すぐに笑み、布団の中へ入った。
いとが布団を貴時に掛け、再び寝そべると、貴時は妻の身体を抱きしめる。
いとは目を見開いた。
「おやすみ、いと」
「……おやすみなさい」
貴時の温もりに、いとはほっとした。
安心しきったいとは、そのまますぐ眠りに落ちた。