テラーノベル
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俺がまろと出会った日のことを、今でもよく覚えている。
春だった。
桜が散り始めていて、風が吹くたびに花びらが舞い上がる。
そんな日だった。
俺は学校をサボっていた。
正確には、サボろうとしていた。
学校へ向かう途中、なんとなく足が止まったのだ。
理由なんてなかった。
ただ、今日は教室に入りたくないと思った。
友達がいないわけじゃない。
いじめられているわけでもない。
でも、人と話すのが少し面倒だった。
そんな日がたまにある。
俺はそのまま海の見える神社へ向かった。
小高い丘の上にある、小さな神社。
誰も来ない場所。
一人になりたい時、よく来る場所だった。
石段を上り、境内へ入る。
すると。
見知らぬ男が寝ていた。
「……は?」
思わず声が漏れる。
神社の縁側で、大の字になって寝ている。
制服姿。
同年代くらい。
しかも堂々と。
「何してんだあいつ……」
呆れながら近づく。
すると男はゆっくり目を開いた。
「んぁ……?」
眠そうな目。
そして数秒後。
にこっと笑った。
「おはようさん」
「いや、誰だよ」
「俺?」
男は起き上がる。
そして胸を張った。
「まろやで」
「知らないけど」
「せやろな」
なぜか得意げだった。
意味が分からない。
「お前こそ誰なん」
「……ないこ」
そう答えると、まろは少しだけ目を見開いた。
「へぇ」
「何だよ」
「綺麗な名前やな」
俺は眉をひそめた。
初対面でそんなことを言うやつは初めてだった。
「変なやつ」
「よう言われる」
まろは楽しそうに笑った。
その笑顔が妙に自然で。
少しだけ調子を狂わされた。
それからだった。
俺とまろが話すようになったのは。
最初は偶然だと思っていた。
でも違った。
翌日も。
その次の日も。
神社へ行くとまろがいる。
「またいるのか」
「おるで」
「学校は?」
「サボり」
「堂々と言うな」
「ないこもやろ」
「……」
反論できなかった。
まろはけらけら笑う。
本当に楽しそうだった。
見ているだけで、少しだけ腹が立つくらいに。
気づけば、一緒にいる時間が増えていた。
神社で話した。
海を見た。
駄菓子屋へ行った。
祭りにも行った。
まろは不思議なやつだった。
誰とでも話せるくせに、本当のことはあまり話さない。
好きな食べ物。
好きな歌。
好きな映画。
そういうことは教えてくれる。
でも家族の話になると、はぐらかす。
学校の話もそうだ。
まるで、自分のことを知られたくないみたいだった。
「なあ」
ある日、俺は聞いた。
「なんで神社にいるんだ?」
まろは空を見上げた。
夕焼けが広がっている。
「好きやから」
「理由になってない」
「ほんまやで」
風が吹く。
桜の葉が揺れる。
「ここ、静かやろ」
「まあ」
「静かな場所は好きなんや」
そう言った横顔が少し寂しそうに見えた。
俺はそれ以上聞かなかった。
聞いてはいけない気がしたから。
夏になった。
蝉が鳴いている。
太陽が痛いほど眩しい。
その日、俺たちは海へ来ていた。
砂浜に座りながら、ぼんやり波を見る。
「なあ、ないこ」
「ん?」
「もしさ」
まろが珍しく真面目な声を出した。
「俺がおらんようになったらどうする?」
またそれだ。
前にも聞かれたことがある。
「ならないだろ」
「例えばやん」
「嫌だな」
即答だった。
自分でも驚くほど。
まろが少し笑う。
「なんやそれ」
「だってそうだろ」
俺は海を見る。
「お前がいなくなるとか考えたくない」
波の音が聞こえる。
数秒の沈黙。
そして。
「そっか」
まろは小さく呟いた。
その声は、どこか嬉しそうだった。
その日から。
俺は自分の気持ちに気づき始めた。
まろが笑うと嬉しい。
まろがいないと落ち着かない。
まろが誰かと話していると気になる。
そんな自分がいた。
認めたくなかった。
でも認めるしかなかった。
俺は。
まろが好きだった。
友達としてじゃない。
もっと違う意味で。
だけど。
その想いを言葉にすることはできなかった。
怖かったからだ。
今の関係が壊れるのが。
隣にいられなくなるのが。
だから俺は黙っていた。
ずっと。
ずっと。
秋になった頃だった。
異変に気づいたのは。
まろが学校を休み始めた。
最初は風邪だと思った。
でも違う。
会うたびに顔色が悪くなっていく。
笑っていても。
どこか無理をしているように見える。
「大丈夫か?」
聞くと。
「大丈夫や」
必ずそう答える。
けれど。
大丈夫な人間は、そんな顔をしない。
そしてある日。
俺は偶然、その真実を知ることになる。
病院だった。
白い廊下。
消毒液の匂い。
静かな空気。
その奥に。
まろがいた。
病室のベッドに座っていた。
俺は立ち止まった。
心臓が嫌な音を立てる。
まろも俺に気づいた。
驚いた顔をする。
そして。
困ったように笑った。
「……見つかってもうたな」
その言葉だけで。
全部分かってしまった。
何も聞いていないのに。
全部。
分かってしまった。
胸の奥が冷たくなる。
息が苦しい。
「まろ」
声が震える。
「何なんだよ」
まろは目を伏せた。
窓から差し込む夕日が横顔を照らしている。
そして。
小さく笑った。
「秘密にしたかったんやけどな」
その笑顔は。
今まで見たどの笑顔よりも。
悲しかった。
コメント
1件
読了〜っ!!😭💔🌸 いやもう、まろの「見つかってもうたな」で一気に心臓掴まれた…「秘密にしたかったんやけどな」の笑顔が悲しすぎて、読んでるこっちの呼吸も止まるかと思ったよ…。 この2人の距離感がぎこちなくてあったかくて、でも切なくて。ないこが気づかないふりしてきた恋心と、まろが隠してきた真実が重なるラスト、エモすぎて言葉にならない…続きが気になって仕方ない😢💕
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