「引いた?」
続けて聞いてくる宇佐美。なんか目が合わせられない。口元に手をやりながら今度は首を横にふる。
「……今は…ただ、びっくりしてる」
「そっか」
なんで自分がこんなに動揺しているのかよく分からない。
「それだけ聞けたら十分」
「えっ」
流れを考えればてっきり告白されるものだと思ったのだがそうではないらしい。
短く声を上げれば宇佐美がクスクス笑う。
「だって脈なしかな〜って思ってたんだもん。実際は思ってたより鈍いってだけだったんだけど」
「……お、お前、もうちょい分かりやすくやってくれよ」
さっきからしてやられてばっかりな気がしてそう言えば顔を覗き込まれる。
なんでこんなに余裕そうなんだよこいつ。
「段階踏まないとびっくりするかなって思ってさ。俺はカゲツが嫌じゃないならもっと踏み込んでもいいかなとか考えてたんだよ」
ここで目をそらせば負けな気がして心臓をバクバクいわせながら水色とオレンジで構成された瞳を黙って見つめかえす。
「いきなり大人扱いした方が良かった?」
優しいけれども低い声に、控えめに笑みをたたえた口元に、意地悪したいだけじゃない表情に、いきなりの発言にドキッとする。
「……子供扱いして下さい」
「あはは、分かった」
あまり見たことのない顔をしないで欲しい。心臓に悪い。
からからと彼は笑う。
「じゃあ、告白はまた今度改めてね。それまでちょっと考えておいて」
「……う、うん」
さらっと告白予告をされて返事が遅れる。ずっと宇佐美のペースだ。というか、宇佐美ってこんなに大人っぽかったっけ。
知らない一面の彼にドギマギして、でもそれがなんか悔しくて咄嗟に聞く。
「あ、あのさ」
「うん」
「宇佐美ってなんのお菓子好きなん?」
「俺ねー、チョコが好きなんだよね」
あぁ、そうだ。と言いながら手持ちのバックからごそごそと箱を取り出す。
スライドさせると四角いサイコロ形の小さなチョコが出てきた。
「食べてみな」
1つ掴んでそのまま僕の口の前まで持ってくる。
「口あけて」
ぱちくりと瞬きする。ほら、と宇佐美に促される。恥ずかしく思いながら少し口をあける。
ひょいと口の中に入れられたチョコは 体温が高いせいか、すぐに溶けていく。
苦みのあるカカオチョコ。
「どう?」
「苦い…けどおいしい」
「お、分かる?そういう風味に今ハマってんだよね」
また優しい目で僕を見ている。
慣れなさ過ぎる。くすぐったく感じる優しさに落ち着きなく目線を彷徨わせる。
「宇佐美」
「ん?」
「……何でもない」
好きか嫌いかなんて分からない。
まだ友達だと思っているから。
だけど、この空気感はちょっと居心地良い。なんて思ってしまった。
「じゃ、俺行かなきゃだから」
幾つか言葉を交わすと、 大きく手を振って宇佐美は帰っていった。
口に残る苦いチョコの風味。後味はほんのり甘くてその香りが鼻に抜けていった。