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 オーヴェと、いつもならば自信も力も漲っているような声で名を呼ぶリオンだが、さすがに今夜は違うらしく、何処か弱さすら感じる声で顔を擦り寄せ、ウーヴェの存在を肌で確認するように狭いソファに身体を押さえつけるように身を寄せ手を繋いでいる。

 その様に彼の心が痛み、そんな顔をするなとも言えなかったが、代わりに長く伸びているくすんだ金髪を胸に抱き寄せて青い石のピアスに口を寄せると、甘える様に更に顔を寄せられ目を細めてしまう。

 もしかすると恋人は今まで誰にもこのように甘えたことなどなかったのかも知れないと気付いた彼は、好きなだけ甘えればいいという思いが伝わるように願いつつ胸に抱いた頭にキスをすると、安堵の吐息が胸板に零れ落ちる。

 自分を庇護する存在に総てを委ねている、そんな気配すら感じるような様子にただ胸が痛み、手触りの良い髪に隠れた耳に昨夜の事を悔やみ反省しているのならばもう構わないと囁いた時、やっと胸元から顔を上げた恋人が青い眼に思いを込めて見つめてくる。

 「もう良いと言っただろう?」

 いつまでも落ち込んでいるのはお前らしくないと苦笑混じりに囁き、いつもの陽気なお前はどこに行ったと小首を傾げた彼の前、こんな俺は嫌いかと小さな問いが発せられる。

 「嫌いじゃない」

 例えこの先、また昨日のような顔を見せられ、過去に結びつく恐怖を目の当たりにしたとしても、きっとお前のことを心底嫌いにはなれない。

 「オーヴェ・・・」

 「俺を信じてくれないか、リオン」

 「信じてる」

 ウーヴェの言葉にリオンが即座に返すが、その言葉に更にウーヴェが微苦笑を浮かべ、リオンの前髪を掻き上げながら目を細める。

 「ならどうしてそんなに不安そうな顔をするんだ?」

 「・・・不安・・・?」

 「ああ。そうじゃないのか?────なあ、リーオ」

 ウーヴェのその呼びかけがリオンの奥深くに届いた瞬間、ウーヴェの首筋に噛みつくようにリオンが顔を寄せる。

 幼い頃の事件から首筋に強い力を掛けられてしまうと無条件で身が竦み、小刻みな震えが全身へと伝播しそうになるが、今この力を与えているのが誰であるのかを思い出すことで辛うじて震えを抑え、身体が強張るのを最小に押し止める。

 「不安を感じるのは仕方がない事かも知れ無いな。ただ・・・頼むから忘れないでくれ」

 リオンの後頭部にしっかりと手を宛がって抱き寄せ、くぐもった疑問の声が耳朶の直下で聞こえる事に安堵して目を閉じる。

 「お前を信じ、愛している者がいる事を忘れないでくれ」

 そしてもし可能ならば、いつも周囲を明るく照らし、真冬の凍てつく空気すら溶かす太陽のような笑顔でいてくれないか。

 もう笑わなくて良いと散々告げたウーヴェだが、リオンが彼に望むのと全く同じ心からの笑顔をこそ望んでいた。

 何よりも繊細で、いつもは気配を感じさせないでひっそりと息を潜めているもう一人の自分。その彼が傷付かないように浮かべるものではない、脳裏に思い描くだけでも笑みを浮かべてしまうようなものが良いと告げ、己の言葉通りに笑みを浮かべたウーヴェは、驚きに目を瞠るリオンを今度は真正面から見つめ、そんなに驚くことかと苦笑する。

 「・・・・・・もう一人の自分なんて・・・考えたこともなかった・・・」

 物心着いた頃から笑顔を浮かべることで我が身を守ってきた為、もう一人の自分が心の奥深くに息を潜めていた事にも気付かなかった驚きを現すリオンの額にキスをし、普通の暮らしであれば気付かないだろうと告げると、気付いてしまった者の哀しさを感じ取ったリオンがウーヴェの顔の横に手を着いて額を触れ合わせてくる。

 「オーヴェ・・・オーヴェ・・・」

 「ここにいる」

 何度も名を呼ぶリオンの背中に手を回し、どうしたと根気よく語りかけると大きな溜息が零れ落ち、同時に何か他のものまで落ちたようにリオンが雰囲気を変えて見つめてくる。

 もしかするとそれはウーヴェが初めて見た、飾ることのないリオンの顔かも知れなかった。

 いつもの子供っぽさはある種の擬態だろうと薄々は感じていたが、まさかこんな表情を隠し持っているとは思わず、見下ろされる顔に意味の分からない震えが背筋を伝い、無意識に身体を震わせると小首を傾げた後リオンが小さく笑う。

 「俺が怖いか・・・?」

 「・・・・・・怖いと言うとウソになる。怖くないと言ってもウソになるな」

 初めて目の当たりにする顔の恋人を怖いと言うには想う気持ちが大きすぎて、怖くないと言うには見慣れたはずのロイヤルブルーの瞳に浮かぶ光が強すぎる。

 相反する心を胸の裡で上手く纏めるのではなく、同時に同じ重さでもって存在させたウーヴェは、リオンの手首を掴んで胸に宛がわせて諦観の笑みを浮かべる。

 こんなにも鼓動が速くなっていると苦笑すると、胸に宛がわれた手の代わりに再びリオンが頬を押し当てるように腹這いになる。

 「・・・すげー速い」

 「お前はどうなんだ?」

 こんな風にお前のことを怖いと思う俺が嫌ではないのか。呆れたりしないのか。

 昨夜、まず感謝の言葉も告げずに真っ先に詰った俺を嫌いにはならないのかと、聞きたくて仕方がなかったが必死に押し隠していた思いを平静な声に紛れ込ませたウーヴェは、リオンの頭が擡げられた後、唇に小さな音を立ててキスをされて目を瞠る。

 「俺に嫌われたとお前も思っていたのか?」

 「・・・ああ」

 素直に認めるのはかなり癪だが、ここで下手なプライドから認めずにすれ違うことになるようならば幾らでも認めよう。

 ウーヴェの言葉に青い目を細めたリオンは、俺も全く同じだと苦く笑ったかと思うと、もう一度雰囲気を変えてウーヴェの痩身に抱きつく。

 「考えてた事は同じだったって事か?」

 「そう・・・だな」

 その可笑しさに気付けばガマンすることなど出来ずにどちらからともなく小さく吹き出すと、額と額を重ね合わせる距離でくすくすと笑い出す。

 どちらもお互いに嫌われたのではないのか、呆れられたのではないのかと恐怖を抱き、連絡を取ることにすら怯えてしまった自分達の弱さが滑稽で、次第に肩を揺らして笑いだしてしまう。

 「オーヴェ・・・」

 「・・・おかしいな、本当に」

 互いを想う心は全く同じなのに、自分達は一体何に怯え恐れていたのか。

 「これからは、喧嘩をした後でも出来るだけこうしようか、リオン」

 「・・・うん」

 好きな相手に嫌われる、そう考えるだけでも足が竦んで思考回路は停止してしまうが、自分達の心から目を逸らし、互いの心からも目を逸らすような事だけはしないようにしよう。

 今回の事のように同時に同じ思いを持っている、一つの心を共有する様な関係であってもそれに甘んじることなく確かめあわなければ、気がつけば取り返しのつかない溝が出来ているかも知れないのだ。

 それならば己の過ちも相手の過ちもまずは互いに認め合う事から始め、そして互いを理解し合う事を放棄しないようにしよう。

 額をコツンとぶつけて提案したウーヴェにリオンが息を呑むが、僅かの間を置いて同意の頷きを返し、本当にお前は強い男だとひっそりと囁いて目を閉じる。

 「リオン」

 「本当はさ、俺が守るなんて烏滸がましいのかも知れないけど・・・」

 でも守ることを許してくれとも告げたリオンは、言葉ではない返事を背中に回った腕の温もりから得ると、感謝の思いを此方も言葉ではなく温もりで伝えるように鼻先を軽く触れ合わせた後、薄く開いたままの唇に何時かのように誓いあいつつキスをするのだった。



 二人でシャワーを浴び、互いの口内で舌を遊ばせるようなキスや二人分の唾液に濡れて光る唇を啄むようなキスをしながら身体を洗い終えると、すっかりと習慣付いてしまった事の為にリオンの広い背中を見送ったウーヴェは、手早く済ませてお気に入りのバスローブを羽織ってバスルームを出る。

 ベッドに腰掛けてビールを飲むリオンに目を細め、サイドテーブルの栓を抜いていないそれではなくリオンの手からそれを奪い取ると、シャワーを浴びたことで覚えた喉の渇きを潤すように一気に飲み干す。

 「こっちにあるだろ?」

 「・・・もちろん、それも貰うつもりだ」

 足を広げて座っているリオンの前に立ち、にやりと笑いながらもう一本のビールに手を伸ばそうとしたウーヴェは、腰をしっかりと抱かれた直後、リオンが背後に倒れ込んだ為に危うく顔面からシーツの海に飛び込みそうになるのを手を着いて堪え、何をするんだと睨む為に上体を浮かせようとして失敗する。

 腰に回された腕が想像以上に強い力で拘束していたのだ。

 「リオン」

 離してくれと苦笑混じりに告げればバスローブを勢い良く肌蹴られて肩から落とされてしまい、肘で引っかかって脱げなくなる。

 それを見計らったリオンがにやりと笑い、肌蹴られて露わになった胸に口を寄せると、鼓動を速めた心臓の上辺りをぺろりと舐める。

 身体を解剖しても在処は分からないが必ず存在する心が、同じ時に同じ思いを抱ける幸運にキスをし、くすぐったそうに短い声を挙げるウーヴェに向けて顎を上げる。

 「オーヴェ」

 不自由な腕を何とか動かしてリオンの顔の横に手を着いたウーヴェは、望んでいるものを与え、また己も与えられるように唇を重ね合わせると、そのまま寝返りを打つようにのし掛かられて背中がシーツに沈んでしまう。

 その弾みに離れてしまった唇が名残惜しくて、小さく唇を突き出すと目を細めたリオンも同じ思いから触れるだけのキスをするが、先程のように長く深いキスにはならず、何処か物足りなさをウーヴェが感じてしまう。

 「後で幾らでもしてやるからさ、今はちょっとだけ、ガマンしろよ」

 リオンの呟きが胸に落とされたことに気付き、次いで生まれた鋭い痛みにも似た何かに頭を擡げれば、胸の飾りに軽く歯を立てるリオンの顔が見えて息を呑む。

 「・・・ごめんな、オーヴェ。先に謝っておく」

 「何が・・・だ?」

 「うん────今日はお前を気遣う余裕がない」

 ぎらりと欲情に光る青い眼で見つめられて言葉を無くしたウーヴェだが、心の何処かでは自分こそ抑えが効かないと思っていて、許しを与えるように金髪の中に手を差し入れる。

 「・・・構わない。出来るだけ付き合ってやる」

 幸いなことに女性とは違い、これでも成人男性が持つ平均の体力があると笑いの中に色香を滲ませて囁けば、ならば遠慮などしないと同じく笑みを浮かべたリオンが再度胸の突起に歯を立て、ぴくりと肩を揺らしてしまう。

 「明日・・・っ・・・朝の用意が出来なくても怒るなよ?」

 それを諒承してくれるのならば何時かのように好きなだけ抱け。

 ウーヴェの言葉にリオンがじゃあ明日の朝は何処かのカフェで食べようと返し、更にウーヴェが短く同意を示した後、ひっそりとしているが心の強さを滲み出したような声で言葉を続けた為、それを聞いたリオンが愛してやまないターコイズをじっと見つめる。

 「お前が俺を抱いているのなら、俺もお前を抱いている」

 お前が満足した時は俺も満足するときだと、恋人と同じ気持ちである事を伝えて艶然と微笑んだウーヴェは、左足を持ち上げてリオンの腰に絡める。

 「リーオ・・・・・・俺の太陽。お前が望むだけ熱を与えろ」

 「泣いても知らないからな?」

 「泣かせられるのか?」

 「言ったな」

 至近で顔を寄せ合いつつどちらも男の貌で笑った二人は、儀式のようなキスを交わした後は言葉を交わす余裕など無く、まるで一つの熱の塊に感じる程身を寄せ合いながら青と碧の目に映る男に目を細めてキスを交わすのだった。

 そして、満足するまで男の貌を見せつけ合い、どちらも白熱の瞬間を迎えそうになった頃、涙こそ流すことはないものの抑えられない嬌声を流し、意識すれば正気ではいられない嬌態を曝しつつ恋人の熱を受け入れ受け止めていたウーヴェを見下ろし、重ねた手を口元に引き寄せて浮き出た骨にキスをしたリオンは、跳ねる足を抱え込んで白い髪をシーツに擦り付ける姿に目を細める。

 まとわりつく熱を持った襞が気持ちよくて、またここまで付き合ってくれる事への感謝と、見下ろす恋人の白い身体があまりにも艶めかしくてつい満足気な笑みを浮かべてしまう。

 その瞬間、再度手を重ね合わせて握りしめられ、甲高い悲鳴のような嬌声が上がったかと思うと、薄い腹の上に熱が弾け、それにあわせてリオンもまた熱を吐き出すのだった。



 午後に入って急に寒さが増したように思え、二重窓の外を見れば大粒の雪が降り始めていた夕暮れ、すでに日が暮れて夜と同じ色合いになっている世界を見つめながら恋人の来訪を待っていたのだが、いつもの騒々しさで診察室のドアがノックされ、返事をするが早いかドアが押し開く。

 「ハロ、オーヴェ!」

 いつもの調子でいつもの様にやって来たリオンを笑顔で出迎え、寒くないのかと問えば何事かを思い出すように上空を見つめた後、砂糖が塗されていないシュトレンの様な形に目を細め、それを見たウーヴェが我が身を守るように後退る。

 「寒い!暖めてくれよ、オーヴェ!」

 「・・・不気味な顔を近付けるなっ!」

 デスクを挟んでの攻防だったが、笑みの質を変えたリオンに気付いたウーヴェが動きを止めた瞬間、ひらりとデスクを飛び越えたリオンに捕まってしまう。

 「こらっ!」

 「捕まえた!」

 ムフフフフと不気味に笑うリオンから逃れようと腕を突っ張るが、しっかりと抱きしめられて無理だと悟ると同時に溜息一つで観念し、顔を寄せる恋人の頬を両手で挟む。

 「・・・冷たいぞ、リオン」

 「冷たいか?」

 頬の冷たさに目を細め、自ら目の前の唇にキスをするがその冷たさに一瞬驚いたように身を引いてしまうが、温めてと望まれたことに気付いて熱を移すように唇を重ねると、満足した様にそっと離れて行く。

 「オーヴェ。オーナメントを買いに行こうぜ」

 「そうだな」

 あの日は結局オーナメントを買いに行くことが出来なかったが、今日こそは一緒に行こうと囁き合い、帰る支度をしてクリニックを後にする。

 雪の名残を踏みしめ、人々が店先を覗き込むマルクトにやって来た途端にリオンが彼方此方の店に顔を突っ込み始めるが、その後ろ姿にただ苦笑し、オーナメント選びに参加するのではなく心身を温めてくれるものを飲もうと決めて屋台で買い求める。

 この間は飲めなかったグリューワインのカップを手にしたウーヴェは、目の前でリオンが頭を悩ませつつオーナメントを選んでいるのに目を細める。

 以前買ったものと同じものにすればどうだと言ったのだが、ケチが付けられたような気がして飾りたくないと断言されてしまえば何も言えずただ苦笑したのだ。

 その結果がグリューワインを飲みながら待つという事態であったが、あの夜の出来事からまんじりともしない夜明けを迎えた朝を思い出し、こうして待てる事が実は幸せであると気付く。

 恋人と揃って買い物をする何でもない日常だが、お互いをより深く知るために身を重ねて二人で夜を越えた今、それが本当に嬉しい事だと気付くと、ああ、もう自分はこの青年から離れることが出来ないのだとも気付き、総てを諦めたような顔で白い息を吐いて雪が再び降り始めた夜空を見上げて眼鏡の下で目を細める。

 例えこの間のような狂暴な貌を見せられたとしても、もう嫌うことなど出来ない、好きなのだともう一度胸の裡で呟いた時、背後で息を飲む音が聞こえ、何気なく振り返って目を瞠る。

 彼から少し離れた場所に事件の発端を作った男が、今夜のお相手の肩を抱きながら真っ青な顔で立っていたのだ。

 恐ろしい目にあったにもかかわらず、同じ場所で良く一夜の相手を見つけて飲みに行くことが出来るなと苦笑した時、真っ青な顔のまま震える手を持ち上げてウーヴェに指を突き付けた。

 「お、お前・・・っ!どうしてここに・・・っ!」

 「・・・きみにお前と呼ばれるほど親しかったのかな?」

 礼儀知らずには此方も相応の態度を取らせて貰うと、言葉ではなく表情で伝えたウーヴェに男が尚も何かを叫ぼうとするが、その目がこぼれ落ちそうなほど見開かれたかと思うと、今夜の相手の肩を抱いていた手を離した男が口を覆い、何も話していませんと言いたげな顔で激しく首を振る。

 「?」

 何ごとが起きたのかと訝るウーヴェだったが、その疑問に対する回答を肩に乗せられた温もりから知り、ただ苦笑を浮かべる。

 「あれー?あんた、まだこの街にいたんだ?」

 知り合いの肉屋に連絡しようかなー。

 ウーヴェの肩に顎を乗せ、楽しそうな笑い声を挙げて同じように指さしたのは、先程までオーナメントを選んでいた筈のリオンだった。

 「リーオ」

 「ん?どうした?」

 あんなヤツの相手をする必要はないと、滅多に見られない強い口調と嘲りの表情で男を一瞥したウーヴェは、己の肩に懐くように顎を載せたリオンの髪に手を差し入れて何よりも愛おしいものを見つめる目つきで笑いかけると、沈黙している男に嫣然とした笑みを見せる。

 「この間は言いそびれたが、きみは私のタイプではないんだ」

 例えタイプではないとはいえ振ってしまうとやはり心が痛むから、もし良ければこの街を出て行って、私の心が痛まないようにしてくれないかな。

 言葉だけは丁寧に、だが伝えるそれに氷のような冷たさと痛さを混ぜ込み、どうかぜひそうしてくれと懇願したウーヴェにリオンが口笛を吹き、男が目を瞠って硬直する。

 「あんたにはその人がお似合いだからさ、好きなだけケツを舐め合えよ」

 「・・・・・・こら」

 リオンが僅かに調子に乗ったような事を伝えると間髪入れずに窘める声が掛かり、悪戯っ気を滲ませた顔で舌を出す。

 「もう会うことも無いだろう。それだけがせめてもの救いだな」

 眼鏡の下でターコイズに艶やかな笑みを浮かべ、さっさと自分たちの前から姿を消せと背中を向けると男の顔が怒りに赤くなるが、ウーヴェの肩を抱くように腕を回していたリオンが肩越しに振り返った瞬間、信号機のように赤から青へと変化する。

 「チャオ」

 訝るウーヴェに何でもないと笑みを見せ、ひらひらと男に見えるように手を振ったリオンは、すごく惹かれるオーナメントを見つけたからお前の意見を聞かせてくれとウーヴェの耳に口を寄せて囁くが、リオンの肩越しにウーヴェが背後を振り返った時には男とその一夜の相手の姿は見えなくなっているのだった。

 先日のやりきれない思いを何とか晴らしたウーヴェは、いつまで肩を抱いているつもりだとも告げようとするが、雪が強く降ってきたからと己にも他者にも言い訳するように呟いてリオンの太い腕を首に巻き付けるように身を寄せる。

 「オーヴェ?」

 「首が寒い」

 「そっか」

 己の腕をマフラー代わりにする恋人の目元が微かに赤くなっている事からそれが精一杯の言い訳であることに気付いたリオンは、素直じゃないんだからーと上空に向けて呟きを発するが、気分を切り替えたような顔で飾りを指さしてどうだろうと問いかけ、その横にある方が良いんじゃないかと提案をされると躊躇うことなくそちらをくれと店主に伝える。

 「次の休みにホームに持っていくかぁ」

 「・・・・・・一緒に行っても良いか?」

 お前の話だとあの夜絡んできた若いカップルはホームにいるそうだが、そんな彼らの前に自分が顔を出しても良いだろうかと控え目に問いかければ、何の問題もないときっぱりと返される。

 「あいつらも反省してるみたいだし・・・俺も一応、やりすぎたことは謝ったし。後はお前があの二人を許してやってくれるのなら一緒にホームに帰ろうぜ、オーヴェ」

 「・・・うん」

 リオンの笑顔の言葉に素直に頷いたウーヴェは、もう怒っていないしからかわれたことで落ち込んでもいないと告げ、此方こそ許してくれるだろうかと多少の不安を覚えるが、恋人が大丈夫だと断言した言葉を信じようと雪が降る夜空を見上げ、微かに笑みを浮かべる。

 「グリューワインを買ってくる」

 「もうお代わりか?仕方ないなぁ」

 これだから飲み助は困ると天を仰いで嘆息するリオンをじろりと睨んだウーヴェは、人混みの中でのスキンシップがもたらした温もりと羞恥を誤魔化すためにワインを飲もうとしている事をしっかりと見抜かれている事に気付き、悔し紛れにブーツに包まれた足を思いっきり踏み付けてやる。

 「ぃでぇ!!!」

 踏まれた足を抱えて飛び跳ねるリオンがおかしくてつい小さく吹き出した後、顔色を変えた恋人から逃れるようにワインの屋台へと向かい、目を吊り上げるリオンの前で何食わぬ顔で二杯目のワインを飲み、恋人のころころ変わる表情に楽しげに目を細めるのだった。

  

 この時、一連の騒動の切っ掛けとなった男とウーヴェの出会いと別れは、後日二人の身に別の形で関わってくるのだが、それはまた別の話になるのだった。



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