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肩に置かれた手の力が強くて、そっと離しながら呆れた返事をすると涼太は目尻に涙を貯めて寂しそうに顔を伏せた。少し屈んで、俯いた涼太と目線を合わせて問いかける。


翔『泣くなよ。』


でも、そんな俺の声は涼太には届いていなくて。




―某日。


康「なあなあ、好きな人の考えてる事って触ってたらだいたいわかるらしいで!!」

辰「どこ情報?笑」

大「えー!じゃあ、佐久間さんはみんなの考えてることわかるってこと…?!」

照「え、そういうこと?恋人とかじゃなくて?」

康「そやで!恋人のこと!」

蓮「舘さんとしょっぴーならお互いの考えてること分かりそうじゃない?」

翔「はぁ…?さすがにわかんねえよ笑」

涼「え?俺多分わかるよ?」

亮「翔太今食べたいもの想像してみてよ」

翔「……ん。した。」

ラ「これほんとにわかったらすごいね」

涼「…わかった、焼き鳥。」

翔「正解…。え、パニックパニック。」

大「涼太すげー!!!」

翔「…いや、こえーから!!!!」




―その日、突然声が出なくなった。

みんなでいつも通りリハーサルをしている最中の出来事だった。


「心因性失声症です。」


医師から下された診断結果はあまりにもさっぱりとしていた。ストレスが原因で発声器官と脳のどこにも異常がないのに、ただ声が出なくなる障害。


声は聞こえるし目で見て感じることもできる。日常生活に支障は無いように思えるけれど、職業柄声は毎日発する。特に歌うことが好きな俺にとっては辛いことだった。


もちろん俺は一身上の都合という事で活動を休止した。その間の俺の身の回りの世話は涼太がやってくれることになった。「声が出なければ買い物もままならないだろうから。」という涼太の気遣いだ。こういうところが好きだ。


涼「この青のスニーカー翔太に似合いそう」

翔『めっちゃいいじゃん!』

涼「ふふ、俺も赤の方買おうかな?」

翔『お揃いかよ〜、…いいけど!』


声を発せなくても、涼太は俺の表情や口の動き、身振り手振りでも何を言いたいのか理解してくれる。そんな涼太との時間は楽しくてあっという間に一日が終わっていく。


そんな楽しい日常も長くは続かなかった。


クローンでもなんでも無いのだから、毎回何が言いたいのかわかるなんてことはなくて、だんだんと相違が増えていった。


翔『ここに置いてあった雑誌どこ置いた?』

涼「…?なに?」

翔『だから、雑誌。どこ?って。』

涼「ごめん、わからない。打ってくれる?」


そう言ってスマホの画面を差し出してくる涼太。通じないことがこんなにも苦しくて大変で辛いなんて思わなかった。

2人でふざけあってツボって爆笑する。そんな思い出がフラッシュバックして心がギュッとなる。また涼太と話したい。笑い合いたい。このまま治らなかったらどうなるんだろう。今まで当たり前に出来ていた事の願望と不安な想像ばっかりが雪のように降り積もり続けた。

このままじゃ涼太にも、メンバーにも迷惑をかけ続けることになる。


翔『ねえ、涼太。』

涼「ん?」

翔『これ、見て。』


涼太にスマホの画面を見せる。


俺、グループ辞める。


涼太は驚いた顔をして俺の顔を覗き込む。


涼「…なんで?…治るから。だから…!」


治っても前と同じように歌える自信が無い。

それに、いつ治るかも全然分からないしさ。


涼太の声を遮ってスマホの画面を突きだす。それが涼太とメンバーに迷惑をかけないで済む一番の方法だと思った。これからは1人でこの障害を乗り越えていこう。そう決意した。


涼「翔太!!!」


涼太が俺の肩を掴んで必死に俺の名前を呼んでいる。


翔『涼太。』

翔「ねえ…翔太……!」


返事をしてもなお、涼太は必死な形相で俺の名前を呼び続ける。翔太、翔太って。


翔『もう……。』


肩に置かれた手の力が強くて、そっと離しながら呆れた返事をすると涼太は目尻に涙を貯めて寂しそうに顔を伏せた。少し屈んで、俯いた涼太と目線を合わせる。


翔『泣くなよ。』


でも、そんな俺の声は案の定涼太には届いていなくて。




あの日から1週間。あれから涼太とは一度も会っていない。

メンバーからの全力の説得に折れた俺はグループを脱退しないでずっと休止中のままだ。相変わらず声は出ない。そろそろ声の出し方も忘れているんじゃないかと思う。

事務所の椅子に座ってボーッとしていると1つのスタンドマイクが目に入った。

声が出せなくなった日、リハーサルで使っていたスタンドマイクと良く似ている。


翔『たった360mの2人の時間が―』


試しに歌ってみてもいつもみたいな歌声は出ない。


翔『永遠に変わったらいいのに―』


そんな現実が改めて身に染みる。


翔『そう願い続けて 時にすれ違って―』


喉を抱え、目を閉じて思い切り感情を込める。


翔『見失う夜 何度も越えて だから365日の愛を届けるから あの5分間じゃ言えなかった 心の底から毎日伝えたい これからは君と同じ場所帰ろう―』


やっぱりダメか。本当に歌えないんだなと再確認した瞬間、雪崩(なだれ)のようにやってきた喪失感に襲われて埋もれてしまった。


翔『…ははっ。』


開き直りに近い感情が湧き上がる。それでも喪失感は消えることはなくて、辛くて、苦しくて、音を出せない俺の喉は締め付けられる。

そんな時、足は無意識に動いていた。




玄関チャイムを鳴らすと幼い頃からずっと一緒に居た涼太が出迎えてくれる。つらいことがあると無意識に涼太の家に行ってしまう子供の頃からの癖。


涼「え、翔太…?……入って。」

翔『ありがと』


涼太は俺の隣に座って何をするでもなく一緒に居てくれた。


翔『涼太。』


お互いに同じ方向を向いたまま、俺は隣に居る涼太の名前を呼んだ。ふっと涼太のほうを向いても、涼太は返事をするどころか、気づくことすらも無い。当たり前だ。声が出ていないんだから。


翔太『…涼太……?』


涼太を呼ぶ俺の形のない声が僅(わず)かに震える。喜怒哀楽を共にして、辛いときも寂しいときもずっとそばに居てくれる俺の大好きな涼太。

涼太の頬にそっと右手を添えて、目を見ながら涼太に伝える。


翔『涼太。』

翔『…ごめん、やっぱなんも無い。』


涼太は何を言うでもなく苦しそうな顔をする。


翔『そんな顔するなよ。』

涼「…俺ね、今の翔太を見るのが辛いんだ。」

翔『?』

涼「俺、翔太が歌ってるときが好き。」

涼「翔太がバカ笑いしてるときが好き。」

翔『…うん。』

涼「でも…声の出ない翔太は俺の知らない翔太で。」

涼「思い当たる好きなとこは今の翔太に無くて。」

涼「そんな翔太を嫌いになりたくなくて。」

涼「……ねえ、翔太。」


涼「俺、翔太が好きだよ。」


涙を堪えながら本音を語らってくれた涼太はそう言った途端苦しいほど思い切り俺を抱きしめた。


翔『俺も好きだよ。』


無情にもそんな俺の言葉は案の定、涼太には一切聞こえなくて、届かなくて。

ただただ悔しかった。好きな人と笑い合えない。好きな人と歌えない。好きな人に直接思いを伝えることもできない。


翔『涼太、好き。好きだよ。世界で1番。』

翔『大好きだよ。俺にはずっと涼太しか居ない。』

翔『……ね、俺も好きなんだよ。涼太。』


抱きしめられたまま、ただずっと涼太に思いを伝える。無理だ。と、自然と涙がこぼれる。

涼太を離して両肩を押さえる。涼太と目を合わせて、ちゃんと伝えたい。大好きな人に。


翔『涼太。』

涼「…うん?」


翔「大好きだよ。」


声が出るようになったら涼太に一番最初に伝えたかったこと。自分の喉が振動するのがわかった。涼太は驚いた顔で俺のほうを見ていた。次の瞬間、涼太の目からは一筋の線が頬を伝ってもう一度力強く抱きしめられた。


翔「あ、あれ…俺……。」

涼「…っ、翔太……!!」

翔「……涼太?」

涼「…っ、うん…!俺だよ…!」


声が出た。想いを伝えることが出来た。色んな感情がごっちゃになりながらもお互いを抱きしめ合う。不安も絶望も、心の中に振り積もった全部が溶けていくのがわかった。




―数日後。


翔「……ん…。」

涼「翔太おはよう。」

翔「…ん。……はよ。」

涼「ふふふっ、」

翔「…なに笑ってんだよ。」

涼「当ててみて?」

翔「…………好き……?」

涼「わあ、正解。よく分かったね、凄いね。」

翔「…お前の考えてる事とか…触れればわかる。」

涼「さすが俺の好きな人だね。」




END

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コメント

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大好き

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やばい…めちゃ泣きました……! 最高です…!!

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