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思考に気を取られ、彼への意識が少し緩んでしまった刹那
「!!待って…ッ!」
「っ!離せ!!」
警戒し、常にタイミングを伺っていた彼が僕のその隙を見逃すはずもなく。
近くの窓を勢いで開け、そこからの逃走しかけた彼を後ろから強く抱きしめて捕まえる。
「逃げないで、リリー…!」
「っふざけんな…!つうか、リリーって誰だよ…!!」
「お願いだから逃げないで…!逃げようと、しないで……」
「は……な、おまえ…なんだよ、その面《つら》…………」
逃げ出そうとするリリーを見て、何故かはわからない焦燥感に駆られた。彼を抱き留めたのは衝動のような、反射のようなものだった。
焦燥に駆られた理由も、抱き留めた衝動の理由も、解らない。けど今はそんなことなんてどうでもいい。
今はただ、彼を引き留めることだけに思考を回す。
「………僕は、君と、話がしたいんだ。僕は君が目覚めるまで保護していたけど、君のことは何も知らない。君だって、僕のことを何も知らない。…だからこそ、君がそんなに警戒するのは仕方がない。当然の事だ。僕も起きたばかりで知らない別種族が近くにいたら警戒するし、逃げようとする。理解は、出来るんだ。………けど、お願い。どうか、僕の話を聞いて。僕と話し合いをしてくれないかな」
「…………」
「…………」
彼の抵抗する動きが止み、彼がおもむろに振り返った。
じとり、と心を見透かされそうな真紅に睨まれる。
背中に少し、冷汗をかく。でも表情は一切変えず、目もしっかりと合わせたまま。
緊張感を持った、何時間にも感じられる十秒にも満たない時が経った後。
「……………………わかった。」
たったひと言の判決が下された。
同時に彼の警戒が僅かに緩み、この場に張り詰めていた緊張感が揺らいだ。