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俺は重い気分で、城の北側に位置する部屋の前に立った。静かに扉を開けて中に入り、奥のベッドに近づく。

ベッドの上には、生前と変わらぬ状態で前王が横たわっていた。それもそのはず。魂の抜けた身体が腐らぬよう、毎日防腐の魔法がかけられているからだ。しかも俺にその役目が命じられた。

すぐにでもフィル様を捜しに行こうと決めたのに、また城から出られなくなってしまった。防腐の魔法は毎日かけないとダメだからだ。

俺以外にも魔法を使える者はたくさんいる。なのになぜ、大宰相は俺に命じたのか。いや、命じたのは新王になられたフェリ様だと言っていたな。まあ誰が命じたかはどうでもいい。なぜ俺なのだ?俺はどうあっても城から出られないのか?トラビスなどは、王ご崩御を知らせる使者として、バイロン国に向かったというではないか。

しかし使者として向かう国は、トルーキルやデネス、他にもあるのに、なぜトラビスは頑なに隣国に行くと言ったのだ?

もしや…フィル様は隣国にいる…?

俺は前王の額に手をかざしながら、尚も考える。

この魔法は、葬儀が行われる日まで続けなければならない。だが葬儀の日程はまだ決まっていない。俺はいつになったらフィル様を捜しに行けるのか。この役目を放棄して城を出てもいいだろうか。俺がいなくても誰かが代わりにやるだろ?いつまでも前王に縛られて迷惑だ。

フェリ様の命令を聞いて恩を売っておけば、フィル様を城に呼び戻しやすくなるかもと姑息なことを考えてしまった俺がバカだった。

前王が死んだと聞いてすぐに、城の外へ出ようと試みたが、外に繋がる扉や窓には、まだ魔法がかけられているらしく、俺の身体は痺れて動けなかった。しかし効力は弱くなっている。前王ほど魔法の力がない者がかけている。

「フェリ様か?」

フェリ様も俺を外に出したくないのか。だがそれは、俺をフィル様の元へ行かせたくないという理由ではなく、単に傍にいて欲しいという理由だろう。それならば、しばらくは傍にいてやってもいい。少しでも病状がよくなられた後に城を出ることを許してもらおう。

そう考えていたのだが、フェリ様は一向によくならない。むしろ悪化している。

「これでは、いつまで経ってもフィル様を捜しに行けないではないか…。もう限界だ。城を出る」

誰にともなく呟いて、前王の額から手を下ろした。そしてそうと決めたなら、すぐに支度をしようと扉に身体を向けたその時、扉の外に、中をうかがう人の気配を感じた。

俺は足音を立てずに扉に近づき取手を握った。ゆっくりと引くと、引かれた勢いのままに、小柄な人がこちらへとよろめいた。

咄嗟に受け止めた身体からフワリと香る匂いと手に触れた感触。そんな……本当に?

「あ…ごめん…なさ…」

「…その声…まさ…か」

俯いた小柄な人が謝っている。

俺の声が震える。身体も震えてしまう。

「フィル様…」

俯いた人が顔を上げる。被っていたフードが取れて、美しい銀髪が現れた。

「よく…ご無事で…っ」

「うん…」

俺はフィル様を強く抱きしめた。

これは夢なのか?俺の腕の中に、何よりも大切なフィル様がいる。俺が捜しに行く前に戻ってきてくれた。愛しい俺の至宝。もう二度と離さない。

「ずっと…会いたかった」

「僕も…会いたかったよ」

そう言いながら、フィル様が俺の腕から抜け出そうとする。

俺は離すまいと、さらに強く抱きしめた。

「ラズール…離して」

「嫌です」

「どうして…?僕と一緒に来てくれなかったのに…。なのに今さらっ、会いたいなんて言うなっ」

フィル様が叫んで泣き出した。俺の胸を叩いて子供のように泣きじゃくっている。本当に愛おしくてたまらない。フィル様がこのように感情をぶつけてくるのは俺にだけだ。なんと幸せなことだろうか。

「ラズールのっ…ばか…っ」

「フィル様…申しわけありません!俺もあなたと行きたかった。離れたくなかった。ずっと傍にいると誓った約束を…守りたかった!」

「来なかったくせにっ…!うそつきっ、ラズールはうそつきだ!ラズールなんて…嫌いだっ…!」

「フィル様っ…!俺は…っ、あなたに嫌われては生きていけないっ」

フィル様は拗ねているのだ。俺と一緒に行きたかったのにと拗ねているのだ。だけど嘘でも嫌いだと言われるのは辛い。

俺はフィル様に会えた喜びと嫌いだと言われた悲しみで冷静でいられなくなり、知らぬ間に滅多に流さない涙を流していた。

フィル様が涙に濡れた顔を上げる。

俺は震える手で、目の前の濡れた頬に触れた。

俺の涙を見て驚くフィル様の顔。様々な表情を見せてくれるフィル様の全てが愛おしい。できるならば唇を寄せて涙を吸いたい。小さな唇を塞いで口内へ入りたい。しかし俺の勝手な欲望を押しつけたりはしない。フィル様は俺の宝なのだから。

俺が嫌いだと言われて悲しいと言うと、フィル様は謝ってくれた。本当は何をされても嫌いにはならないと言われて安心した。

フィル様の濡れた頬を袖で拭いながら、ジッと見つめる。しばらく見ない間に、また美しくなられた。人さらいに会うこともなく、よくぞ無事で戻ってきてくれた。これからは俺がフィル様を守ります。何ものからも守ります。だからもう二度と、俺から離れないで。

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