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週の真ん中、水曜日の夜。Ifは、なぜかりうらを指名していた。
「初兎じゃなくて、俺を?」
「たまには違う視点から見てみたいと思ってな。」
「ふーん。……やっぱ変わってるね、まろさん。」
「よく言われる。」
クラブ『DICE』の少し奥まった半個室。
二人だけの空間に、ふわりとした静けさが流れていた。
りうらは意外にも、派手な接客はせず、穏やかに会話を続けていた。
「仕事、大変?」
「……まあな。終電逃すのは日常。」
「……寝れてんの?」
「お前、ホストだろ?客に気遣ってどうする。」
「気になる人には気遣うよ。」
その言葉に、Ifは眉を上げた。
「お前もそれ言うんだな。初兎と一緒だ。」
「……それ、俺が言うと軽く聞こえる?」
「いや、むしろ……」
Ifは、りうらの顔を見つめる。
「お前、照れてんの?」
「……は?」
りうらの耳が、ほんのり赤くなっている。
目を逸らし、グラスを傾ける手がどこかぎこちない。
「嘘だろ、お前が?」
「うるさい。……そういう顔するな。」
「顔?」
「笑ってんじゃん、まろさん。」
Ifは、不意に小さく笑った。
「ああ、悪い。でも……なんか新鮮だな。
お前みたいなやつが照れるの。」
その瞬間、りうらはグラスを置いて、Ifにじっと目を向けた。
「……冗談抜きで、俺は本気で言ってるよ。」
「……」
「初兎さんのこと、好きなら言わない方がいいのかもだけど――
まろさん、マジで、惹かれてる。」
その声は、いつものクールな調子じゃなかった。
熱を帯びた、本気の目だった。
「……ごめん、今の忘れて。」
「忘れないよ。」
「……っ」
りうらは俯いて、いつもの調子に戻ろうとしたが、言葉が詰まっていた。
そのとき――
「なにしてんの?」
静かに、初兎の声が背後から聞こえた。
「……見てた?」
「全部。」
初兎の声は穏やかだったけれど、
その目の奥に、うっすらと嫉妬が滲んでいた。
「まろちゃん。……俺の番、ちゃんとまだ残ってるよね?」