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午前8時、スクランブル交差点の通行人に紛れ、1枚の紙切れを持ちながら彼は歩いていた。
幸いにも平日の朝ということからスーツ姿の人間は少なくなく、違和感は…平然と歩いている事くらいだろうか。
交差点を抜け裏路地に入ると、居酒屋の前で寝ている男性や女性、ホームレスが一際目立つ。
凹凸が酷いアスファルトの上を革靴・スーツ姿で歩いていれば、当然
「そこのお兄さーん」
背後から声を掛けられても不思議ではない。
彼は億劫だと考えたのか、何もする事なくただ聞こえていないフリだけを演じることにした。
「ねぇってば」
人間のスルースキルを舐めてはいけない。
人間は自分より下の人間を助ける人の方が少ない。
”仕事だから”と利益が発生することを前提にしているものが大抵なのにも関わらず、助けられる方はそれを認識せずにいる者もいるのだ。
この声の主もそうなのだろうか。
彼は足を速めながら、手に持つ紙切れに目をやる。
【午前8時半頃、〇〇ビルにて依頼内容を再度確認するので時間厳守で頼む】
はぁ、と溜息が溢れる。
「ねえ」
男の手が彼のコートに迫る__
その瞬間、彼は男を組み敷いた。
「…は?」
一瞬のことに戸惑う男。
よく見ればこの男もスーツ姿だった。
「何のようですかぁ?」
相手の体をアスファルトに潰し乗り、声を被せる。
正直、触りたくないという顔で。
組み敷かれた男の額に薄く汗が浮かぶ。
「ウチのシマでは見かけない顔だったものでね…w」
「あぁそうですか?」
体重を離し、距離を取る彼。
突然組み敷かれた男は「痛たた…」と大袈裟に彼が押さえた部位を持ちながらふらりと立ち上がる。
「慰謝料請求しても良いですかぁ?w」
「あ〜、すいませんね」
そのままその場を離れようとする彼。
しかし、後方から伸ばされた腕に肩を掴まれる。
「敵に背中を見せるとは良い度胸で…ッ」
勢いよく振り被る男の拳を避け、そのまま懐に入り、腰に差し込まれていた拳銃を引き抜く。
カチャ__
「やる気ですかぁ?」
口元のみ嗤う彼。
相変わらず目は■んでいた。
男は両手を上げるが、その顔に反省の色は無い。
彼は腕時計に目をやる。
『PM8:20』
「…時間が押してるので、俺はこれで」
拳銃を路地の隅に置き、その場を離れる彼。
無気力に走る動作は見る者を煽らせるようだった。
路地に残された男は少しの間、クスクスと不適な笑みを浮かべては抑えきれ無かったモノに体を震わせた。
何かを止めようと、一生懸命に。
耳に付いた無線に手を伸ばす。
ピッ__
「面白い人間を発見しましたぁ」
→♡3000
コメント
7件
おもれー男って、コトっすか、、?! 続き楽しみです
えぇ!滅茶苦茶いい展開に、、相手は誰だったのかな、けど面白い人物判定されてるから次はどうなるのかな、この作品も滅茶苦茶好きです!ゆっくりでいいので頑張ってください❤