「あ、なんか近いな。」
第7話:「離れたら、楽になれるんかな。」
チャイムが鳴って、教室の空気がふっと軽くなる。
「樹ー!今日、また帰り─」
光輝の声が聞こえる前に、
俺は鞄を肩にかけて、教室を出た。
廊下の窓の外、空はどんより曇っていた。
風が吹いて、制服の裾が揺れる。
(あかん……また一緒におったら、余計に。)
光輝の笑顔を思い出すたびに、
胸の奥がぎゅっとなる。
“友達”って思ってたら、こんな気持ち、ならんはずやのに。
(離れたら、楽になれるやろか……)
そう思っても、足取りは重かった。
__
次の日。
光輝が俺の席に来て、笑いなが言う。
「なぁ、最近なんか冷たない?俺、なんかした? 」
俺は笑ってごまかす。
「そんなことないって。ちょっと眠いだけ。」
「……ほんまか?」
「ほんまやって。」
けど、目を見られへん。
見たら、何かが溢れそうで怖かった。
_
放課後、光輝は廊下で俺を見つける。
「おい、待てって!」
振り返ると、光輝が小走りで近づいてくる。
「なぁ、ほんまにどうしたん、最近一緒に帰ろ言うても避けるし……俺、なんかしたんやったら言えよ。」
俺は小さく首を振った。
「ちゃうねん……お前は悪くない。
俺が……ちょっと落ち着かへんだけや。」
「落ち着かへんって……なんやそれ。」
光輝の目が、まっすぐ俺を見つめる。
その瞳に映る自分が、逃げたくなるほど苦しかった。
「…離れたら、楽になれるんかな。」
小さな声が、静かな廊下に落ちた。
光輝は言葉を失って、ただ俺を見つめた。
風が吹いて、カーテンが揺れる。
2人の間に、冷たい空気が流れる。
_
家に帰って、俺はベッドに沈み込む。
光輝の顔が、ずっと頭から離れへん。
離れようとしても、
“好き”が消えてくれへんことに、気づいてしまう。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!