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「あ、なんか近いな。」
第8話:『なんで、離れようとすんねん。 』
教室の中、チャイムが鳴っても樹は席を立たへんかった。
ペンをくるくる回しながら、何かを考え込んでる。
俺は、そんな樹をじっと見てた。
前までは、こっちが話しかけたらすぐ笑ってくれたのに。
最近は、目も合わせてくれへん。
「…なぁ、帰り、一緒に行かへん?」
そう声をかけても、樹は小さく笑って首を振った。
「今日はええわ。ちょっと寄るとこあるし。」
「そっか…」
言葉はそれだけやのに、
胸の奥がぎゅってなった。
なんでやろ。
別に、いつも一緒じゃなくてもええはずやのに。
“避けられてる”って思うだけで、
こんなに苦しいなんて。
_
放課後の廊下。
窓から差し込む光の中、
俺は樹の背中を遠くに見つけた。
一人で歩いていくその姿に、
足が勝手に動いた。
「おい、樹!」
呼び止める声に、樹が振り返る。
少し驚いた顔をして、すぐに目を逸らした。
「…なんやねん。」
「なんやねん、ちゃうやろ。最近、お前冷たいねん。」
「別に、そんなつもり─」
「あるやろ!」
思わず声が大きくなった。
自分でも驚くくらい、胸の中がざわついてた。
「俺、なんかしたんか?
なんで、離れようとすんねん。 」
樹は黙って、俯いて何も言わへん。
その沈黙が、俺にはいちばん辛かった。
沈黙の中で、俺は気づく。
(俺、こんな顔、樹にみせたことあったっけ。)
寂しくて、悔しくて、
なんでか分からんけど、泣きそうになった。
「……なんでもええけど、
俺、お前が離れてくの、嫌や。」
小さく、それだけ言った。
樹は驚いた顔で俺を見つめた。
言葉にはせんかったけど、
その瞳の奥に、同じ痛みがあった気がした。
_
家に帰って、俺は天井を見つめながら考える。
「なんで、離れようとすんねん。」
「なんで、離れられたらこんなに苦しいんや。 」
ただの友達やのに─
その言葉が、胸の中で空回りしてた。