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「俺、いつもは父の仕事の補佐みたいなことをしてるんですけど……今回の件は親父を利用させてもらいました。親父の下でばかり働いてたんじゃ井の中の蛙になる。数ヶ月でいいから市役所に出させて欲しいって頼みこんでね。ついでに、その勉強がてら許婚の動向も見極めたいから短大を卒業した日織さんも同じ場所に引き込んで欲しい、とも」
出来れば兄のいる課がいい、許婚に関しては兄に全権を委ねる形で他の男を寄せ付けないように監視させて欲しいとも申し添えておきました、と健二さんがニヤリと笑う。
「兄には許婚のことを知りたいので協力して欲しい、とだけ話しました。俺が自分のために何かしていると知ったら逆に萎縮しそうな気がしたんで、この計画の真意はついさっきまで兄さんも知りませんでしたよ」
お父様である天馬氏が、どこまでそういう、言わば公然とはやってはいけないことをしてくださるか分からなかったけれど、そこはある種の賭けだったこと。
頼んだとおりにことが運ばなかった場合、健二さんご自身が少し積極的に動こうと思っていらしたことなどをお話になる。
「けど……結論から言うと、すべて思惑通りにいきました」と健二さんは苦笑なさった。
「幼い頃から俺たちのことなんて一切興味を持っていない男だと思っていたんですけど……こうしてみると案外子供には甘かったみたいですね」
健二さんは書類上ではちゃんと本名の「神崎健二」で登録なさっていらっしゃるらしい。
けれど、修太郎さんに頼んで都市計画課では偽名でお仕事されることになさったそうで。
「書類関連は俺のも日織さんのも原本は施設管理公社が持ってましたので、小細工するにはある意味好都合だったんです」
そういえば、中本さんが私と高橋さん――実際は健二さんだけれど――は他の臨時職員の方々と違って、市の直雇いではなく、施設管理公社から市へ派遣された形になっている臨職だとおっしゃっていらした。
その話を中本さんからお聞きしたときは、偶然だと思っていたけれど、私たち二人が神崎天馬氏の采配で配属されたのだとしたら、必然的な一致だったのだと思い至る。
考えてみたら、布石はあちこちにあったのです!と思ったら……私は自分の鈍さがほとほと嫌になった。
「公社から市役所へ回ってきた書類は兄さんに行くように細工してもらってたんで、日織さんに俺だとバレないよう、最初から都市計には高橋清として入り込みました。だから兄さん以外はみんな、俺のことを高橋だと信じています」
何でも〝高橋清〟というお名前は、同姓同名ランキング、上位から数えて四位のお名前なんだとか。考えるのが面倒だったのでテキトーにつけました!と笑う健二さんを見て、何となくモヤモヤとしてしまう。
ずっと高橋さんという人格を信じて、お仲間だと慕っていた私の身にもなって欲しいな、とか思ってしまって……。
偽名でした、とかそんな人間は元からいませんでした、とか言われても何となく釈然としなかった。
「日織さんも課長じゃなくて兄さんに課のことを色々と教わったでしょう? あれもそういう経緯からです」
私の気持ちを知ってか知らずか、あっけらかんとそうおっしゃる健二さんに、私は悲しい気持ちでふうっとひとつ、溜め息を付いた。
全ては修太郎さんのため、と思えば許せる気もしたけれど……でも、でも……。
そんな思いがぐるぐると渦巻いてしまう。
「日織さん、本当にすみません」
結局、そんなスッキリしない私の気持ちを察してくださったのは、修太郎さんで。
不意に繋いだままの手をツイ……と引っぱって、私の気を惹かれると、申し訳なさそうに謝っていらした。
「あ、あの……。 すみません、私、もしかして不機嫌なお顔になっていましたか?」と小声で問えば、「いいえ、僕が日織さんと同じことをされたら、と思ったらかなりイラッとしてしまっただけです」と返ってきた。
コメント
2件
健二さん、他にやり方なかったのー!?
うわあ……この話、すごくモヤモヤするけど、それがまたいい……! 健二さんの緻密な計画、全部修太郎さんのためだったっていうのが切なくて、でも日織さんの「高橋さんって人、最初からいなかったんだ……」って気持ち、すごくわかるよ。自分だけ信じてたものが偽物だったって気づく瞬間って、ほんとに悲しいよね。 でも最後の修太郎さんの「僕も同じことされたらイラッとします」ってセリフ、すごく好き。日織さんの気持ちをちゃんと代弁してくれてて、優しさが滲んでた……! 続き、気になるなあ……!
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